白鴉が鳴くならば

末千屋 コイメ

文字の大きさ
上 下
14 / 30

第十四話

しおりを挟む
 これで三人。三人も食われた。俺の知っている範囲で、だから実際はもっと食われているかもしれない。
 ワンのやつが鴉に目をつけなければこんなことにもならなかった。もしかすると、あの女はもっとうちの社員を紹介していたかもしれない。最近姿を見かけない社員がいると思っていたが、あいつに食われたのか? そうだとしたら、どう落とし前をつけてもらおうか。どうにかしてあの白鴉パァィアに報いを受けさせねば。人殺しだけなら、この辺りは日常的にある。治安が良いとは言えないうえに、裏社会のルールを反したら、も当然だろう。裏切者は殺される。そういう世界だ、ここは。
 助けずに拒絶したから、ハンは食われた。裏切者には制裁を。それを下したのがただの鴉か、白鴉パァィアかどちらかわからないが……済んだことはどちらでも良い。せっかく事務から異動させた有能な人材を失ったことは残念だ。
 さて、あいつを手懐けてこれからもを築いていくには、女の子を探す必要がある。王の遺したあいつの資料にあった女の子のことだろう。喉が悪いのか声を出しにくい女の子だと書いてあった。
 俺は手始めに、白鴉パァィアが撃たれた日の同日同時刻に表の救急病院を利用している幼女を調べた。思うよりも数が多く絞り込むのが面倒臭い。ここから更に身寄りが不明の者を調べる。一気に数が減る。三件だ。これなら電話をかけても良い。大病院から問い合わせてみるか。この病院は裏取引がよく行われている。死体から内臓を抜き、緩衝材を詰めて家族に帰すような奴らだ。抜いた内臓は闇市で高値で取引されている。たまに脳味噌まで売っているくらいなので、この病院に担ぎ込まれた人間が可哀想だとも思うな。まあ、うちの有力な取引先でもある。
「ああ、俺だが、一週間ほど前に、そちらに三歳から五歳ぐらいの女の子が運ばれただろ? どうなったか教えてくれ」
 馴染みの医者に直接電話をする。すぐ調べてかけなおしてくれると言うので、受話器を置いた。ここで、当たりならすぐに終わる。化け物を飼いならすのも楽しそうではないか。
「わかったか? ああ、そうだ。その子で間違いない。俺が引き取ろう。馬鹿言うな。鴉に食わせるんだよ」
 幼女は一命をとりとめ、今は病院の保護施設に入っているらしい。口がきけないので名前もわからないそうだ。あいつの求めている子で間違いないだろう。医者が手続きを済ませてくれるそうなので、三時間後に迎えに来るように言われた。
 確定だな。先に、白鴉パァィアに連絡しておいてやるか。
 店へ電話をかける。すぐに取られた。
「ハイハイ、白鴉だよ」
「俺だ。サイだ。キミの求めていた女の子だがな、すぐに見つかった」
「え! ほんとー? さすが部長さんは違うねぇ!」
 声の調子が明るく間延びしているように聞こえた。これで、何人も騙して食らってきたのか。男にしては愛嬌のある顔をしている奴だったから、の奴もこれで食われたんだろう。だが、俺は正体を知っているから騙されない。食われる前に食うだけだ。毒を食う前に毒を食らってやる。
「ああ。それで、三時間後に都の病院に迎えに行くことになった」
「それならオレも行く。雨涵ユーハンもオレが一緒のほうが安心するよ。あんたのような変なおっさんだけじゃなくて」
「今、俺を変なおっさんと言ったか?」
嘻嘻ふふっ、聞こえた? ヤン老大哥にーには耳が良いね」
「後で覚えておけよ」
「オレ、鴉だから三歩で忘れちゃうや。カァ!」
 悪戯っぽい声を鳴く男に神経が逆撫でされる。
 何だこいつは。どういう考えをしているかさっぱりわからない。掴みどころがわからないだけの騒ぎではないだろう。予測ができない。何を考えているんだ。どういうつもりだ。
「そういえば、ヤン老大哥にーに、この街の噂知ってる?」
「噂? ああ、『鴉が鳴いたら人が死ぬ』とかいうやつか?」
老大哥にーには、信じるタイプ?」
「いいや。信じない。鴉が鳴こうが鳴かなかろうが、病院では人が死ぬ。俺はそういう現場ばかりを見てきたからな」
「良いね。オレはね、そういう考え大好きだよ」
「ふんっ。ああ、ついでに、キミに頼みたい仕事があるから、そのつもりでいてくれ」
「はぁい。わかったよ、老大哥にーに。それじゃあオレ、仕込みがあるから切るね。また三時間後に病院で」
 ぶつんっ。
 一方的に切りやがって。いったいどういう神経をしてやがるんだ。仕事の内容を聞こうと一切しなかったぞ。やはり、鳥くらいの脳味噌しかないのか? それとも、演技か?
 まあ、どちらでも良い。これからこき使ってやろう。あの顔があれば、女の相手も簡単にできるだろうし、調理まで勝手にしてくれるだろうしな。
 さて、まずは――三時間後に病院、だな。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ネズミの話

泥人形
ホラー
今の私は、ネズミに似ている。 表紙イラスト:イラストノーカ様

凍殺

稲冨伸明
歴史・時代
「頼房公朝鮮御渡海御供の人数七百九十三人也」『南藤蔓綿録』  文禄元(1592)年三月二十六日寅刻、相良宮内大輔頼房率いる軍兵は求麻を出陣した。四月八日肥前名護屋着陣。壱岐、対馬を経由し、四月下旬朝鮮国釜山に上陸した。軍勢は北行し、慶州、永川、陽智を攻落していく。五月末、京城(史料は漢城、王城とも記す。大韓民国の首都ソウル)を攻略。その後、開城占領。安城にて、加藤・鍋島・相良の軍勢は小西・黒田らの隊と分かれ、咸鏡道に向けて兵を進める。六月中旬咸鏡道安辺府に入る。清正は安辺を本陣とし、吉川、端川、利城、北青などの要所に家臣を分屯させる。清正はさらに兀良哈(オランカヒ)方面へと兵を進める。七月下旬清正、咸鏡道会寧で朝鮮国二王子を捕らえる。清正北行後、鍋島、相良の両軍は、それぞれ咸興と北青に滞陣し、後陣としての役割を果たしていた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...