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愛する婚約者に、生贄になれと命じられましたが…身勝手な者達には、罰が下る事になりました。
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ある日私は、婚約して居た領主様に呼ばれた─。
「お前を、この地の神に捧げたい。」
「…それは、生贄という事ですか?」
「そうだ。お前は…神に愛された娘だからな。」
神に愛された娘─。
私がそう言われる様になったのは…神殿にて、この地の守護神と対話をしたからだ。
「…お兄様、お話は終わりました?」
「あぁ。彼女に、ぜひ協力をするよう頼んだよ。彼女が生贄になれば、直に病も収まるだろう。そうすれば、お前の身体もすぐに善くなるはずだ。」
彼女は、最近この地に戻って来た彼の妹だ。
妹と言っても、彼とは血が繋がって居ないが…彼は、彼女の事を溺愛していた。
そんな愛する妹が、その謎の病に罹り…彼は、とうとう私を、生贄に捧げる事を決めた様だ─。
※※※
「もっと早く、あの女を生贄に捧げれば良かったわ!」
「それはそうだが…いくら領主といえど、そう簡単に生贄の儀式を実行する事は出来ない。それに…神殿の奴らも色々と口うるさくてな。だからあいつらには内緒で、俺が儀式を執り行う事にした。お前は、俺の傍で見守って居てくれ。」
「分かったわ、お兄様!」
そして、その日がやって来た。
「さぁ、この衣装に着替えるんだ。」
俺は、あの女に花嫁衣裳を差し出した。
これは、本当は俺たちの結婚式でこの女が着る物だったが…俺はあの妹が戻って来てからというもの、この女と結婚する気が失せて来ていた。
俺は、血の繋がらないあの妹が好きで堪らなかった。
彼女が、俺の妹になった時から可愛くて仕方なかったが…こうして共に暮らす事になった今、俺は…一人の女として、あの子を愛している。
そしてあの子も、俺と同じ気持ちだ─。
「どうした…早く受け取れ!」
「私は…生贄になどなりません。あの話は、お断りします。」
「な、何を今更─!」
「そ、そうよ…あなたが生贄にならなきゃ、この地は─」
「私が生贄になるより…あなたが犠牲になった方が、この病はすぐに収まると…そう守護神は仰ってましたよ?」
「な、何ですって!?」
※※※
「この病の原因は…呪われた彼女が、この地に帰って来た事に始まります。」
「呪い…?」
「彼女は…留学先の国である娘を虐め…その娘に、呪いを受けてしまった。それで、この地へ逃げ帰って来たという訳です。自分を蝕む呪いに恐れをなした彼女は…ある呪術師を雇い、その呪いをこの地の民にばら撒く事で、自分の身を守ろうとした。でもそれでも呪いの力は収まらず…私をこの地の守護神に生贄として捧げる事で、呪いから解放されようとしたのです。私を生贄に、という提案を最初にしたのは…彼女でしょう?」
「た、確かに…。」
「わ、私は、呪いなんて知らないわよ!お兄様、こんな女の言う事に惑わされないで!」
「いい加減、自分の罪を認めたらどうだ。そんな腐った心根をしているから、そんな呪いに身を侵されるんだ。」
現れたのは、神殿の神官長だった。
「彼女を勝手に生贄に捧げるなど…この俺が許す訳がないだろう。神に愛された彼女をそんな目に遭わせたら、この地の状況は更に悪化してしまう。お前は領主として、取り返しのつかない事をする所だったんだぞ!」
「う、うぅ…。」
彼は…力なく、その場に崩れ落ちた。
そして駆けつけた神官たちにより、彼と妹は捕らえられ、連れて行かれた。
「…大丈夫か?」
「ありがとうございます、神官長様。生贄の件、急ぎあなたにご相談して、本当に良かったです。」
彼に生贄になれと告げられたその日の内に、私はすぐに神殿へと走り…この神官長様に相談をしたのだ。
すると彼は、絶対にその話を断るようにと言ってくれた。
そして、彼の妹の事で気になる噂があると言い…それを、詳しく調べてくれたのだ。
「あの女の身体に呪いを戻せば、すぐに病に苦しむ者は元気になる。だから、君が生贄になる必要など、どこにもないんだ。俺は…君をあんな男の為に失うなど、絶対に嫌だった。間に合って、本当に良かった─。」
そして、神官長様は私の手を取り…こう続けた。
「俺は…君が神殿で祈りを捧げる姿を見て、一目で心を奪われた。でも、君にはあの婚約者が居て…俺はこの気持ちを、ずっと心に秘めておくつもりだったが…もう、そんな事はしない。これからは、俺の傍に居てくれないか?俺の隣で、祈りを捧げて欲しいんだ。」
神官長様の言葉に、私は一瞬驚いたが…彼の真剣な目を見た時、私の気持ちは決まった。
「私…これからはあなたの元で、この地の為に祈ります。そしていつか必ず、私を救って下さった心優しきあなたの気持ちお応えします─。」
こうして私は、神官長の傍で過ごす様になり…やがて私達は、公私共に深い仲になって行った─。
一方、捕らえられたあの二人だが…彼は、神の愛し子である私を殺そうとしたとして、領主の座を失い、この地から追放された。
そして、呪いを体に戻された妹は…その後に病が悪化し、この世を去る事となった。
すると、途端にこの地の民を苦しめていた病は消え去り…再び、平穏な暮らしが戻って来たのだ。
守護神様と神官長様の、仰った通りになったわね。
