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真実の愛を見つけたと私から去って行った婚約者は、それが過ちだと気付けなかったようです。

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「俺は記憶を失い…その結果、真実の愛を見つけた。だから、婚約破棄してくれ!」

 聞けば彼は、昨日パーティー会場で階段から落ち、記憶喪失になったらしい。

「全く、何も覚えてないのですか?」

「君が俺の婚約者だと聞かされても…正直、君に全く魅力を感じない。今俺が愛しく思うのは、その時俺を介抱してくれたある令嬢だ。」

「介抱…?」
 
「その彼女の美しさと言ったら…俺は、一目で彼女に心を奪われた。俺の愛は彼女に捧げたい。だから俺と婚約破棄を─!」
 
 そんなにしつこく言わなくても、私は─。

「分かりました、あなたの好きにして下さって構いません。」

 その言葉に、彼は満面の笑みを浮かべ、私の元を去って行った。

 本当に、何も覚えてないのね。
 その愛が過ちだと、全く気付いていない─。

※※※

「そういう事で、婚約者とはちゃんと別れて来た。」

「じゃあこれで私は、あなたの婚約者になれるという訳ね。」

「あぁ。君は今日から俺の婚約者…そして、いずれ俺と結婚し妻になるんだ。」

 その言葉に彼女は喜び、俺に抱き着いて来た。

 その時、俺は一瞬何かを思い出しそうになったが…彼女の身体の柔らかさ、温かさにすぐに夢中になり…そんな事はそれ以上気にもしなかった─。

 その後、ベッドの上でまどろんでいると…突然彼女が、真剣な口調でこう言った。

「…また私を抱いた以上、また捨てる事は許さないわよ?」

「…?こんなに美しい君を、俺が捨てるはずないだろう?さぁ…こっちを向いてくれ。もう一度キスがしたい。」

 俺は彼女の肩を掴み、その身を引き寄せたのだが…。

「な、何だその顔!?」

 そこには、俺が惚れ込んだあの美しい顔は存在しなかった。

 そこに居たのは、ブクブクに太り、出来物だらけの醜い顔をした女で…そしてその顔を見た瞬間、忘れていた全ての記憶が蘇った。

「お、お前…どうしてまた、俺の元に…!」

「私、あなたの事が忘れられなくて…。あなたは、魔力で美しく変えた私の顔を大層気に入り愛してくれたけど、この本当の顔は愛してくれなかったでしょう?そして私を、一方的に捨てた。だから私、また新しく美しい顔を作って、パーティー会場であなたに愛を伝えたの。でも…あなたはそんな私を拒否し、逃げようとなさるから─。」

「だから、俺を階段から突き落したんだな…!」

「引き留めようと掴みかかったら、あなたが勝手に落ちたのよ!そして目が覚めたあなたは、何故か記憶を失っていて…美しい私を、また好きになってくれたの。」

「ち、違う!前も言ったが、俺は醜い女は嫌いだ!そんな作り物のお前など、誰が好きに─」

「そう…あなたは、また私を裏切るのね。」

 彼女は途端に恐ろしい顔になり、そして俺の顔に手を伸ばしてきた。

「そんなに醜い私が嫌いなら…あなたも私と同じになればいいのよ。同じ顔になったら、つり合いが取れるでしょう?」

「…え─?」

※※※

「…あの令嬢、とうとう婚約なさったそうよ。」

「まぁ!あんなのと一緒になった殿方って、どんな方なのかしら…悪趣味ねぇ。」

 パーティー会場でひそひそと話す令嬢たちの視線の先には、美しい女と醜い男の二人連れが居た。

「あなたの今の顔なら、女が寄って来なくていいわね。家に帰ったら、元の美しい顔に戻してあげるわ。そしたら、私の相手をたっぷりなさいね?」

「…はい。」

 そう言って暗い顔で返事をしているのは…随分変わり果てた顔になってしまったけど、間違いなく私の元婚約者だわ。

 すると私の視線に気づいたのか、彼は顔を上げ、私の元へ駆けて来た。

「頼む、俺ともう一度やり直してくれ…!俺は、あんな醜い女は嫌だ!あの女と居たら、俺は一生こんな醜い顔のままで─」

「そんなの、自業自得です。」

「え?」

「あなたは私と婚約していながら、美人の女とあらば、見境なく手を出していたでしょう?そんな事だから、あんな女を引っ掛けるのです。その上、真実の愛を見つけたなどと馬鹿な事を言って…。今頃過ちに気付いても、もう遅いんですよ。」

「でも…!」

「それに私、もう新しい婚約相手が居ますから。だから、あなたと復縁する気などありません。」

「そ、そんなぁ…!」

「私はもう行きます。あの女が、怖い顔でこちらを見てますので。もう二度と、私に話しかけないで下さいね?」

 彼はまだ何事かを喚いていたが…私はそれを無視し、その場を去った─。

 あなたが選んだその令嬢はね、陰で「顔面詐欺令嬢」などと言われてる女だったのよ?
 
 そんな事も知らず愛を捧げ、一度は切れた縁をまた再び愛を捧げる事で繋いでしまうとは…。
 
 きっとあなたたちは、真実の愛ではなく、切っても切れない悪縁で結ばれた二人なのでしょうね─。
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