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本当は幼馴染を愛している癖に私を婚約者にして利用する男とは、もうお別れしますね─。
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私の婚約者は、初恋の相手で…彼から婚約の申し出があった時は、とても喜んだものだ。
だが…気掛かりな事が一つあった。
それは…彼と幼馴染の女の距離が、やたらと近いという事だ。
彼の家でお茶をして居る時も、町へ出かける時も…何故か、彼女がくっついて来るのだ。
そしてそんな彼女に対し、彼も特に何も言わず…それどころか、彼女ばかりに話しかけたり、時には手を引いたり…何だか、私ではなく彼女の方を婚約者の様に扱ったのだ。
私は、その状況にとうとう我慢が出来なくなり…彼女に、自分の気持ちを伝えた。
『彼と婚約して居るのは、私です。たまには、彼と二人で過ごしたいから…あなたも、少し遠慮してくれないかしら?』
すると彼女は、目に涙を浮かべ…私に虐められたと、彼に訴え…それを聞いた彼は、必死に彼女を慰め…そして、私に怒鳴ったのだ。
『つまらない嫉妬をするな!俺と彼女の仲は、ずっと昔からのもので…そんな深い関係に、お前が敵うとでも思ってるのか!?』
私は、何も間違った事を言って居ないのに…どうして、こんなふうに怒られないといけないの─?
その疑問は…それから少しして、明らかとなった─。
※※※
ある日、彼の家を後にした私は…忘れ物をした事に気付き、すぐに取りに戻った。
すると…彼の部屋で、彼と幼馴染が何やら楽しそうに話して居るのが聞こえた。
私は声をかける事が出来ず…開いていたドアの隙間から、こっそり中の様子を伺った─。
『…やっと、邪魔者が帰ってくれたわね!何が、自分はあなたの婚約者よ…あの女、あなたに全く愛されて居ない癖に、偉そうに…!』
『そう怒らないでくれ。あいつと婚約して居るのは…あくまで、あいつに利用価値があるからだ。決して、愛して居る訳ではない。俺の愛は…昔から君だけのものだよ。』
『利用価値ね…。確かにあの女を婚約者にしたら、あなたもこの家も幸せになれるけれど…でも、あんな地味で性格も真面目腐ったつまらない女、あなたもうんざりでしょう?』
『あぁ…。でも、君との約束もあるし─』
そして二人は、私に気付かずまだ話を続けた。
私は、ただあなたに利用されて居ただけだった…。
でも私は、あなたと婚約出来た事をとても嬉しく思って居たのに…。
そして、あなたを心から愛していたのに…こんな裏切り、とても許せないわ─!
私は、彼の家にあったある物を奪い…そこを後にした。
これであなたはには、もう幸せは訪れない。
人の心を弄び、傷付けた罰を受ければいいのよ─。
※※※
彼女との楽しい時間を過ごしていると…突然、部屋のドアを激しく叩かれた。
「何なんだ、騒々しい…。」
「まさか、あの女じゃないでしょうね?」
部屋に入って来たのは、俺の父だった。
「父上は、確か隣の領地で、商談だったはずじゃ─。どうして、もうお帰りに…!?」
すると父は…ある物を俺に見せて来た。
「これを見ろ!全ての宝石が、ただの石ころになってしまった!こんな物、いくらあっても何の商売にもなりはしない!」
「全てって…まさか、家に保管してある物もですか?」
「そうだ。慌てて帰って来て、確認したら…全て石に変わって居た。そして…宝石を生み出す魔石が、姿を消していたんだ。あれが無ければ…もう宝石は手に入らん。そうなったら、この家はお終いだ!」
「そ、そんな…。」
「じゃ、じゃあ…あなたの家は、もう商売が出来ない…貧乏になっちゃうって事!?」
「この家だけではない!お前の家だって、この家の宝石を加工し調度品を作り、商売をして居るじゃないか…。どちらの家も、宝石が手に入らなくなったからには、もう終わりだ─。だが…こうなったのも全ては、お前達が彼女を裏切るような真似をしたからだ!」
父はこの家に帰る途中、何かを抱えた俺の婚約者とすれ違ったらしい。
そしてその何かとは…俺の家に祀られている、魔石のように見えたと言う。
「彼女が、元はただの綺麗な石だったあれに魔力を注いだ結果…宝石を生み出す不思議な石が生まれた。それを私が譲り受け…その礼として、彼女の初恋相手だったお前を婚約者にし、一生大事にするという約束だったのに…。お前だって、彼女を気に入ったと言ったではないか!なのに、どうしてその娘とそんな関係に…。」
