白鴉が鳴くならば

末千屋 コイメ

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第十四話

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 これで三人。三人も食われた。俺の知っている範囲で、だから実際はもっと食われているかもしれない。
 ワンのやつが鴉に目をつけなければこんなことにもならなかった。もしかすると、あの女はもっとうちの社員を紹介していたかもしれない。最近姿を見かけない社員がいると思っていたが、あいつに食われたのか? そうだとしたら、どう落とし前をつけてもらおうか。どうにかしてあの白鴉パァィアに報いを受けさせねば。人殺しだけなら、この辺りは日常的にある。治安が良いとは言えないうえに、裏社会のルールを反したら、も当然だろう。裏切者は殺される。そういう世界だ、ここは。
 助けずに拒絶したから、ハンは食われた。裏切者には制裁を。それを下したのがただの鴉か、白鴉パァィアかどちらかわからないが……済んだことはどちらでも良い。せっかく事務から異動させた有能な人材を失ったことは残念だ。
 さて、あいつを手懐けてこれからもを築いていくには、女の子を探す必要がある。王の遺したあいつの資料にあった女の子のことだろう。喉が悪いのか声を出しにくい女の子だと書いてあった。
 俺は手始めに、白鴉パァィアが撃たれた日の同日同時刻に表の救急病院を利用している幼女を調べた。思うよりも数が多く絞り込むのが面倒臭い。ここから更に身寄りが不明の者を調べる。一気に数が減る。三件だ。これなら電話をかけても良い。大病院から問い合わせてみるか。この病院は裏取引がよく行われている。死体から内臓を抜き、緩衝材を詰めて家族に帰すような奴らだ。抜いた内臓は闇市で高値で取引されている。たまに脳味噌まで売っているくらいなので、この病院に担ぎ込まれた人間が可哀想だとも思うな。まあ、うちの有力な取引先でもある。
「ああ、俺だが、一週間ほど前に、そちらに三歳から五歳ぐらいの女の子が運ばれただろ? どうなったか教えてくれ」
 馴染みの医者に直接電話をする。すぐ調べてかけなおしてくれると言うので、受話器を置いた。ここで、当たりならすぐに終わる。化け物を飼いならすのも楽しそうではないか。
「わかったか? ああ、そうだ。その子で間違いない。俺が引き取ろう。馬鹿言うな。鴉に食わせるんだよ」
 幼女は一命をとりとめ、今は病院の保護施設に入っているらしい。口がきけないので名前もわからないそうだ。あいつの求めている子で間違いないだろう。医者が手続きを済ませてくれるそうなので、三時間後に迎えに来るように言われた。
 確定だな。先に、白鴉パァィアに連絡しておいてやるか。
 店へ電話をかける。すぐに取られた。
「ハイハイ、白鴉だよ」
「俺だ。サイだ。キミの求めていた女の子だがな、すぐに見つかった」
「え! ほんとー? さすが部長さんは違うねぇ!」
 声の調子が明るく間延びしているように聞こえた。これで、何人も騙して食らってきたのか。男にしては愛嬌のある顔をしている奴だったから、の奴もこれで食われたんだろう。だが、俺は正体を知っているから騙されない。食われる前に食うだけだ。毒を食う前に毒を食らってやる。
「ああ。それで、三時間後に都の病院に迎えに行くことになった」
「それならオレも行く。雨涵ユーハンもオレが一緒のほうが安心するよ。あんたのような変なおっさんだけじゃなくて」
「今、俺を変なおっさんと言ったか?」
嘻嘻ふふっ、聞こえた? ヤン老大哥にーには耳が良いね」
「後で覚えておけよ」
「オレ、鴉だから三歩で忘れちゃうや。カァ!」
 悪戯っぽい声を鳴く男に神経が逆撫でされる。
 何だこいつは。どういう考えをしているかさっぱりわからない。掴みどころがわからないだけの騒ぎではないだろう。予測ができない。何を考えているんだ。どういうつもりだ。
「そういえば、ヤン老大哥にーに、この街の噂知ってる?」
「噂? ああ、『鴉が鳴いたら人が死ぬ』とかいうやつか?」
老大哥にーには、信じるタイプ?」
「いいや。信じない。鴉が鳴こうが鳴かなかろうが、病院では人が死ぬ。俺はそういう現場ばかりを見てきたからな」
「良いね。オレはね、そういう考え大好きだよ」
「ふんっ。ああ、ついでに、キミに頼みたい仕事があるから、そのつもりでいてくれ」
「はぁい。わかったよ、老大哥にーに。それじゃあオレ、仕込みがあるから切るね。また三時間後に病院で」
 ぶつんっ。
 一方的に切りやがって。いったいどういう神経をしてやがるんだ。仕事の内容を聞こうと一切しなかったぞ。やはり、鳥くらいの脳味噌しかないのか? それとも、演技か?
 まあ、どちらでも良い。これからこき使ってやろう。あの顔があれば、女の相手も簡単にできるだろうし、調理まで勝手にしてくれるだろうしな。
 さて、まずは――三時間後に病院、だな。


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