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第二十話
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千歳おにぃのことが気になるから、養生所に着いてすぐ、部屋に向かった。
おにぃは既にいつもの姿だった。母ちゃんの衣裳は丁寧にたたまれていた。左腕と両足首に包帯が巻かれている。
「千歳おにぃ。ただいま」
「おかえりなさい。早かったですね」
良かった。いつものおにぃだ。あのゾッとする声じゃない。いつもの、優しい千歳おにぃだ。
薬売りしてる時におももは千歳おにぃのことをたくさん話してくれた。可愛かったなぁ。おももも千歳おにぃのこと大好きなんだ。おれと一緒だ。
「私に何か用ですか?」
「あ、えっと……、えっと……裏茶屋に行けなかったから……」
「おももには説明できたんですか?」
「それはもちろん! おももも千歳おにぃのこと綺麗って言ってたよ!」
「そうですか」
話が終わっちゃった。
おれと話したくないのかな? やっぱり、何かおかしいや。
千歳おにぃはあぐらをかいてるんだけど、自分の足首を掴んでいた。強く強く、握ってる? もしかして、爪が……。
「おにぃ! 駄目!」
「…………」
手首を掴んで、足から離す。包帯に赤色が滲んでいた。自分で傷つけてるってほんとだった。止めさせなきゃ。おにぃは綺麗だから、跡が残ったら嫌だって。
紫雲膏を塗ってあげなきゃ。
おれは千歳おにぃの部屋の隅に置かれた大きな薬箱を開く。紫雲膏の他に解毒薬や惚れ薬、ぬめり薬も入ってる。父ちゃんが補充してくれたみたいだ。
千歳おにぃの足の包帯を剥がす。引っ掻き傷が縦にも横にも走ってた。いつついたんだろ? 前にやった時はなかったのに。
「千歳おにぃ、引っ掻いちゃ駄目だよ! おにぃは綺麗なんだから、跡が残ったら悲しくなっちゃう」
「私が私じゃなくなってしまうようで……つい引っ掻いてしまうんです……。前まではこんなことなかったのに……」
天色の瞳から涙がぼろぼろこぼれ落ちてくる。それなのに、その泣き顔が美しくて、おれはすぐに動けなかった。
おにぃは胸の辺りを押さえて「ここが苦しくて、でも、どうしようもなくて……気がついたらあらゆるところを引っ掻いてしまってて……でも、すっきりして……」と話してくれた。
父ちゃんに、診てもらわなきゃ。千歳おにぃが苦しんでること、伝えなきゃ。
おれはおにぃに「待ってて」と声をかけて、階段を降りた。
父ちゃんは小焼さんと話していた。横に葛籠が重なってるから、配達に来てくれたんだと思う。
小焼さんにも、伝えたほうがいいのかな……。おにぃが、苦しんでること……。
「父ちゃん、今、良い?」
「ん? どした?」
「千歳おにぃが……」
おれは今までのことを話す。説明になってないと思う。でも、一生懸命に説明した。千歳おにぃのこと、ぜんぶ。
「母親似ですね……」
「そうだなぁ。小焼に似てんなら、無理矢理にでも奪いそうだけどな!」
「私を何だと思ってんですか」
「惚れた女の為に大金をはたいて買い取った大店の旦那様だよ」
「はぁ……」
小焼さんは溜息を吐いて少しだけ笑った。笑うことあるんだ……。おれ、小焼さんが笑ってるとこ見たことなかったかも……。
「しかしこれだと、おももより千歳のほうが厄介かもしれませんね」
「こうなったら、夢夏がどうにかするしかねぇな!」
「どうにかって?」
「……どちらかに別れを告げてください」
「やだ! おれ、どっちも好きだもん! 選べないよ!」
やだやだ! 絶対にやだ!
