転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第19話 会議

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 一九三六年二月十七日。
 宍戸は、今後の日本軍の行動を内閣に助言するため、研究員から現在の日本を取り巻く環境に関して報告を受けていた。
「……現状、連合国から経済的な圧力を受けている状態です。それにより、石油、ゴム、希少金属類など、重要な物資の輸入が減少傾向にあります」
「あー、輸入の問題かぁ」
 宍戸は船団護衛のことを思い出す。
「自分のいた世界では、ギリギリの船団輸送を行っていました。シーレーン防衛の重要性を理解せず、アメリカ海軍の無制限潜水艦作戦によって多くの商船を沈められ、敗戦の一因になったとも言われています」
「対処法はあるでしょうか?」
「そうですねぇ……。まずは量産型の駆逐艦や巡洋艦を作ることでしょうか。特型駆逐艦の建造コストはかなり高いはずです。量産に見合った簡易的な艦を用意する必要があります。また、これからは航空機の時代でもあります。対空機銃や、対空戦闘ができる砲を視野に入れた建造計画が必要になりますね」
「なんだか、山本中将も航空機主流を唱えていますね……」
「しかし、航空機で巡洋艦や、ましては戦艦を沈めることなど不可能に見えます」
「それは時間が解決します。その代わり、技術の進歩が必要ではありますが」
「陸軍のほうはどうなるでしょうか?」
「陸軍は……、まぁ、ひどい話が多いと言いますか……」
 宍戸は、南方で起きた飢餓や疫病のことを思い出す。だが情報としてはそれだけだ。宍戸はどちらかというと海軍のほうが詳しい。
「陸軍のほうはあまり詳しくないのですが、後世で語られた敗因の一つに装甲不足が上げられていますね」
「装甲不足ですか? あれでも装甲は十分あるはずですよ」
「それはそうなんですが、なにぶん敵に回した国がアメリカやイギリスと考えると、性能差が出るのは仕方ないと思いますよ」
「そうなると、米英の戦車と渡り合うにはどうすればいいんですか?」
「うーん。自分は専門家ではないのでなんとも言えませんが、適材適所というのが正解なのかもしれません」
「適材適所……」
「これは又聞きなので正確かどうかは分かりませんが……」
 宍戸は前置きをして話す。
「未来の日本でも、ロシア……ソ連の影響力は大きく、これから起こる世界大戦が終結した後も、国防の観点から軍隊に近い組織が発足しました。その組織で採用された戦車は、平地での戦闘ではなく山岳地帯である日本国土での戦闘を想定して設計されました。これと同じように、戦闘が起こるであろう場所の地理を生かした兵器を作る、もしくはその場所に敵を誘導するのが最も損害を受けずに済むと考えます」
 研究員たちは納得した様子で、手元のメモ帳に書き残す。
「あとは戦線をどこまでにするかを決めないと……。これから日中戦争……支那事変が発生する恐れがあります。大陸は日本と比べて広大ですから、敵を追いかけてどこまでも戦線を拡大させることになります。その先は、もう分かりますよね?」
「戦力が拡散され、弱体化する恐れがありますな」
「一部を突破しても、包囲殲滅される恐れがある」
「それよりも補給が追いつかずに自滅することも考えられるぞ」
 研究員がそれぞれ意見を出す。
「物事は複合的に作用しますが、原因を探ればそのようになるでしょう。戦線の拡大は、戦力の弱体化と比例します。今の日本には領土は必要ありません」
「領土は必要ない? それは違います」
 研究員の一人が反論する。
「領土の拡大は国家の繁栄に等しい。列強国をご覧ください、植民地という立派な領土を持っているでしょう」
「そうですね。では、未来ではどうなったか教えましょうか?」
 宍戸はあえて煽るように言う。
「植民地はほぼ全て独立しました。今日列強と言われた国は、植民地を持っていません」
「なん……」
 その研究員は背もたれにもたれかかる。
「領土があったとしても、その領土に住む人々が植民地であることを拒否したのです。よくある話ではないですか」
「しかし……、植民地を持っていたことで、世界恐慌を乗り越えた列強国もあります……」
「それもそうですね。ですが未来の世界では、国の仕事を民間企業が代わりに行っているところもあります」
「企業が力を持つ……のですか?」
「えぇ。その時国がするべきことは、企業が出し渋るであろう巨額を肩代わりするだけです」
「そんな……」
 自分が想定できない未来を教えられ、研究員は完全に沈黙した。
「他に何か無ければ、今日の会議はここまでにしましょう」
 宍戸が会議を終了させようとした瞬間、部屋の扉が開く音がした。
「緊急の報告です! スペインにて内乱が発生しました!」
「……あっ、スペイン内戦……」
 宍戸は、忘れかけていた歴史上の出来事を思い出した。
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