転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
上 下
28 / 149

第28話 義勇軍その三

しおりを挟む
 一九三六年四月二四日。第九師団は、バレンシアまで残り五キロメートルのところまで来ていた。すでに夜を迎えており、ここから攻勢をかけるのは困難と判断、翌朝まで休憩となった。
「で、サンフルホ中将と連絡は取れたのか?」
「連絡自体は取れましたが、どうやら政府軍の攻撃があったようで、断片的な情報しか受け取れませんでした」
「全て揃った情報が手に入るのは稀だからな。今は手に入った情報だけでなんとかしよう」
 山岡中将は、参謀と各連隊長を呼び出す。
 まだ冷たい風が吹く野外に、簡単なテーブルと椅子、ランタンの明かりが用意される。
「それで、向こうはなんと言ってきた?」
「聞き取れた単語だけ拾いますと、『西』『政府』『空軍』くらいでしょうか。他の言葉は、激しい銃撃によって判断がつきませんでした」
「そうか。この言葉だけで考えると、『西から政府軍の空軍が来ている』といった具合だな」
 山岡中将が考察する。
「この情報が正しいとして、空軍の偵察が来ていると判断したほうが良さそうだな」
「空軍ですと、我々の手には負えないですね……」
 国崎大佐が悔しそうに言う。
「それでも、前線にいる反乱軍のことを考えれば、無視するわけにもいかないだろう。脅威となる航空機も、戦闘機だけのはずだったか」
「それでも十分脅威です。簡単に体が引きちぎれますよ」
「だが、戦場は街中だ。違うか?」
 山岡中将が確認する。
「……えぇ、街中です。ここより圧倒的に死角が多いです。しかし、地面と空中では大きく異なります」
「それなら問題はない。街の上を飛ぶ航空機より、街中にいる戦車のほうがよっぽど脅威だ」
 山岡中将の絶対的な価値観により、国崎大佐の不安の種は潰された。
「それと、銃撃で聞こえなかった情報というのはどういうものだ? 大雑把で構わないから聞かせてほしい」
「それですと、『迫撃砲による攻撃』『海岸線で待機』『連隊が分断』『負傷者多数』といった具合です」
「ふむ。迫撃砲か、もしくは歩兵砲が前線に来ている可能性があるな。こちらには山砲がある。そこまで目くじらを立てる相手でもあるまい」
 山岡中将の予想と、優位差を感じさせないような発言だ。
「『海岸線で待機』と、『連隊が分断』という言葉から、反乱軍が敵勢力によって二分された可能性がありますね」
「そうだな。問題は分断された方向だ。北に分断されたのなら、これから合流して攻勢をかけられる。南に分断された場合は、敵に包囲殲滅されている可能性がある。これが非常にマズい」
「今連絡が取れているのは、海岸線にいる部隊でしょう。分断されたほうの部隊と連絡が取れればいいんですが……」
「今は祈るしかあるまい」
 山岡中将は無慈悲なことを言う。
「まずは最前線に偵察を出して、分断された部隊がいるかどうかを確認しよう。そこから、作戦行動を変えるように考えるか」
 こうして、各連隊長と協議をし、作戦行動を決定する。
 そして夜が明けた。作戦が各連隊に伝えられ、いよいよバレンシアに突入する。
「偵察隊を出せ」
 山岡中将の命令で、歩兵数名と通信兵数名がバレンシア中心部へと走り出す。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
 偵察隊は賢明に走る。自動車を使えば楽だが、敵に見つかる可能性がある。安易には使えない。
 建物の高さが上がり、いよいよ街中に突入する。
「死角が増える。慎重に進むぞ」
 走るのを止めて、早歩きで街中を進む。周囲の警戒をしながら、建物に囲まれた道を歩く。
 すると、前方に人影を見る。
「止まれっ」
 先頭にいた兵が、小さい声で鋭く言う。偵察隊は壁に近寄り、身を隠す。
 兵士が建物の角から様子を伺う。そこにいるのはスペイン軍の身なりをしていた。
「アレはどっちだと思う?」
「連隊にしちゃ、数が少ないな」
「合言葉とかないのか?」
「分からん」
 所属不明の部隊の前で、コソコソと話し合う偵察隊。隊長の兵が決断する。
「この際だから、堂々と前に出て、話し合ってみよう」
「話って、誰がするつもりだ?」
「俺がする。こういうのは言い出しっぺがやるもんだ」
 そういって隊長は、小銃を肩に掛け、背筋を伸ばしてそのままスペイン軍の前に出ていった。
「おい、どうすんだよ」
「俺らもやるしかねぇ」
 他の歩兵と通信兵も、なるべく身なりを整えて、堂々とスペイン軍の前に行く。
 すると、スペイン軍の兵士の一人が、偵察隊のことを見つける。
『おい、ここで何している?』
「どうも。我々は大日本帝国陸軍第九師団第七連隊所属の歩兵であります」
 すかさず通訳の歩兵が話をする。
『こんにちは。私たちは日本人です』
『日本人? ということは、アンタらがサンフルホ中将が言っていた日本兵か?』
「どうやら、我々のことを知っているようだ。サンフルホ中将のことも話している」
「諸兄らは反乱軍で間違いないか?」
『あなた方は反乱している側ですか?』
『そうだ。我々は反乱軍だよ』
 これで確定した。反乱軍の分断された部隊は北側にいたのだ。
 通信兵が、和文のモールス信号で通達する。
「そうか、それなら十分だ。進軍するぞ」
 こうして第九師団は、バレンシアへと突入する。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

処理中です...