転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第46話 進言

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 一九三六年八月六日。宍戸は首相官邸を訪れていた。
 ここに来た理由は当然、日英仏蘭の四ヶ国による同盟の実現のためだ。
 職員が出迎え、そのまま応接室に案内される。そこには米内総理と外務大臣がいた。
「よく来たな。ま、かけてくれ」
「失礼します」
 宍戸はソファにかける。
「それで、今日の話とはなんだ?」
「実はですね……」
 宍戸は、四ヶ国同盟の概要を説明をする。
 それを聞いた米内は、眉間にシワを寄せる。
「……それは、今日見た夢の内容か?」
「いえ、本気で考えた内容です」
「いくらなんでも無茶です!」
 米内総理の横で、外務大臣が叫ぶ。
「我が国の主張が通らなかったから国際連盟を脱退したのに、どうしてそこに戻るような真似をするんです!?」
「彼の言う通りだ。我々は不本意ながら連盟を抜けたんだ。そこに戻る理由はなんだ? なぜそこにこだわる?」
 米内総理の問いかけに、宍戸は答える。
「簡単なことです。ナチス・ドイツを完全な悪にしたいんですよ」
「ナチス・ドイツを悪に?」
「前にも誰かに話したと思うんですが、自分がいた世界では、ナチス・ドイツはある種の悪の象徴として捉えられていました。そのような悪行を繰り返してはならないと、ナチス・ドイツ解体後のドイツの学校では教えているのです。ナチス・ドイツ……、いや、ヒトラーさえいなくなれば、世界に平穏が訪れるのです」
 宍戸は米内総理に熱弁する。
「……ヒトラーはそれほどまでに恐ろしい存在かね?」
「えぇ、恐ろしいです。そして、そのヒトラー率いるナチス・ドイツを追いつめたソ連も、です」
「ソ連がナチス・ドイツを追いつめたんですか……!?」
 外務大臣は驚きすぎて、逆に疲れているようだ。
「にわかには信じがたいが、それは本当なのかね?」
「本当です。信じてください」
 宍戸はまっすぐな目で、米内総理を見る。
 それに参ったのか、米内総理は一つ溜息をついた。
「要するに、ナチス・ドイツとの関係を断つ、と言いたいのだな?」
「はい」
「……これはとんでもない決断になるぞ」
「これも、大日本帝国が生き残るためです」
 米内総理は顎に手をやって、少し考える。
「帝国のためなら仕方ない。最終的にはナチス・ドイツとの対立を視野に入れよう」
「ありがとうございます」
 宍戸と米内総理は、目を合わせて合意する。その横で外務大臣は頭を抱えていた。
「それに関係する話だが、こちらからも話しておきたいことがある」
 そういって米内総理は、外務大臣のことをつつく。
「はっ……。えぇと、これは外務省の諜報員が掴んだ情報なのですが、ナチス・ドイツの歩兵師団がチェコスロバキアに移動しているとのことです」
「……は?」
 今度は宍戸があっけに取られてしまった。
「おそらく、チェコスロバキアを武力でぶん捕ろうという魂胆だろう。これは史実通りかね?」
 米内総理が宍戸に聞く。
「……そんなことはありません。少なくとも、ズデーテン分割は武力を使わないで穏便に済んだはずです」
「なら、どうやって分割したのかね?」
「確か……、ミュンヘン会議にて、イギリス、フランス、イタリア、ドイツの首相が会合し、ドイツの領土拡大をしないという条件を元に、分割を容認していました」
「まぁ、筋の通る話だな。おそらく、今回は武力でなんとかするという話だな」
「でも、それをやったらイギリスやフランスが黙ってないですよ?」
「しかし、場所が場所だ。残念ながら、イギリスは動くことはないだろう」
「ならフランスは?」
「どうだろうな。ラインラントより先に進めないのなら、それまでだろう」
「そうなると、列強の大規模な衝突はないと?」
「おそらくは。しかしこれも時間の問題だろう。ナチス・ドイツと英国で結ばれた英独海軍協定が破棄されれば、イギリスはすぐにでも対独開戦をするはずだ」
「うーん……。世界情勢は複雑怪奇だなぁ……」
「しかしこうみると、武力に物を言わせるナチス・ドイツは、確かに悪そのものに見えるな」
「そのうちユダヤ人の迫害を始めますし、やはり今のうちに手を切るのが得策ですよ」
「うむ……、そのようだな」
 米内総理は少し唸ると、決断した。
「分かった。ナチス・ドイツとは手を切る。ただし、これに関しては水面下で隠密に進めるように」
 こうして米内総理の決断により、ドイツとの国交を断絶するための準備が進んでいくことになった。
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