118 / 149
第118話 奇襲
しおりを挟む
一九三九年三月二日。
連合国側は、対独戦争を本格始動させようとしていた。現在は連合国共同での宣戦布告声明を出そうとしている。
ドイツ領ポーランドの目の前にいる帝国陸軍第一〇〇一から一〇一一師団も、欧州派遣軍として編成され、進軍の時を待っていた。
「いい天気だな」
派遣軍の指揮官である篠田中将は、空を見上げて言う。
「ここが敵地の目の前だということを忘れてしまいそうだ」
「確かに、そんな感じがしますね」
部下の一人が、篠田中将に返事する。
そんなとき、篠田中将が何かを見つける。
「あの光る物体はなんだ?」
「何か見えますか?」
「あぁ。あれは……」
篠田中将の指摘は間違っていなかった。
複数の機体。機体の胴体にはバルケンクロイツが描かれていた。
「ドイツ軍だ!」
Bf109で構成された戦闘機群は、ちょうど哨戒に当たっていたロシア軍の戦闘機に向かっていく。
そしてドイツ軍機は、あっという間にロシア軍機の後ろを取って機銃を放つ。ロシア軍機は主翼が折れて空中分解を起こした。
「あぁっ」
ほんの十数秒の出来事であった。
呆気にとられてた篠田中将だが、何かに気づいて参謀のほうを向く。
「ドイツからロシア帝国に宣戦布告はあったか!?」
「そ、そのような情報は……まだ入ってきていません」
それを聞いた篠田中将は、顎に手をやる。
「これは……明確なハーグ陸戦条約違反だ。いわゆる卑劣で悪質な奇襲攻撃と言える」
「それが何か……?」
篠田中将は、腰に帯びていた軍刀に手をかける。
「つまり、我々はドイツを攻撃する明瞭な理由を手に入れたわけだ。正当防衛が適用される場面だろう?」
「確かにそうでありますが、まだ共同声明が発表されていません。今行動するのは下策かと……」
「そんなことを言っている場合ではない! ドイツの侵略を許せば、罪なき市民が逃げ惑うだろう。それにドイツは、ユダヤ人を虐殺している。もしユダヤ人の疑いをかけられれば、すぐに強制収容所行きだ。そんなことはさせない!」
そう言って軍刀を抜き、それを掲げる。
「我々は、我々の正義のために戦う! それを達成するため、今すぐに出撃する!」
そして軍刀をポーランド方面に向ける。
「全軍、進めぇ!」
「む、無茶ですよぉ!」
参謀は困惑する。このままでは、篠田中将一人でも自動車、いや馬に乗ってでも越境するだろう。
「分かりましたよ……。全軍に進軍するように通達します……」
こうして参謀は各師団に連絡。派遣軍を前進させるように指示を出す。
「とりあえず、今はゆっくり進んでくれ」
そのように付け加える参謀であった。
その数時間後。連合国による対独共同宣戦布告が行われた。
これを聞いたロシア軍は、後ろで控えさせていた軽爆撃機のIl-2を出撃させる。
一時間もすれば、ドイツ領ポーランドの上空へと到着するだろう。
『地上を索敵せよ。敵の戦車や野砲を発見次第、すぐに爆撃に入る』
Il-2の搭乗員は、目を皿のようにして地上を見る。
そんな時、機体の近くで風切り音が響く。そこそこ大きい砲弾が通過したときの音だ。
『敵対空砲からの攻撃だ! どこから撃ってきた!?』
『前方やや左方向だ!』
そこには、特急で構築された対空陣地があった。陣地には八.八センチ砲があり、絶え間なく砲弾を撃ち続けている。
『攻撃目標を設定、敵対空砲。各機、攻撃始め』
対空砲を破壊するため、Il-2は緩降下で爆撃を行う。それを阻止しようと、対空砲から火が噴く。
対空砲の攻撃によって、いくつかの機体が爆散し、散っていくだろう。それでも、対空砲を攻撃しなければ、その後に続く味方が攻撃に曝される。それだけは何としてでも止めなければならない。
対空砲に接近する。それだけで撃墜されるリスクは高まる。だがそれ以上に、敵を倒すという気迫が優っていた。
『爆弾投下!』
機体下部から爆弾が切り離され、重力に従って落下する。
爆弾が地面に吸い込まれ、着弾した瞬間に爆発した。その衝撃と破片によって、近くにあった対空砲は破壊されるだろう。
『対空砲はまだいるぞ! 場所を記録しておけ! 第二波以降の攻撃で必要になる』
すると、別の機体の搭乗員から情報がもたらされる。
『数キロ先に戦車隊がいるそうです! 他に野砲もいます!』
『よーし、そいつら全部メモっておけ! ここで一網打尽にするぞ!』
こうして情報を持ち帰り、第二波攻撃の目標とする。
『戦車を中心に破壊する。対空砲に注意して爆撃せよ』
日が暮れる前に機甲師団のいる場所まで飛び、爆撃を敢行する。雑なカモフラージュをしていたのがアダとなり、機甲師団の戦車は恰好の的となった。
『爆弾の散布界を広くする。なるべく損害を大きくさせるんだ』
集中的に狙うのではなく、広く爆撃する。その効果によって、より多くの戦車を破壊することに成功した。
『明日から忙しくなるぞ。今日はたっぷり寝るんだぞ』
そういってロシア軍の爆撃隊は引き上げていく。
かくして、ここに連合国によるドイツ集中攻撃が始まるのだった。
連合国側は、対独戦争を本格始動させようとしていた。現在は連合国共同での宣戦布告声明を出そうとしている。