「俺が気に入ったのは、あの女の持つ力で…ただ、それだけで─」
「言い訳はいいから、早く彼女に謝って来い!そして、何としてもあの石を返して貰うんだ─!」
※※※
「…という事で、どうか許してくれ!そして、その石を返してくれ!」
そう言って、彼は必死に頭を下げた。
「あなたは…私を傍に置き、もっと多くの魔石を生み出させ…今より沢山の宝石を得て、事業を拡大させようとしていた。そして得たお金で、あの幼馴染に裕福な生活をさせてあげると約束してたのでしょう?」
「ど、どうしてそれを…!」
「あの女と、そう話してたじゃない!あなたが私を愛して居ない事、利用価値があるから傍に置いて居ただけという事…よく分かりました。」
「こ、これからは、ちゃんとお前も大事にするから─」
「お前も?もって、どういう事です?私だけを大事にするというなら分かりますが…。あなた、私に謝罪しに来たのよね?」
私の言葉に、彼は冷や汗を流し俯いてしまった。
「もういいわ…この石は、返してあげる。ただし…もう、私と婚約破棄して下さい。」
「い、石さえ返して貰えれば、俺はもうそれで構わん─!」
そして、彼はその石を掴むと…逃げる様に帰って行った。
馬鹿ね…。
それがあの魔石だと、私は一言も言ってないわ─。
彼が持って行ったのは…ただの美しい石だった。
彼の家から魔石を持ち帰った私は…それとそっくりの、美しい石と取り換える事にしたのだ。
そして、彼が心の底から謝りに来たら…彼の過ちを許し、あの魔石を返してあげようと思ったのだ。
でも…結局、そうはならなかったわね─。
その後、ただの石を持ち帰った彼は…すっかり呆れた父親から縁を切られ、幼馴染の女と共に家を追い出されてしまった。
その結果…彼は愛する幼馴染に、裕福な暮らしどころか貧乏生活を送らせる事になり、それを彼女から酷く責められ…今や二人の仲は、すっかり冷え切ってしまっているという。
そのせいで、彼から復縁を願う手紙が届いたが…そんなの、お断りよ。
だって私は、あれから新しい婚約相手と出会い…近く結婚する予定だもの。
お相手は、魔石や魔力が欲しいんじゃない…君自身が欲しいと言って下さった方で…私の事を、心から愛して下さっている事が、しっかり伝わって来た。
だから私は、彼の元へ嫁ぐ事を決めたのだ。
私の持つ力にしか惹かれなかったあなたとは…もう、永遠にお別れなのよ─。
だが…気掛かりな事が一つあった。
それは…彼と幼馴染の女の距離が、やたらと近いという事だ。
彼の家でお茶をして居る時も、町へ出かける時も…何故か、彼女がくっついて来るのだ。
そしてそんな彼女に対し、彼も特に何も言わず…それどころか、彼女ばかりに話しかけたり、時には手を引いたり…何だか、私ではなく彼女の方を婚約者の様に扱ったのだ。
私は、その状況にとうとう我慢が出来なくなり…彼女に、自分の気持ちを伝えた。
『彼と婚約して居るのは、私です。たまには、彼と二人で過ごしたいから…あなたも、少し遠慮してくれないかしら?』
すると彼女は、目に涙を浮かべ…私に虐められたと、彼に訴え…それを聞いた彼は、必死に彼女を慰め…そして、私に怒鳴ったのだ。
『つまらない嫉妬をするな!俺と彼女の仲は、ずっと昔からのもので…そんな深い関係に、お前が敵うとでも思ってるのか!?』
私は、何も間違った事を言って居ないのに…どうして、こんなふうに怒られないといけないの─?
その疑問は…それから少しして、明らかとなった─。
※※※
ある日、彼の家を後にした私は…忘れ物をした事に気付き、すぐに取りに戻った。
すると…彼の部屋で、彼と幼馴染が何やら楽しそうに話して居るのが聞こえた。
私は声をかける事が出来ず…開いていたドアの隙間から、こっそり中の様子を伺った─。
『…やっと、邪魔者が帰ってくれたわね!何が、自分はあなたの婚約者よ…あの女、あなたに全く愛されて居ない癖に、偉そうに…!』
『そう怒らないでくれ。あいつと婚約して居るのは…あくまで、あいつに利用価値があるからだ。決して、愛して居る訳ではない。俺の愛は…昔から君だけのものだよ。』
『利用価値ね…。確かにあの女を婚約者にしたら、あなたもこの家も幸せになれるけれど…でも、あんな地味で性格も真面目腐ったつまらない女、あなたもうんざりでしょう?』
『あぁ…。でも、君との約束もあるし─』
そして二人は、私に気付かずまだ話を続けた。
私は、ただあなたに利用されて居ただけだった…。
でも私は、あなたと婚約出来た事をとても嬉しく思って居たのに…。
そして、あなたを心から愛していたのに…こんな裏切り、とても許せないわ─!
