転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
上 下
81 / 149

第81話 そして

しおりを挟む
 一九三八年八月三日。
 懸念要素だった新型艦艇の建造が終了し、艤装工事も大詰めを迎えていた。この短期間でここまで漕ぎ着けたのも、ひとえに二十四時間不眠不休で稼働し続けた造船所と作業員のおかげだろう。
 しかし、艦があっても人がいなければ無用の長物である。その点についても問題はない。埠頭に接岸している各艦艇に、新兵と古参兵を混ぜて訓練を行っている。これにより練度を一定の水準にまで高めて、新しくできた艦艇に移った後でも戦力となるだろう。
 そんな報告が、大本営立川戦略研究所にいる宍戸にされる。
「いやぁ、ここまでやるのは大変だったでしょう。何か問題はありましたか?」
「それはそれは、山ほど発生していますよ。労働災害で何百人が病院送りにされたことか……」
 宍戸の質問に、林が答える。
「それは……。なんか悪いことしたような気分です……」
「宍戸所長が謝ることではありませんよ。ただ、少しは関与しているので、罪悪感は感じていてください」
「そんなぁ……」
 無慈悲な罪が宍戸を襲う。
「結局問題というか弊害みたいなのは発生しているわけですし、プラマイゼロみたいな感じかなぁ……」
「工期からしてみればかなり早いほうですので、実質問題はないようなものですよ」
 真面目な林からすれば、かなりキツいジョークを言っている。
「とりあえず、ご安全にってことで……」
 宍戸はこの話題を無理やり畳んだ。
「それはそれとして、朝鮮王国のほうはどうですか? ラジオの放送を聞く限りでは、李垠氏がソウルの宮殿に到着したそうですが?」
「はい。政権の移管は滞りなく行われています。しばらくは内政と経済の安定化を目指すことになっています。それを差し引いて建国するとなると、あと二ヶ月ほどで建国宣言を出せると思われます」
「となると、あと二ヶ月程度でアメリカに宣戦布告するのか……。それまでに何事もなければいいんだけど……」
「こればかりは分かりません。米国もこちらの様子を探っているようですし」
「このタイミングで向こうから宣戦布告されると面倒なんだよなぁ……」
 そういって宍戸は、椅子の背もたれにもたれかかる。
「そうだな……。事がうまく進むように、神社にお参りにでも行きます?」
「いい考えですね」
「どこかいいところあります?」
「こういう時は靖国神社が良いでしょう」
「それじゃあ、来週中の空いた時間にでも行きますか」
 そんなことを言いつつ、日々は過ぎ去っていく。
 その二ヶ月半後。大日本帝国は米国に宣戦布告した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。 潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

処理中です...