ドイツ領ポーランドの目の前にいる帝国陸軍第一〇〇一から一〇一一師団も、欧州派遣軍として編成され、進軍の時を待っていた。
「いい天気だな」
派遣軍の指揮官である篠田中将は、空を見上げて言う。
「ここが敵地の目の前だということを忘れてしまいそうだ」
「確かに、そんな感じがしますね」
部下の一人が、篠田中将に返事する。
そんなとき、篠田中将が何かを見つける。
「あの光る物体はなんだ?」
「何か見えますか?」
「あぁ。あれは……」
篠田中将の指摘は間違っていなかった。
複数の機体。機体の胴体にはバルケンクロイツが描かれていた。
「ドイツ軍だ!」
Bf109で構成された戦闘機群は、ちょうど哨戒に当たっていたロシア軍の戦闘機に向かっていく。
そしてドイツ軍機は、あっという間にロシア軍機の後ろを取って機銃を放つ。ロシア軍機は主翼が折れて空中分解を起こした。
「あぁっ」
ほんの十数秒の出来事であった。
呆気にとられてた篠田中将だが、何かに気づいて参謀のほうを向く。
「ドイツからロシア帝国に宣戦布告はあったか!?」
「そ、そのような情報は……まだ入ってきていません」
それを聞いた篠田中将は、顎に手をやる。
「これは……明確なハーグ陸戦条約違反だ。いわゆる卑劣で悪質な奇襲攻撃と言える」
「それが何か……?」
篠田中将は、腰に帯びていた軍刀に手をかける。
「つまり、我々はドイツを攻撃する明瞭な理由を手に入れたわけだ。正当防衛が適用される場面だろう?」
「確かにそうでありますが、まだ共同声明が発表されていません。今行動するのは下策かと……」
「そんなことを言っている場合ではない! ドイツの侵略を許せば、罪なき市民が逃げ惑うだろう。それにドイツは、ユダヤ人を虐殺している。もしユダヤ人の疑いをかけられれば、すぐに強制収容所行きだ。そんなことはさせない!」
そう言って軍刀を抜き、それを掲げる。
「我々は、我々の正義のために戦う! それを達成するため、今すぐに出撃する!」
そして軍刀をポーランド方面に向ける。
「全軍、進めぇ!」
「む、無茶ですよぉ!」
参謀は困惑する。このままでは、篠田中将一人でも自動車、いや馬に乗ってでも越境するだろう。
「分かりましたよ……。全軍に進軍するように通達します……」
こうして参謀は各師団に連絡。派遣軍を前進させるように指示を出す。
「とりあえず、今はゆっくり進んでくれ」
そのように付け加える参謀であった。
その数時間後。連合国による対独共同宣戦布告が行われた。
これを聞いたロシア軍は、後ろで控えさせていた軽爆撃機のIl-2を出撃させる。
一時間もすれば、ドイツ領ポーランドの上空へと到着するだろう。
『地上を索敵せよ。敵の戦車や野砲を発見次第、すぐに爆撃に入る』
Il-2の搭乗員は、目を皿のようにして地上を見る。
そんな時、機体の近くで風切り音が響く。そこそこ大きい砲弾が通過したときの音だ。
『敵対空砲からの攻撃だ! どこから撃ってきた!?』
『前方やや左方向だ!』
そこには、特急で構築された対空陣地があった。陣地には八.八センチ砲があり、絶え間なく砲弾を撃ち続けている。
『攻撃目標を設定、敵対空砲。各機、攻撃始め』
対空砲を破壊するため、Il-2は緩降下で爆撃を行う。それを阻止しようと、対空砲から火が噴く。
対空砲の攻撃によって、いくつかの機体が爆散し、散っていくだろう。それでも、対空砲を攻撃しなければ、その後に続く味方が攻撃に曝される。それだけは何としてでも止めなければならない。
対空砲に接近する。それだけで撃墜されるリスクは高まる。だがそれ以上に、敵を倒すという気迫が優っていた。
『爆弾投下!』
機体下部から爆弾が切り離され、重力に従って落下する。
爆弾が地面に吸い込まれ、着弾した瞬間に爆発した。その衝撃と破片によって、近くにあった対空砲は破壊されるだろう。
『対空砲はまだいるぞ! 場所を記録しておけ! 第二波以降の攻撃で必要になる』
すると、別の機体の搭乗員から情報がもたらされる。
『数キロ先に戦車隊がいるそうです! 他に野砲もいます!』
『よーし、そいつら全部メモっておけ! ここで一網打尽にするぞ!』
こうして情報を持ち帰り、第二波攻撃の目標とする。
『戦車を中心に破壊する。対空砲に注意して爆撃せよ』
日が暮れる前に機甲師団のいる場所まで飛び、爆撃を敢行する。雑なカモフラージュをしていたのがアダとなり、機甲師団の戦車は恰好の的となった。
『爆弾の散布界を広くする。なるべく損害を大きくさせるんだ』
集中的に狙うのではなく、広く爆撃する。その効果によって、より多くの戦車を破壊することに成功した。
『明日から忙しくなるぞ。今日はたっぷり寝るんだぞ』
そういってロシア軍の爆撃隊は引き上げていく。
かくして、ここに連合国によるドイツ集中攻撃が始まるのだった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴
もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。
潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる