139 / 149
第139話 心変わり
しおりを挟む
一九三九年四月三十日。イギリス、ロンドン。
ロンドン市内にある大きめの病院で、ローザ・ケプファーは療養をしていた。イギリスに亡命し、落下傘連隊の大隊長が付き添う形でこの病院に来たのだ。
今は、この時代では珍しい個室にて、温かいスープとパンを少量食べていた。
すると、個室のドアがノックされる。ドアが開くと、看護師と一緒に二人の男性が入ってきた。その手には、見覚えのあるスマホが握られていた。
『君がローザ・ケプファーだね? 僕がイギリスの転生者、ロバート・コーデンだ。こっちの彼は、フランスの転生者のジル・ロンダ』
『よろしく』
『初めまして、ローザ・ケプファーです』
ケプファーは、片言の英語で話す。彼女のスマホは破壊されているからだ。
『あぁ、無理に合わせなくていいよ。こっちで翻訳できるからね』
コーデンは、そういってスマホを差し出す。どうやら、スマホ一台で双方向対話ができるようだ。
『そうなのね……』
『とにかく、君が無事で何よりだ。落下傘連隊の作戦が失敗すれば、君はおそらく死んでいただろう。なにはともあれ、良かったよ』
コーデンは安堵した表情を見せる。
『心配してくれてありがとう。確かに、あなたたちの助けがなかったら、この命はなかったでしょうね』
『そうだな。さっき検査を担当した医師に話を聞いたんだが、今の君の健康上の問題はないそうだ。念の為、観察期間を設けるけど、順調なら来週にでも退院できるらしいぞ』
『そう』
そういう彼女の顔は、少し寂しそうであった。
『何か懸念要素でもあるのかい?』
それを察したコーデンが、ケプファーに聞く。少々品のない聞き方だ。
『そうね……。本当のところ、私のせいでみんなに迷惑をかけてしまったわ。結局、この世界でのヒトラーの蛮行を止めることが出来なかった。私の力が足りなかったせいで……』
『そんな気に病むことじゃないさ。そもそも僕たちが転生してきた一九三六年には、ヒトラーは総統としての地位を築いていた。止められなくて当然とも言えるさ。止めるなら、政治家として台頭してくる一九三三年ごろまで遡らないと無理だろうね』
そのように慰めるコーデン。
『でも、せめてみんなと繋がれるスマホだけは守り切りたかったわ』
そういってベッド脇の机に置かれているスマホを見る。画面の中央に、弾丸によるものと思われる穴が開いているスマホだ。機能としては完全に停止しており、これ以上の手の施しようがない。
ケプファーがスマホに手を伸ばし、物寂しそうにスマホに視線を落としているときだった。
個室のドアの向こうで、何かが落下したような音がする。
「なんだ?」
コーデンとロンダは顔を見合わせ、ロンダがゆっくりとドアに近づく。そして同じように、ゆっくりとドアを開ける。
すると、床に白い箱が置かれていた。その箱は、スマホと同じくらいの大きさであった。
ロンダは箱を拾い上げ、個室の中に持ってくる。
「これは……」
コーデンは一目見て、なんとなく察した。
ロンダはベッドの上で、箱を開けてみる。上下で分かれるタイプの箱だ。
中からは、転生者が使用しているスマホと全く同じ物があった。
『これは多分、ケプファーの新しいスマホだよ』
コーデンがそういう。
ケプファーは新しいスマホを箱から取り出し、電源を入れる。すると、チャットの通知が何件か来ていた。
チャットの内容を確認してみると、相手は女神からであった。
『転生時に支給したスマートフォンが壊れたようなので、新しいスマートフォンを支給します。今度は壊さないように気を付けてくださいね』
それを見たケプファーは、思わず涙が出そうになった。
しかし、まだ泣く時ではない。なぜなら。
「ドイツの名誉のために、ドイツの未来のために、ヒトラーを引きずり下ろす。本当の意味で祖国を取り戻したときに、涙を流すため」
ケプファーは決心した。今までは逃げることばかり考えていたが、それでは駄目なのだと。
「私はもう逃げない。立ち上がって、ヒトラーと対峙する」
未来の新しい祖国のため、ケプファーは信念を一新した。これからは、自分が祖国を作るのだと決断したのだ。
