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陰ながらずっと彼を支えて来たのに…有名になった途端捨てられたので、復讐してやります!

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「お前のような陰気で地味な女は、もう要らない。俺は…この美しい彼女と結婚する事にした!」

「そういう訳だから…あなたはもう、田舎に帰ったらどうかしら?」

 私の目の前で抱き合い、ニヤニヤと笑う男と女。

 男は、私の恋人で…女は…確か少し前から、彼の絵のモデルを務めて居るご令嬢よね?

 まさか、この二人がそんな関係だった何て─!

「私は、あなたがこの王都に来る前から、ずっとあなたを支えていたのに…!私の支えがあったから、あなたはずっと絵を描き続けて来れたんじゃないの!」

「フン…!そんな昔の事など、もう忘れたよ。俺は今や、貴族の間で引っ張りだこの人気の画家だ。お前の様なつまらん女と結婚するより、この彼女と結婚した方が、より貴族との繋がりも強くなるし、新しい客が付くだろう。最早、お前と一緒に居る事に何の価値もない!」

 そして二人は、部屋を出て行ってしまった─。

 こんなの、あんまりよ…。

 いつか売れっ子の画家になるから…そしたら、君と結婚する。
 そして、これまで尽くしてくれた分、うんと君を大事にするから─。

 そう、あなたは言ってくれたのに…。
 なのにそれをすっかり忘れ、こうも簡単に私を斬り捨てるなど…そんなの、絶対に許さないわ─!

 その時…床に転がって居た、彼の絵筆と絵の具が目に入った。

 これだって、全て私のお金で買った物じゃない。
 それにこのキャンバスだって、私が用意してあげた物だわ。

 だったら…それをどうしようと、私の勝手よね─?

※※※

「…荷物も減ってるし…どうやらあいつ、ちゃんと家を出て行ったようだ。」

「ウフフ…良かったわ、邪魔者が消えてくれて!じゃあ早速、絵の続きを描いて頂戴?」

「分かったよ、そこに座ってくれ。」

 俺はいつもの様に絵筆を手に取ると…夢中で絵を描き始めた。

 何だか…いつもより調子が良いな。
 絵の具の発色も、何だか今日は一段と輝いて見えるというか─。

 そうして俺は、すぐに彼女の絵を完成させた。

「さぁ、出来たよ。見てご覧!」

 そう、彼女に声をかけるが…彼女からは、何の反応もなかった。

 俺は不思議に思い、彼女に声をかけようと席を立った。

 すると、そこには…人形の様に動かずに居る、彼女の姿が─。

「お、おい…どうした!?しっかりしろ!」

 彼女の身体を揺すっても、彼女は何の反応もしなかった。

 すると…どこからともなく、彼女の声が聞こえて来た。

『…よ。私はここよ!』

 不思議に思い辺りを見回せば…どうやらその声は、俺が完成させた絵の中から聞こえてくる様だった。

 驚いた俺は、すぐにその絵を覗き込んだが…そこには、ただ静かに微笑む、美しい彼女の姿があるだけだった。

 だが…耳を澄ますと、やはりその絵から彼女の声が聞こえてくる。

『真っ暗だわ…。お願い…私をここから出して─!』

 余りの事態に、俺は悲鳴を上げ…そして、その場から逃げ出した─。

※※※

「…聞いたか?呪いの絵を描いたせいで、捕まった画家の話!」

「あぁ。何でも、その女を愛する余り、その女の魂を絵に閉じ込めてしまったとか。せっかく売れてきた画家だったのになぁ…。馬鹿な真似をしたものだ。」

「今まで描いた絵は全て処分され、あの呪いの絵は、どこかの神殿に封印されるそうだ。」

 私は、道ですれ違った商人たちの話を聞き…それが、すぐに元恋人の事であると分かった。

 私は裏家業で、呪術師として生計を立て彼を支えていたのだが…あの時、ある呪いを、彼の絵筆と絵の具にかけたのだ。

 それは、魂を呪縛する物なのだが…あの女が途中まで描かれたキャンバスを見て、私はその術をかける事を思いついたのだ。

 愛する女が魂を抜かれ、物言わぬ姿になってしまえば…そうすれば、あなたはさぞや苦しむでしょう─。

 そう思い、術をかけたんだけれど…まさか、彼がその術をかけた張本人で、そして呪われた絵師として捕らえられてしまう事になるとは…そこまでは考えても居なかったわ。

「その男は、そんな恐ろしい絵を世に広めようとした罰で、もうすぐ死罪だそうだが…それで、その魂を取られた女は元に戻るのかね?」

「さぁ、どうだろうなぁ…?」

 そして、商人たちはそのまま去って行ってしまった─。

 あの女は…身体が朽ち果てるまで、ずっとあのままよ?

 魂は、ずっと絵の中に閉じ込められたまま…愛する彼と引き離されたまま、生涯を終えるの─。

「やぁ、今日も来たよ!」

「いらっしゃい。来て下さって嬉しいわ。」

 私は今、とある田舎町で、魔道具や術具を扱う店を開いていた。
 しかし、呪術師であったという事は一切隠している。

 その方が…この先生きて行くには、都合が良いでしょうからね─。

「君の所の商品は、とても質が良いね。」

 この殿方は、暫く前から私の店に通うようになってくれた、ある名家のご子息様だ。

 そして私は、この彼にいたく気に入られ…少し前に、恋人になって欲しいと告げられたのだ。

 そこで…私は、ある腕輪を彼に付けて貰う事にした。

 彼には、お守りだと言って渡したのだが─。

「どうです、あの腕輪。まだ、付けていて下さってますか?」

「勿論!君がせっかく俺にくれた物だ。こうして、肌身離さず付けているよ?」

「…痛くは、ないですか?」

「全然!俺の腕にピッタリで…まさに、俺だけに与えられし加護だと思っているよ。」

「そう…それは良かったです。私…決めました。あなたとのお付き合い、ぜひお受けしたいと思います。」

 私の言葉に、彼は幸せそうに笑っていた。

 実は…その腕輪にはある秘密があって…確かにそれは、彼を守る物でもあるが…もし、あの男の様に私を裏切って居たのだとしたら…その腕輪が彼の腕を締め付け、苦しめる…そういう呪いもかけられていたのだ。

 でも、全く痛みを感じなかったと言うのなら…彼は、清廉潔白だったという訳だ。

 私は、彼の腕輪にかけた呪いを解き…代わりに、これから二人がずっと幸せで居られる様にと…そう、願いを込めたのだった─。
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