転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第125話 波状攻撃

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 水偵がドイツ艦隊から離脱していった頃、ドイツ艦隊の司令官であるフリードリヒ・シルベスター大将の脳裏には、ある疑惑がよぎっていた。
「あの航空機、水上機だったな……。水上機なら、巡洋艦以上の艦がいるはず……。水上機の国籍マークは赤い丸、そして日本の艦隊がイギリスに寄港したという情報もある……。つまりあの水上機は、日本艦隊の物で間違いない」
 考えた上で、結論を出す。
「敵主力艦隊は水平線の向こうにいる」
 そう決断してからの行動は早かった。
「全艦、前進全速であの水上機を追いかけろ! その先に敵はいる!」
 司令官としての命令は無茶苦茶である。それもそのはず、シルベスター大将は海軍戦力の減少に伴いエレベーター式に昇格された、いわば付け焼刃の司令官なのである。彼自身の実力は、軽巡洋艦艦長と同等とされる大佐レベルだ。当然のことながら、これまで艦隊指揮の経験もない。
 そんな人間が司令官に任命されるとどうなるか。数多の水兵、それ以上に戦力として重要な艦艇を率いることは至難の業だろう。
 そしてその事実を連合国艦隊はおろか、ドイツ主力艦隊や総司令部、果てはヒトラーさえも理解してはいなかった。
「偵察機からの続報です。敵艦隊はこちらに向かって来ているようです」
「こちらに? 距離は?」
「まだ六十キロメートルほどです」
「うむ……。まだ有効射にはほど遠い。……空母から艦載機を出してくれ。今なら敵の位置も完璧に分かるだろう」
「えぇ。そのほうがよろしいかと」
「せっかくの航空機攻撃だ。出し惜しみはなし。勇猛果敢に攻撃するよう、指示してくれ」
「はっ!」
 こうして、赤城、加賀、蒼龍、飛龍の艦載機が続々と発艦していく。艦攻、艦爆合わせて八十機、護衛の九八戦が十機ほどつき、ドイツ主力艦隊に向けて飛行する。
 イギリス時間一〇五〇時。空はやや雲がある。風はそこまで強くない。
「今日はラッキーだな、ルーキーども。絶好の爆撃日和だ」
「岩山少尉、敵性語を使うのはいかがなものかと存じます」
「なんだ西岡、空の上でも優等生か? そもそもアメリカとの戦争はとっくに終わってんだぜ?」
「我が大日本帝国の文化こそが至上であり、それは未来永劫変わりません」
「まーったく。そんなこと言ってるから、俺の後ろに座ることになるんだぜ?」
「誰の後ろに乗ろうが、被撃墜確率は変わりませんよ」
「まだ言ってら。そんなの、命知らずの岩山には通用せんよ」
 そのようなことを言っていると、後付けで搭載された無線音声機から声が響く。
『前方十キロに敵艦隊を確認! 艦隊はこちらにまっすぐ向かってきています! 敵戦闘機による迎撃はない模様!』
「ならば良し! ルーキーども、しっかりついてこいよ!」
 そういって岩山少尉は、機体の高度を落としつつ、艦隊の側面に回り込んでいく。
 それを、ドイツ主力艦隊はちゃんと捉えていた。
「シルベスター大将、敵航空機の大編隊がこちらに向かってきています」
「まぁ落ち着け。まずは対空戦闘だ。航空機が見えたら、そうするのが鉄則だからな」
 教科書通りの対応で、まずは及第点といったところだろう。しかしそれは、何が起こるか分からない戦場では落第点になることもある。
 敵艦隊まで五キロメートルといったところで、艦隊全体から対空攻撃が開始された。
「うほほ、こりゃまた濃厚な弾幕だぜ」
「何喜んでいるんですか」
「そりゃ、敵だって命かけて攻撃してるからな。ここで命のやり取りが起きてるんだ。武士道や騎士道に通ずる精神だろ?」
「……そうですね」
 そんなことを言いながら、機体を操縦しつつ攻撃の機会を伺う。
「弾幕が濃いな……」
 敵艦隊の弾幕はまさに教科書通りである。黒色の弾幕の中にわざと空白を作り、そこに航空機を誘導させる。そこへ機銃の攻撃を集中させる戦術だ。
 しかしこの艦隊は、その弾幕が全体的に濃いのである。しかも、突入させる入口もかなり小さい。そもそも攻撃させる気がないのだろうか。
「うーん、こうなれば仕方ない。突撃するか」
「突撃? どこにです?」
「無論、この弾幕のど真ん中だ」
「はい?」
 西岡の返事を聞かず、岩山少尉は煙になっているところへ突っ込んでいく。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください! そんなことしたら死にますよ!」
「俺が死ぬものか! 俺は命知らずの岩山だっ!」
 そういって弾幕の中へと突入する。
 一瞬視界がゼロになり、外の様子が見えなくなる。そしてまた次の瞬間には、目の前に巨大な戦艦が立ちふさがっていた。
「この爆弾でも食らいやがれっ!」
「あぁ、もう!」
 照準器も使用せずに、機体下部から切り離された二五〇キロ爆弾が、ベルリン級戦艦一番艦ベルリンへと落下する。
 爆弾は第二砲塔右舷側甲板上に落下し、爆発した。周辺にいた対空機銃担当の水兵らが吹き飛ぶだろう。
 それを見届けた岩山少尉は、対空攻撃など気にせず一度戦艦ベルリンの上を飛び、海面スレスレの低空飛行で左舷側へと抜けていく。
「し、死ぬかと思った……」
「ようやく兵士らしい言葉が出てきたじゃねぇか。前線張ってる兵士はこうでなくちゃな」
 西岡のつぶやきに、岩山少尉はニカッとしながら返す。
 岩山少尉の攻撃を見た第一艦隊攻撃隊は、次々とベルリン級戦艦の二隻に向かって攻撃を開始する。もはや弾幕など機能していなかった。
 最終的には、戦艦ベルリンには爆弾八発と魚雷四本。戦艦ハンブルクには爆弾十発と魚雷三本が命中した。しかしこれでも二隻は動いている。艦としての完成度を見せつける結果となった。
 残念ながら第一艦隊攻撃隊には対艦攻撃できる爆弾類はなく、やむなく引き上げることに。
「敵の編隊が去っていきます」
「ふぅ。一時はどうなるかと思ったが、何とかなりそうだ」
 シルベスター大将がそんなことを言っていると、見張り員から報告が上がる。
「敵の編隊を確認! 第二波と思われます!」
「なに……?」
 シルベスター大将が双眼鏡を覗く。その先には、先ほどの機体数とほとんど変わらない数の攻撃機が迫ってきていたのである。
「まさか……」
 その後、第二波による攻撃はシャルンホルスト級巡洋戦艦が中心であった。
 そしてこの攻撃により、シャルンホルスト級巡洋戦艦は中破、重巡洋艦二隻を撃沈することに成功したのである。それを確認した第二波攻撃隊は、空母の元へ帰っていくのであった。
 第一艦隊とドイツ主力艦隊との距離、約五十キロメートル。
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