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第二章 自分の居場所を作りたい!

見たこともない果実

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「お前、あぁいうのが好み?」
「?」

 詰所の部屋を出てすぐ、唐突にアレンに聞かれてきょとんとする。
 好み……好み……あぁ、好み!

「すぐそういうこという。きもちわる」

 恋愛脳反対。
 通年発情期か。
 うぇって顔になっていると、眉間の皺をグリグリ指で潰された。
 アレンは片腕に乗っける感じで私を抱えているけど、安定感は抜群だ。

「気持ち悪いってヒデえな。俺の時とは態度が全然違うじゃねーか。なんかかわいこぶってるしさー」
「ふしんしゃと、こころやさしいしょうねんじゃちがってとうぜんでは?」
「ひっでー! 俺だって優しいお兄さんだろ?」
「おにいさん……」

 いや、私の心情的には全然お兄さんで構わないのだけどね。
 内心まだまだガキよね、なんて思っちゃってるところもあるわけだし。
 だけど、一般的な4歳児からしてみたら、どのくらいまでがお兄さんなのかしらー、なんてことを考えちゃったわけよ。
 そしたら、何か勘ぐっちゃったのか……アレンが落ち込んだ。

「あれんはおにいさんだよ! やさしい、かっこいいおにいさん!」

 地味に本気でショック受けてるっぽいから慌ててフォローしてみたけど、一度受けたショックは取り返せないみたいで、力なくぽすぽすと頭を撫でられた。

「まだチーロ、4歳だもんな……4歳児から見たら、22歳なんて立派な大人だよな……」

 ちょっと、22歳なんてまだおじさん呼ばわりされてもショック受けていいような歳じゃないでしょうよ。
 なんでそんなにがっくりきてんの。
 体力も回復力もまだまだ余裕があるし、しみしわ知らずでピチピチな年齢のくせに!
 しかも、立派な大人って、ちゃっかり心的ダメージ軽減してんじゃないわよ、図々しい。
 ちょっぴり呆れていると、ロイも私の頭を撫でた。

「気を遣わなくていい」
「同い年だろ、ロイ!」

 私たちがいた部屋から裏口っぽい方に抜けて、細い路地を二回くらい曲がると、お店とお店の間にある隙間に出た。
 目の前は大通りだ。

「おぉ……」

 人間がカラフル!
 カプスの町でもそれなりにカラフルな人達はいたけど、彩度が比べ物にならないし、何より色のバリエーションが豊富だ。
 これ、全員並べたら髪の色と目の色と肌の色でグラデーションができるんじゃない?
 それに、人種もいろいろいる。
 肌の色が違うなんてもんじゃない。モフモフの耳やしっぽ、翼に角に鱗、と、ありとあらゆる生き物の特徴を持った人があちらこちらにいるのだ。

「ぽりてぃかるこねくとれすぅ~……」
「……なんて?」
「チーロは時々不思議なことを言うよね」

 そもそもの概念がないのか、アレンにもロイにも不思議な顔をされてしまった。
 いや、ロイは眼鏡とストールで表情もよくわかんないんだけど。

 街は活気づいていて、あちこちに屋台もあって、行列とかはないけど、どこぞのテーマパークを思い起こさせる。

「あれ、なんだろう……」

 遠目に見えたのは中国で食べられてるっていうサンザシ飴みたいに、赤い丸いモノが串にいくつも刺さっているものだ。

「あぁ、ラーネルラだな。喰ってみるか?」

 買ってもらってみても、正体がよくわからない。
 赤くて艶のある実にかかってる白と黄色の粉を少しだけ舐めてみる。

「しお……?」

 お砂糖かと思ったら、掛かってたのは塩となんかピリッとする辛さと酸味がある粉だ。

「串に刺したラーネに塩とバンショーが掛けてあるんだよ。肉を食った後に喰うと口の中がさっぱりするぜ」

 なんだか果物よりも焼いたお肉とかにしたいような味付けだけど、アレンの口振りから察するによくある食べ方なんだろう。
 思いきって一つ齧ってみる。

「ひゅっぱ……」

 酸っぱさにほっぺたがきゅうって痛くなった。
 つやつやした見た目から想像するような硬さはなくて、噛むと呆気なくクシュッと崩れる感じがする。齧った断面と味は、酸味はあるけどドラゴンフルーツに似ている。
 酸っぱいものの刺すような鋭さのある酸味じゃなくて、よく言えば穏やか、悪く言うとぼんやりした酸味で、塩とバンショーが持つ異なる酸味と辛みが、ぼやっとした味わいの中で甘みに輪郭を持たせていた。
 うーん、こんな果物、前世では見たことがない。

「ラーネルラはやっぱ肉の後に喰わなきゃな。これだけ食ってもつまんねーし、腹に溜まるものを食おうぜ」

 そう言ってアレンは、別の屋台に近づいていった。
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