副会長様の秘め事

紅音

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来る転校生

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「そういう雫ちゃんは、どうして生徒会室に戻ってきたの?」

に呼び出されたんです。転校生の案内を終えたら生徒会室へ来いと。

まあ、当の本人はおらず、…なぜかいたのはあなた達でしたが。」

まったく、何をやっているんだか。

そう雫が呟いたタイミングで、生徒会室の扉が開いた。


「遅かっ__……、…それはいったい…」

「猫だ。」

真顔で答える目の前の男に、頭を抱えたくなる。

「そんなこと、見ればわかります!いったいどこから連れてきたんですか?!」

「寮の前に居たから、拾ってきた。」

「………はぁ……。」

深いため息をつく雫をよそに、会長は猫を抱えたまま生徒会室の中へと入ってくる。

「わー!可愛い~!にしても蘭生も猫拾ったりするんだねぇ、超意外。」

「俺は犬より猫派だ。」

「うん、そゆことじゃないよ~」

どかっと自分の席に座り、膝の上に猫を乗せた会長はこっちに来い、と言うように人差し指を雫に向かって動かしている。

その態度にピキッと額に青筋を立てながらも、雫はなんとか笑めを保ったまま会長に近付いた。

「何ですか?」

「転校生、…有栖美央はどうだった?」

「はぁ。またそれですか。
そうですね、…悪い意味で想像以上でした。

この時期に転校してくるということで、少し前から話に出ていましたが、やはり風紀委員会からの監視対象になるのは間違い無いかと。」

「ほう。……ただでさえ校内での問題が多発していると言うのに、これ以上増やされたらたまったものではない。
あの無能とその手下共には頑張ってもらわねばな。」

あの無能、というのは風紀委員長のことだ。

なんでも、会長の家と風紀委員長の家が経営している企業は昔からライバル同士らしく、親同士はもちろん、その子供である会長達もバッチバチに睨み合っているんだとか。

「校内で問題かぁー。」

晴喜先輩がパクパクと自分で持ってきた高そうなクッキーを食べながらつぶやく。

……校内で起こる問題。

それもまた、私がこの学園に来て頭を抱えたくなった理由の一つだった。

全国から財界のトップや政治家の息子達が溢れるほど集まるこの学園には、山の中という閉鎖的な環境のせいか、学園の生徒の8割が同性愛者だ。
そして残り2割のうち1割は両性愛者、そしてもう1割がノーマルなのである。


その為、男性同士が手を繋ぎあったり、甲高い歓声が上がったりは日常茶飯事であり、……時には主に可愛い系の生徒が強姦の被害に遭いそうになることだってある。

そして、極めつけと言わんばかりに、この学園には、謎のランキングがある。

それはずばり、"抱かれたい男ランキング"と"抱きたい男ランキング"だ。

ランキング上位者のほとんどがどこかの委員会の委員長や、副委員長を務めている。

本当、こんなに不名誉なランキングを考えた人はいったい誰なんでしょう。

1発殴らさせてもらいたいですね。

「でもさ、転校生ってあの理事長の甥でしょ?

しかもこの学園に来たんだから、それなりに頭もいいはずだし、そんな深く考えなくてもいいんじゃない?」

「晴喜先輩はまだ彼に会っていないからそんなことが言えるんです。

あんなの……、問題になるに決まっています。
私のことを呼び捨てして、いかにも横暴で傲慢そうな人です。本当に最悪です。」

「「しーちゃん顔こわーい!眉間にシワ寄りまくりじゃん!」」

きゃはは、と笑う双子に、ああ、それはすみません、と言って、今度はニッコリと満面の笑みを見せてあげた。

「「ひっ、目が笑ってない!ホントにこわいよー!!」」

そこまで怯えなくてもいいじゃないですか。

そんなことをしていると、キーンコーン、とチャイムが鳴り出した。

「はあ。一限目が終わってしまったではないですか。
会長が猫なんかにかまって遅れて来るからですよ。」

「フン。こいつの名前はアクアだ。」

「話を聞きなさい。それとその名前ではネーミングセンスゼロどころかマイナスです。そんな一昔前のキラキラネームみたいな名前、この子も嫌に決まっているでしょう。その証拠に会長の事威嚇してますよ。」

猫はぴょんっ、と会長の膝から飛び降り、とことこと雫の足下へやってきた。

しゃがんで顎の下を撫でてやると、猫は目を細めて嬉しがった。


その後それぞれ案を出し合い、最終的に名前はきなこになった。

茶トラ猫だったし、ぴったりな感じがしてよかった。


そんなこんなで私達は結局生徒会室で午前中を過ごし、気付けばお昼の時間になっていた。

「俺今日弁当持って来てないから食堂行くけど、みんなはどうする?」

「「ぼくたちも晴喜先輩と一緒にいくー!」」

「俺と雫はもう少ししたら行くから、先に3人で行っててくれ。」

「えっ、いや私は――、」

「りょーかい。どうせならりっくんも誘っちゃおっか。」

「あっ、ちょっと…!」

引き止める雫の声を無視して、バタン、と生徒会室の扉が閉まる。


二人きりになり、雫は椅子から立ち上がった会長に詰め寄った。

「会長、どういうつもりですか。」

「たまには皆で食べるのもいいだろう?」

「っ…、ふざけないでください…!」

「ふざけているのはどっちだこのが。」

「なっ、失礼な!誰がビッチですか!!言っていいことと悪いこと――わっ、…何す、」

腕を掴まれ、ドンッと壁に押さえつけられた。

「ハッ、俺様以外の奴に簡単にキスされといて何がビッチじゃねぇだ。笑わせんな。

罰として、寮に帰るまでだ。」

「は……?何で知って、!
そんなの無理です!絶対無理!」

「無理でも何でも罰は罰だ。あんま喚くと明日も飯抜きにするぞ。」

「あれは不可抗力だったんです!転校生が校門を飛び越えたりしなければ、私と彼の唇が重なることだってなかった!」

「…そんなに食いっぱぐれてぇとか、随分おバカなさんだなぁ?」

ギロリと間近で睨みつけられ、雫は唇を噛み締めながら会長を睨み返した。



「ふっ。さて、あまり彼らを待たせるわけにもいかない。
行くぞ、雫。」

掴まれた腕をそのまま引かれ、雫達は生徒会室を出た。

もちろんすぐさま振り払ったが。
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