この先、二度とあんな恐ろしい病が広がらぬよう、私は愛する神官長様と共に、この地を守って行くわ─。
「お前を、この地の神に捧げたい。」
「…それは、生贄という事ですか?」
「そうだ。お前は…神に愛された娘だからな。」
神に愛された娘─。
私がそう言われる様になったのは…神殿にて、この地の守護神と対話をしたからだ。
「…お兄様、お話は終わりました?」
「あぁ。彼女に、ぜひ協力をするよう頼んだよ。彼女が生贄になれば、直に病も収まるだろう。そうすれば、お前の身体もすぐに善くなるはずだ。」
彼女は、最近この地に戻って来た彼の妹だ。
妹と言っても、彼とは血が繋がって居ないが…彼は、彼女の事を溺愛していた。
そんな愛する妹が、その謎の病に罹り…彼は、とうとう私を、生贄に捧げる事を決めた様だ─。
※※※
「もっと早く、あの女を生贄に捧げれば良かったわ!」
「それはそうだが…いくら領主といえど、そう簡単に生贄の儀式を実行する事は出来ない。それに…神殿の奴らも色々と口うるさくてな。だからあいつらには内緒で、俺が儀式を執り行う事にした。お前は、俺の傍で見守って居てくれ。」
「分かったわ、お兄様!」
そして、その日がやって来た。
「さぁ、この衣装に着替えるんだ。」
俺は、あの女に花嫁衣裳を差し出した。
これは、本当は俺たちの結婚式でこの女が着る物だったが…俺はあの妹が戻って来てからというもの、この女と結婚する気が失せて来ていた。
俺は、血の繋がらないあの妹が好きで堪らなかった。
彼女が、俺の妹になった時から可愛くて仕方なかったが…こうして共に暮らす事になった今、俺は…一人の女として、あの子を愛している。
そしてあの子も、俺と同じ気持ちだ─。
「どうした…早く受け取れ!」
「私は…生贄になどなりません。あの話は、お断りします。」
「な、何を今更─!」
「そ、そうよ…あなたが生贄にならなきゃ、この地は─」
「私が生贄になるより…あなたが犠牲になった方が、この病はすぐに収まると…そう守護神は仰ってましたよ?」
「な、何ですって!?」
※※※
「この病の原因は…呪われた彼女が、この地に帰って来た事に始まります。」
「呪い…?」
「彼女は…留学先の国である娘を虐め…その娘に、呪いを受けてしまった。それで、この地へ逃げ帰って来たという訳です。自分を蝕む呪いに恐れをなした彼女は…ある呪術師を雇い、その呪いをこの地の民にばら撒く事で、自分の身を守ろうとした。でもそれでも呪いの力は収まらず…私をこの地の守護神に生贄として捧げる事で、呪いから解放されようとしたのです。私を生贄に、という提案を最初にしたのは…彼女でしょう?」
「た、確かに…。」
「わ、私は、呪いなんて知らないわよ!お兄様、こんな女の言う事に惑わされないで!」
「いい加減、自分の罪を認めたらどうだ。そんな腐った心根をしているから、そんな呪いに身を侵されるんだ。」
現れたのは、神殿の神官長だった。
「彼女を勝手に生贄に捧げるなど…この俺が許す訳がないだろう。神に愛された彼女をそんな目に遭わせたら、この地の状況は更に悪化してしまう。お前は領主として、取り返しのつかない事をする所だったんだぞ!」
「う、うぅ…。」
彼は…力なく、その場に崩れ落ちた。
そして駆けつけた神官たちにより、彼と妹は捕らえられ、連れて行かれた。
「…大丈夫か?」
「ありがとうございます、神官長様。生贄の件、急ぎあなたにご相談して、本当に良かったです。」
彼に生贄になれと告げられたその日の内に、私はすぐに神殿へと走り…この神官長様に相談をしたのだ。
すると彼は、絶対にその話を断るようにと言ってくれた。
そして、彼の妹の事で気になる噂があると言い…それを、詳しく調べてくれたのだ。
「あの女の身体に呪いを戻せば、すぐに病に苦しむ者は元気になる。だから、君が生贄になる必要など、どこにもないんだ。俺は…君をあんな男の為に失うなど、絶対に嫌だった。間に合って、本当に良かった─。」
そして、神官長様は私の手を取り…こう続けた。
「俺は…君が神殿で祈りを捧げる姿を見て、一目で心を奪われた。でも、君にはあの婚約者が居て…俺はこの気持ちを、ずっと心に秘めておくつもりだったが…もう、そんな事はしない。これからは、俺の傍に居てくれないか?俺の隣で、祈りを捧げて欲しいんだ。」
神官長様の言葉に、私は一瞬驚いたが…彼の真剣な目を見た時、私の気持ちは決まった。
「私…これからはあなたの元で、この地の為に祈ります。そしていつか必ず、私を救って下さった心優しきあなたの気持ちお応えします─。」
こうして私は、神官長の傍で過ごす様になり…やがて私達は、公私共に深い仲になって行った─。
一方、捕らえられたあの二人だが…彼は、神の愛し子である私を殺そうとしたとして、領主の座を失い、この地から追放された。
そして、呪いを体に戻された妹は…その後に病が悪化し、この世を去る事となった。
すると、途端にこの地の民を苦しめていた病は消え去り…再び、平穏な暮らしが戻って来たのだ。
守護神様と神官長様の、仰った通りになったわね。
この先、二度とあんな恐ろしい病が広がらぬよう、私は愛する神官長様と共に、この地を守って行くわ─。
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