上 下
20 / 43

第二十話

しおりを挟む
 千歳おにぃのことが気になるから、養生所に着いてすぐ、部屋に向かった。
 おにぃは既にいつもの姿だった。母ちゃんの衣裳は丁寧にたたまれていた。左腕と両足首に包帯が巻かれている。
「千歳おにぃ。ただいま」
「おかえりなさい。早かったですね」
 良かった。いつものおにぃだ。あのゾッとする声じゃない。いつもの、優しい千歳おにぃだ。
 薬売りしてる時におももは千歳おにぃのことをたくさん話してくれた。可愛かったなぁ。おももも千歳おにぃのこと大好きなんだ。おれと一緒だ。
「私に何か用ですか?」
「あ、えっと……、えっと……裏茶屋に行けなかったから……」
「おももには説明できたんですか?」
「それはもちろん! おももも千歳おにぃのこと綺麗って言ってたよ!」
「そうですか」
 話が終わっちゃった。
 おれと話したくないのかな? やっぱり、何かおかしいや。
 千歳おにぃはあぐらをかいてるんだけど、自分の足首を掴んでいた。強く強く、握ってる? もしかして、爪が……。
「おにぃ! 駄目!」
「…………」
 手首を掴んで、足から離す。包帯に赤色が滲んでいた。自分で傷つけてるってほんとだった。止めさせなきゃ。おにぃは綺麗だから、跡が残ったら嫌だって。
 紫雲膏を塗ってあげなきゃ。
 おれは千歳おにぃの部屋の隅に置かれた大きな薬箱を開く。紫雲膏の他に解毒薬や惚れ薬、ぬめり薬も入ってる。父ちゃんが補充してくれたみたいだ。
 千歳おにぃの足の包帯を剥がす。引っ掻き傷が縦にも横にも走ってた。いつついたんだろ? 前にやった時はなかったのに。
「千歳おにぃ、引っ掻いちゃ駄目だよ! おにぃは綺麗なんだから、跡が残ったら悲しくなっちゃう」
「私が私じゃなくなってしまうようで……つい引っ掻いてしまうんです……。前まではこんなことなかったのに……」
 そら色の瞳から涙がぼろぼろこぼれ落ちてくる。それなのに、その泣き顔が美しくて、おれはすぐに動けなかった。
 おにぃは胸の辺りを押さえて「ここが苦しくて、でも、どうしようもなくて……気がついたらあらゆるところを引っ掻いてしまってて……でも、すっきりして……」と話してくれた。
 父ちゃんに、診てもらわなきゃ。千歳おにぃが苦しんでること、伝えなきゃ。
 おれはおにぃに「待ってて」と声をかけて、階段を降りた。
 父ちゃんは小焼さんと話していた。横に葛籠が重なってるから、配達に来てくれたんだと思う。
 小焼さんにも、伝えたほうがいいのかな……。おにぃが、苦しんでること……。
「父ちゃん、今、良い?」
「ん? どした?」
「千歳おにぃが……」
 おれは今までのことを話す。説明になってないと思う。でも、一生懸命に説明した。千歳おにぃのこと、ぜんぶ。
「母親似ですね……」
「そうだなぁ。小焼に似てんなら、無理矢理にでも奪いそうだけどな!」
「私を何だと思ってんですか」
「惚れた女の為に大金をはたいて買い取った大店の旦那様だよ」
「はぁ……」
 小焼さんは溜息を吐いて少しだけ笑った。笑うことあるんだ……。おれ、小焼さんが笑ってるとこ見たことなかったかも……。
「しかしこれだと、おももより千歳のほうが厄介かもしれませんね」
「こうなったら、夢夏がどうにかするしかねぇな!」
「どうにかって?」
「……どちらかに別れを告げてください」
「やだ! おれ、どっちも好きだもん! 選べないよ!」
 やだやだ! 絶対にやだ!
 おれは二人に背を向けて、おにぃの部屋へ駆け込んだ。おにぃは目をまん丸にしてた。
「どうしたんですか?」
「おれ、おにぃのこと好きだ! おにぃと一緒になりたい!」
 おれはおにぃの腰に抱きついて、子供のように泣いた。おにぃは黙っておれの頭を撫でてくれてた。千歳おにぃは、優しい。いつもの千歳おにぃだ。
 落ち着いてきた。顔を上げて、きっちり座る。千歳おにぃが頬を撫でてきて、そのまま口吸いをした。
 舌をすぱすぱ吸って、舐めて、気持ち良い。唇が離れて、銀糸で繋がっていた。
「真に……私と、一緒になりたいんですか?」
「あい! おにぃと一緒になりたい! 好きだもん!」
 おにぃの肩を押して組み敷く。おにぃの顔がぽぽぽぽっと赤くなった。かわいい。
 着物の合わせを左右に開いたら、胸の頂がぷっくりして、上を向いていた。触ってほしいってよくわかる! おれはすぐに乳に吸い付く。「あっあっ」と声をあげる千歳おにぃが可愛くて、すぐに木のようになっちゃった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

溺愛執事と誓いのキスを

水無瀬雨音
BL
日本有数の大企業の社長の息子である周防。大学進学を機に、一般人の生活を勉強するため一人暮らしを始めるがそれは建前で、実際は惹かれていることに気づいた世話係の流伽から距離をおくためだった。それなのに一人暮らしのアパートに流伽が押し掛けてきたことで二人での生活が始まり……。 ふじょっしーのコンテストに参加しています。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...