怪・家

coco

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1、新居

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 私たち家族は、今日からここに住むことになった。

 郊外こうがいにある、とある一軒家いっけんや

 周りは田んぼが広がり、少し歩いたところに自然公園もある。

 そして学校や公共施設こうきょうしせつ、ショッピングセンターは、歩いて10分程で行ける距離きょりにある。

 マイカーさえあれば、特に不便ふべんに感じることはない。

 ここでなら、私たちはおだやかに暮らすことができるだろう。

 もう、あんな思いをするのは嫌だ。
 好奇こうきの目にさらされて、そのせいで周りに気を使って、いつもビクビクして暮らすのは…。

 この家で、私たち家族はやり直す。

 再び、温かい家庭を取り戻すんだ。

※※※

「では、ここでいいですか?」

「はい、後は私たちで片づけます。」

 大きい家具は引っ越し業者に任せ、細々こまごました荷物は自分たちで少しずつ片づければいい。

 業者の人が部屋を出ていき、私は1人、取り残された。

 子供たちが学校に行っている間に、少しでも片づけておこう。

 あの人は…仕事で遅くなると言っていたから、あてにはできない。
 平日は無理は言えないから、週末に手伝ってもらうしかない。

 それくらいは、やってもらわないと。
 今までとは違うんだから…。

 そもそも、ここに引っ越してくることになったきっかけは、あの人だった。

 あの人…私の夫が、会社の若い女の子と不倫ふりんをしたせいだ。
 
 不倫相手の女の子には、婚約者こんやくしゃが居た。
 その婚約者に不倫がばれ、私はそこから2人の関係を知ることになった。

 私の目の前で、婚約者に土下座どげざをしてあやまる夫…あんな情けない姿、見たくなかった。

 順調に出世コースを歩んでいた夫は、今回の件で会社をクビにこそならなかったものの、支店へと異動いどうになった。

 それに伴い、私たちはここへ引っ越すことになったのだ。

 ああ、もう思い出すのはよそう。
 今日から新しい生活がスタートしたのだから。
 こんなことを考えていたら、気持ちが暗くなってしまう。

 私は顔を上げ、何気なく部屋のかべを見た。

 …あれ、この壁、何だか黒い汚れがある。
 なんだろう、黒いシミ…みたいだな。

 私は、その壁にそっと手を添えた。

 汚れなら、雑巾ぞうきんでふけば落ちるかしら…。

 ピンポーンー。

 玄関のチャイムが鳴った。

 大変、もう子供たちが帰って来た。

 私はあわてて、1階へと降りて行った-。
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