おれは二人に背を向けて、おにぃの部屋へ駆け込んだ。おにぃは目をまん丸にしてた。
「どうしたんですか?」
「おれ、おにぃのこと好きだ! おにぃと一緒になりたい!」
おれはおにぃの腰に抱きついて、子供のように泣いた。おにぃは黙っておれの頭を撫でてくれてた。千歳おにぃは、優しい。いつもの千歳おにぃだ。
落ち着いてきた。顔を上げて、きっちり座る。千歳おにぃが頬を撫でてきて、そのまま口吸いをした。
舌をすぱすぱ吸って、舐めて、気持ち良い。唇が離れて、銀糸で繋がっていた。
「真に……私と、一緒になりたいんですか?」
「あい! おにぃと一緒になりたい! 好きだもん!」
おにぃの肩を押して組み敷く。おにぃの顔がぽぽぽぽっと赤くなった。かわいい。
着物の合わせを左右に開いたら、胸の頂がぷっくりして、上を向いていた。触ってほしいってよくわかる! おれはすぐに乳に吸い付く。「あっあっ」と声をあげる千歳おにぃが可愛くて、すぐに木のようになっちゃった。
おにぃは既にいつもの姿だった。母ちゃんの衣裳は丁寧にたたまれていた。左腕と両足首に包帯が巻かれている。
「千歳おにぃ。ただいま」
「おかえりなさい。早かったですね」
良かった。いつものおにぃだ。あのゾッとする声じゃない。いつもの、優しい千歳おにぃだ。
薬売りしてる時におももは千歳おにぃのことをたくさん話してくれた。可愛かったなぁ。おももも千歳おにぃのこと大好きなんだ。おれと一緒だ。
「私に何か用ですか?」
「あ、えっと……、えっと……裏茶屋に行けなかったから……」
「おももには説明できたんですか?」
「それはもちろん! おももも千歳おにぃのこと綺麗って言ってたよ!」
「そうですか」
話が終わっちゃった。
おれと話したくないのかな? やっぱり、何かおかしいや。
千歳おにぃはあぐらをかいてるんだけど、自分の足首を掴んでいた。強く強く、握ってる? もしかして、爪が……。
「おにぃ! 駄目!」
「…………」
手首を掴んで、足から離す。包帯に赤色が滲んでいた。自分で傷つけてるってほんとだった。止めさせなきゃ。おにぃは綺麗だから、跡が残ったら嫌だって。
紫雲膏を塗ってあげなきゃ。
おれは千歳おにぃの部屋の隅に置かれた大きな薬箱を開く。紫雲膏の他に解毒薬や惚れ薬、ぬめり薬も入ってる。父ちゃんが補充してくれたみたいだ。
千歳おにぃの足の包帯を剥がす。引っ掻き傷が縦にも横にも走ってた。いつついたんだろ? 前にやった時はなかったのに。
「千歳おにぃ、引っ掻いちゃ駄目だよ! おにぃは綺麗なんだから、跡が残ったら悲しくなっちゃう」
「私が私じゃなくなってしまうようで……つい引っ掻いてしまうんです……。前まではこんなことなかったのに……」
天色の瞳から涙がぼろぼろこぼれ落ちてくる。それなのに、その泣き顔が美しくて、おれはすぐに動けなかった。
おにぃは胸の辺りを押さえて「ここが苦しくて、でも、どうしようもなくて……気がついたらあらゆるところを引っ掻いてしまってて……でも、すっきりして……」と話してくれた。
父ちゃんに、診てもらわなきゃ。千歳おにぃが苦しんでること、伝えなきゃ。
おれはおにぃに「待ってて」と声をかけて、階段を降りた。
父ちゃんは小焼さんと話していた。横に葛籠が重なってるから、配達に来てくれたんだと思う。
小焼さんにも、伝えたほうがいいのかな……。おにぃが、苦しんでること……。
「父ちゃん、今、良い?」
「ん? どした?」
「千歳おにぃが……」
おれは今までのことを話す。説明になってないと思う。でも、一生懸命に説明した。千歳おにぃのこと、ぜんぶ。
「母親似ですね……」
「そうだなぁ。小焼に似てんなら、無理矢理にでも奪いそうだけどな!」
「私を何だと思ってんですか」
「惚れた女の為に大金をはたいて買い取った大店の旦那様だよ」
「はぁ……」
小焼さんは溜息を吐いて少しだけ笑った。笑うことあるんだ……。おれ、小焼さんが笑ってるとこ見たことなかったかも……。
「しかしこれだと、おももより千歳のほうが厄介かもしれませんね」
「こうなったら、夢夏がどうにかするしかねぇな!」
「どうにかって?」
「……どちらかに別れを告げてください」
「やだ! おれ、どっちも好きだもん! 選べないよ!」
やだやだ! 絶対にやだ!
おれは二人に背を向けて、おにぃの部屋へ駆け込んだ。おにぃは目をまん丸にしてた。
「どうしたんですか?」
「おれ、おにぃのこと好きだ! おにぃと一緒になりたい!」
おれはおにぃの腰に抱きついて、子供のように泣いた。おにぃは黙っておれの頭を撫でてくれてた。千歳おにぃは、優しい。いつもの千歳おにぃだ。
落ち着いてきた。顔を上げて、きっちり座る。千歳おにぃが頬を撫でてきて、そのまま口吸いをした。
舌をすぱすぱ吸って、舐めて、気持ち良い。唇が離れて、銀糸で繋がっていた。
「真に……私と、一緒になりたいんですか?」
「あい! おにぃと一緒になりたい! 好きだもん!」
おにぃの肩を押して組み敷く。おにぃの顔がぽぽぽぽっと赤くなった。かわいい。
着物の合わせを左右に開いたら、胸の頂がぷっくりして、上を向いていた。触ってほしいってよくわかる! おれはすぐに乳に吸い付く。「あっあっ」と声をあげる千歳おにぃが可愛くて、すぐに木のようになっちゃった。
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