ロンドン市内にある大きめの病院で、ローザ・ケプファーは療養をしていた。イギリスに亡命し、落下傘連隊の大隊長が付き添う形でこの病院に来たのだ。
今は、この時代では珍しい個室にて、温かいスープとパンを少量食べていた。
すると、個室のドアがノックされる。ドアが開くと、看護師と一緒に二人の男性が入ってきた。その手には、見覚えのあるスマホが握られていた。
『君がローザ・ケプファーだね? 僕がイギリスの転生者、ロバート・コーデンだ。こっちの彼は、フランスの転生者のジル・ロンダ』
『よろしく』
『初めまして、ローザ・ケプファーです』
ケプファーは、片言の英語で話す。彼女のスマホは破壊されているからだ。
『あぁ、無理に合わせなくていいよ。こっちで翻訳できるからね』
コーデンは、そういってスマホを差し出す。どうやら、スマホ一台で双方向対話ができるようだ。
『そうなのね……』
『とにかく、君が無事で何よりだ。落下傘連隊の作戦が失敗すれば、君はおそらく死んでいただろう。なにはともあれ、良かったよ』
コーデンは安堵した表情を見せる。
『心配してくれてありがとう。確かに、あなたたちの助けがなかったら、この命はなかったでしょうね』
『そうだな。さっき検査を担当した医師に話を聞いたんだが、今の君の健康上の問題はないそうだ。念の為、観察期間を設けるけど、順調なら来週にでも退院できるらしいぞ』
『そう』
そういう彼女の顔は、少し寂しそうであった。
『何か懸念要素でもあるのかい?』
それを察したコーデンが、ケプファーに聞く。少々品のない聞き方だ。
『そうね……。本当のところ、私のせいでみんなに迷惑をかけてしまったわ。結局、この世界でのヒトラーの蛮行を止めることが出来なかった。私の力が足りなかったせいで……』
『そんな気に病むことじゃないさ。そもそも僕たちが転生してきた一九三六年には、ヒトラーは総統としての地位を築いていた。止められなくて当然とも言えるさ。止めるなら、政治家として台頭してくる一九三三年ごろまで遡らないと無理だろうね』
そのように慰めるコーデン。
『でも、せめてみんなと繋がれるスマホだけは守り切りたかったわ』
そういってベッド脇の机に置かれているスマホを見る。画面の中央に、弾丸によるものと思われる穴が開いているスマホだ。機能としては完全に停止しており、これ以上の手の施しようがない。
ケプファーがスマホに手を伸ばし、物寂しそうにスマホに視線を落としているときだった。
個室のドアの向こうで、何かが落下したような音がする。
「なんだ?」
コーデンとロンダは顔を見合わせ、ロンダがゆっくりとドアに近づく。そして同じように、ゆっくりとドアを開ける。
すると、床に白い箱が置かれていた。その箱は、スマホと同じくらいの大きさであった。
ロンダは箱を拾い上げ、個室の中に持ってくる。
「これは……」
コーデンは一目見て、なんとなく察した。
ロンダはベッドの上で、箱を開けてみる。上下で分かれるタイプの箱だ。
中からは、転生者が使用しているスマホと全く同じ物があった。
『これは多分、ケプファーの新しいスマホだよ』
コーデンがそういう。
ケプファーは新しいスマホを箱から取り出し、電源を入れる。すると、チャットの通知が何件か来ていた。
チャットの内容を確認してみると、相手は女神からであった。
『転生時に支給したスマートフォンが壊れたようなので、新しいスマートフォンを支給します。今度は壊さないように気を付けてくださいね』
それを見たケプファーは、思わず涙が出そうになった。
しかし、まだ泣く時ではない。なぜなら。
「ドイツの名誉のために、ドイツの未来のために、ヒトラーを引きずり下ろす。本当の意味で祖国を取り戻したときに、涙を流すため」
ケプファーは決心した。今までは逃げることばかり考えていたが、それでは駄目なのだと。
「私はもう逃げない。立ち上がって、ヒトラーと対峙する」
未来の新しい祖国のため、ケプファーは信念を一新した。これからは、自分が祖国を作るのだと決断したのだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる