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番外

『後悔』

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「亮様。少々よろしいでしょうか。」

執事の速川が暗い声で俺を呼んだ。

俺は「なんだ」と聞いて返答を待つ。

俺の名前は神堂 亮シンドウ リョウ

とある男子校で生徒会長を務めている。





「亮様、落ち着いて、聞いて下さい。」

速川がなぜか俺の肩に手を置き、どこか逡巡しゅんじゅんしているような様子を見せる。

「早く言え。なにか――「立華グループ当主の御次男、立華 白蓮様が。」…は?」


何かあったのか、そう紡ごうとした言葉を遮られ、告げられたのは信じがたい話だった。

「ば、馬鹿を言うなッ!誰がそんなことを…!!」

「先程、ご当主様本人が、電話で仰せられました。」

「嘘だッ!!だってあいつは、白蓮は…!!
なぜだ。なぜ亡くなった?いつどこで亡くなった!!!事故か?事件か?理由は、なぜだ!!!!!」

「………。」

「答えろ速川ッ!!!」

ガシッと黙ったままの速川に掴みかかって、俺は声を荒げた。



「御当主様が申しますには…、過労死、だろう、と…。
それと、お亡くなりになられたのは………今日、華桜カオウ学園の生徒会室の中で、倒れていた、と…。」



ひゅうッと、喉がひりつくのが分かった。


掴みかかった手から力が抜け、膝から床に崩れ落ちる。

俺が、最後にあいつにかけた言葉は何だったか。

あいつが、最後に俺に言った言葉は何だったか。

俺があいつに最後に会ったのは、確か。今朝、寮室から出た時だ。




『亮、ちょっと、いいでしょうか』

思い出せばあの時、白蓮は酷く疲れ切った様子で俺に声を掛けて来ていた。

『なんだ?これから"約束"がある。手短に話せ。』

『それは、困ります。明日の、新入生歓迎会の件で、相談があるんです。貴方がいないと、困るんです。』

『そんなことはない。白蓮、お前一人でも処理出来るだろう。』

『そんな…!亮、いい加減下さい!もう、貴方しかいないんです。僕は、貴方を、信じて……ッ」

くだらない。

と、そう思った。

だから、俺は。


『話はそれだけか?じゃあな。』



そう言って、白蓮の前を俺は……去ったんだ。










翌日。

俺は早朝に一人で、生徒会室に向かった。


最近、ほとんど使っていなかったはずなのに、俺の席も机も埃一つ被っていない。

俺だけじゃない。

会計の席も、書記の席も、庶務の席もみんな、綺麗だ。

なのに。

副会長席だけは、栄養ドリンクの中身のない瓶は何本も並んでいるし、カップにはコーヒーが入ったままだし、まったく綺麗じゃない。




ガツンッと、壁に額を打ち付けた。

何度も何度も、痛みに視界が眩んでも。

唇が白くなるまで噛み締めて、血が出てきても止めずに。


言葉にならない唸り声のような、もしくは呻き声のようなものが、腹の底から出ていた。

いつの間にか、俺の体は誰かに羽交い絞めにされて、必死に止められていた。

「おいこら神堂!正気に戻れ!てめぇ自身を傷付けたってもう何も変わらねぇんだよッ!!」

その言葉にハッとする。

風紀委員長ミカド…、俺は……、俺は……!!」

抑えていた気持ちが、溢れ出した。

触れた床は冷たくて、こんなにも冷たいところで白蓮は一人、誰も呼べず倒れたというのか。

こんなところで、誰も呼べず…。

違う。

俺は、ずっと。

呼ばれていた。

呼ばれていたのに、俺は、俺が、白蓮を見捨てた。




「…もう、…時は、戻らねぇんだ………」

後ろで悔しげに呟いたミカドの声が酷く強く、俺の胸に刺さった。
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