私は、彼の家にあったある物を奪い…そこを後にした。
これであなたはには、もう幸せは訪れない。
人の心を弄び、傷付けた罰を受ければいいのよ─。
※※※
彼女との楽しい時間を過ごしていると…突然、部屋のドアを激しく叩かれた。
「何なんだ、騒々しい…。」
「まさか、あの女じゃないでしょうね?」
部屋に入って来たのは、俺の父だった。
「父上は、確か隣の領地で、商談だったはずじゃ─。どうして、もうお帰りに…!?」
すると父は…ある物を俺に見せて来た。
「これを見ろ!全ての宝石が、ただの石ころになってしまった!こんな物、いくらあっても何の商売にもなりはしない!」
「全てって…まさか、家に保管してある物もですか?」
「そうだ。慌てて帰って来て、確認したら…全て石に変わって居た。そして…宝石を生み出す魔石が、姿を消していたんだ。あれが無ければ…もう宝石は手に入らん。そうなったら、この家はお終いだ!」
「そ、そんな…。」
「じゃ、じゃあ…あなたの家は、もう商売が出来ない…貧乏になっちゃうって事!?」
「この家だけではない!お前の家だって、この家の宝石を加工し調度品を作り、商売をして居るじゃないか…。どちらの家も、宝石が手に入らなくなったからには、もう終わりだ─。だが…こうなったのも全ては、お前達が彼女を裏切るような真似をしたからだ!」
父はこの家に帰る途中、何かを抱えた俺の婚約者とすれ違ったらしい。
そしてその何かとは…俺の家に祀られている、魔石のように見えたと言う。
「彼女が、元はただの綺麗な石だったあれに魔力を注いだ結果…宝石を生み出す不思議な石が生まれた。それを私が譲り受け…その礼として、彼女の初恋相手だったお前を婚約者にし、一生大事にするという約束だったのに…。お前だって、彼女を気に入ったと言ったではないか!なのに、どうしてその娘とそんな関係に…。」
「俺が気に入ったのは、あの女の持つ力で…ただ、それだけで─」
「言い訳はいいから、早く彼女に謝って来い!そして、何としてもあの石を返して貰うんだ─!」
※※※
「…という事で、どうか許してくれ!そして、その石を返してくれ!」
そう言って、彼は必死に頭を下げた。
「あなたは…私を傍に置き、もっと多くの魔石を生み出させ…今より沢山の宝石を得て、事業を拡大させようとしていた。そして得たお金で、あの幼馴染に裕福な生活をさせてあげると約束してたのでしょう?」
「ど、どうしてそれを…!」
「あの女と、そう話してたじゃない!あなたが私を愛して居ない事、利用価値があるから傍に置いて居ただけという事…よく分かりました。」
「こ、これからは、ちゃんとお前も大事にするから─」
「お前も?もって、どういう事です?私だけを大事にするというなら分かりますが…。あなた、私に謝罪しに来たのよね?」
私の言葉に、彼は冷や汗を流し俯いてしまった。
「もういいわ…この石は、返してあげる。ただし…もう、私と婚約破棄して下さい。」
「い、石さえ返して貰えれば、俺はもうそれで構わん─!」
そして、彼はその石を掴むと…逃げる様に帰って行った。
馬鹿ね…。
それがあの魔石だと、私は一言も言ってないわ─。
彼が持って行ったのは…ただの美しい石だった。
彼の家から魔石を持ち帰った私は…それとそっくりの、美しい石と取り換える事にしたのだ。
そして、彼が心の底から謝りに来たら…彼の過ちを許し、あの魔石を返してあげようと思ったのだ。
でも…結局、そうはならなかったわね─。
その後、ただの石を持ち帰った彼は…すっかり呆れた父親から縁を切られ、幼馴染の女と共に家を追い出されてしまった。
その結果…彼は愛する幼馴染に、裕福な暮らしどころか貧乏生活を送らせる事になり、それを彼女から酷く責められ…今や二人の仲は、すっかり冷え切ってしまっているという。
そのせいで、彼から復縁を願う手紙が届いたが…そんなの、お断りよ。
だって私は、あれから新しい婚約相手と出会い…近く結婚する予定だもの。
お相手は、魔石や魔力が欲しいんじゃない…君自身が欲しいと言って下さった方で…私の事を、心から愛して下さっている事が、しっかり伝わって来た。
だから私は、彼の元へ嫁ぐ事を決めたのだ。
私の持つ力にしか惹かれなかったあなたとは…もう、永遠にお別れなのよ─。
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