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11.哀人

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その仕組みはよくわからないが、様子が明らかに璃黄とは異なったことから、僕は今目の前にいるのはシークであると、直感的に察した。

「……綺麗だったなぁ」

はぁ、とシークが溜息を吐いて、固まる僕をその目に捉えた。
思わず身構える、が。

「…まるで、朝の輝く太陽を全身に浴びた気がしたよ。だから――死ねるかと思ったのに」

シークは視線を窓の向こうの、星もない、月が照っているだけの夜空に移し、黄色の瞳を潤ませた。

「君を一生、俺の隣に置こうと思っていたのに…、気が失せた。」

まるで抜け殻のようになったシークさんが、おいで、と僕に手招きをする。
そこに、先程までの覇気や怪しさはもはやなくなっていた。

「俺ね、光が好きなんだ。吸血鬼なのに、おかしいでしょ?」

シークさんは自嘲気味に笑うが、僕はそんなことはないと、首を横に振った。

そっか、と呟いてシークさんは部屋の窓を開け、雲に隠されかけた月を見上げながら言った。

「実は俺、一回死んでるんだよ。
それがなんでか、こうして。」

月の方に向かってシークさんは手を掲げ、その形を指でなぞった。

「もう、気付いているのかもしれないけど、俺とリヒト少年は本当の兄弟じゃない。

…数百年前は人間として生きてたんだ。家族もいた。
でも、ある日突然、家に国の『魔導士』が二人来て、家族全員殺された。
俺は魔導士と戦ったけど、負けて死んじゃった。

…悔しかったよ。その日は外出してて、家を空けてた。
もっと早く帰って来てればな、って何度も嘆いた。
でも、死ねば家族に会えたから、俺の中の幻だったのかもしれないけど、それでも会えたから、俺は幸せだった。」

「なのに、…」と、シークさんが言葉を続けようとした時、その口から、…大量のが溢れ出した。

「ガッ、ハあ"ァ"…っ!?」

「シークさんっ!!」

しゃがれた声と共に、後ろへよろめくシークさんの体を、僕は咄嗟に支えた。





喘息の発作を起こしたときのような息をするシークさんは、片手で自分の胸元を強く押さえながら、反対の手で縋るように僕の腕を掴んだ。








「…こ、…われ、…ぁ"、た、すけ、…ぐ、あ"ぁぁぁ"ぁぁッッ!!」



「…ぇ、……」

シークさんの体が悲痛な断末魔を残して、灰となって消えていく。






残ったのは、シークさんの目と同じ色をした、黄色い石だけだった。
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