異世界でエルフに転生したら狙われている件

紅音

文字の大きさ
上 下
49 / 60
16.病名

45

しおりを挟む
賑わう街の声が聞こえないくらい遠くまで走ったところで、自分の息が荒いことに気付いて、ハッと立ち止まる。

人気の少ない路地の壁に背中をもたれかけると、そのままずるずると座り込んでしまった。

「…っ…、ぅ…!」

震える唇を強く噛み締めて、嗚咽を堪える。
俯いて、ぽたぽたとこぼれ落ちた涙が黒いシミをつくって地面を濡らしていく。




すぐに泣いてしまう弱い自分が嫌になって、必死に涙を拭っていると、通りを歩いていた複数の人影が僕の前で止まった。


「可愛い子ちゃんみっけー!」

「…え…」

まさか話しかけられるとは思っていなくて顔を上げると、スッとこちらにのばされた手が僕の手首を掴み、軽く引き寄せられた。

「うっわ、超美人じゃん。泣いちゃってるけど、失恋でもしたの?」
「辛いなら、俺らが慰めてあげよっか」

「…何を――!?」

言っているんだ、そう紡ごうとした言葉は、突然自分の視点が変えられたことによって空気に溶ける。

ドンっ、と背を強く地面に打ち付けて、痛みに思わず顔をしかめた。

僕の手を引いた男に押し倒されたのだ。

「っ、何するんですか!!離して下さいっ!」

手首をつかむ男の手を必死に振りほどこうと抵抗するが、周りにいた他の男達に体を抑えつけられ、動けなくなってしまう。

「大丈夫。オニーサン達上手だし、優しくしてあげるから。」

男の荒い息が耳にかかり、嫌悪感に鳥肌が立つ。

「本当にやめてくださいっ!!それに、僕は女性ではなく男です!お願いだから、離して……!」

半ば発狂するように懇願しても、男たちはなかなか離れてくれない。

ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら服の上から僕の体を這わせていた手が局部に触れ、ビクッと肩が震えた。

「へぇ、驚いた。キミ、本当に男の子なんだね。
…じゃあ、今から俺達のメス女の子にしてあげよっかなー」

ばッと着ていたワンピースが捲られたかと思えば、服のはだけた部分から覗いていた太腿に触れられたり、挙句の果てに下着の上から後孔をトントンとつつかれてぞわぁッと総毛立つ。

「やだ、嫌、離してッ!!」

男達の手から逃れようと身を捩り、足をジタバタと動かして暴れる。

すると、僕の頭上で手首を拘束していた男が拳を振り上げた。

殴られる…!そう思って思わず強く目を瞑った――が、いつまで経っても衝撃はやってこなくて、僕は恐る恐る目を開けた。


「無理矢理はダメだよ。ね、ルキ」

「暴力はいけないことだよ。ね、ルカ」


……僕を殴ろうとしていた男の手を掴んでいたのは、先程街で出会った二人の男性だった。


二人は息の合った動きで僕を囲んでいた男達を蹴散らし、すぐには起き上がれないほどまでにしていた。


「…怪我はない?」

二人が「怖かったよね」と、唖然としていた僕の手を優しく取り、立ち上がらせてくれる。


「…どうして…」

「言ったでしょ?『簡単に襲われる』って。君は多分エルフだろうし、魅力的で可愛い。……だから、もしかしたら、って心配になって追い掛けてきたら案の定。」

苦笑を浮かべて肩をすくめた男性に僕は「ごめんなさい」とか細い声で告げた。

「謝らなくていいよ。君は何も悪くないでしょ?」

「…っ、…!」



助けが来て安心したからなのか、今日何度目かの涙が、また溢れ出した。

怖かったし、嫌悪感もあった。

なにより、知らない人間に触れられている感覚が気持ち悪くて仕方がなかった。









ルドルフさんの小屋から逃げ出した時、レオンさんにも一度触れられて、半強制的に達させられたことがあった。

それも下着越しからなどではなく、直に触れられて。

あの時はいくら薬の効果にやられていたとはいえ、正気が保てない程ではなかった。

それなのに。

固く、大きな手に触れられても、怖くはないし、嫌でもないのだ。

最初は、自分が誰かに触れられることにあまり恐怖を感じていないのかと思って、深く考えてはいなかった。

でも、違った。


違ったんだ。

僕は、レオンさんに触れられることには恐怖を感じていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)
BL
無自覚で男前受け気質な風紀委員長が、俺様生徒会長や先生などに度々ちょっかいをかけられる話。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...