16 / 149
第16話 海軍省
しおりを挟む
高橋が一枚の紙を渡してくる。
「細かい要望はそこに書いてある。細かいとは言っても、だいぶ簡略化された要望だがな」
宍戸は内容を黙読する。要点を摘出すれば以下の通りである。
一、南進すべき。
二、米英と対立すべき。
三、但し、武力衝突は避けるべき。
簡潔に述べれば、この通りだ。
「南進論を支持、米英とは対立するも戦争はしない、と言ったところですか?」
「そうだ。米英の影響力は絶大だ。このまま何もしなければ、帝国は次第に衰弱していくだろう。武力をもって敵対するのもいいが、それもいつまで持つか分からない」
「その通りだと思います」
「実際、君がいた世界ではどうだ? 少し教えてもらえないだろうか?」
「いいですよ」
宍戸は、前の世界での日本を簡単に伝えた。真珠湾攻撃、マレー沖海戦、ミッドウェー海戦、ソロモン海戦、レイテ沖海戦、そして坊ノ岬沖海戦。
本当に簡単な内容に噛み砕いて説明する。
それを聞いた高橋一同は、絶望の表情を見せる。
「まさか、いや、それでも……」
高橋は目を見開いて、だが納得した様子だった。参謀部の二人も、絶望に打ちひしがれている。
「……ありがとう。やはりそこに書かれている方針は間違っていなかったようだ」
そう高橋が言う。そこに宍戸が助言する。
「しかし、南に向かうということは現在の仮想敵国、アメリカやイギリス、その他連合国と対立することになりますが、本当に大丈夫なんですか?」
「おそらく大丈夫ではないだろうな。少なくとも局所的な武力衝突が起こる可能性がある。戦艦の一隻や二隻が沈む覚悟が必要だろう」
「そうですか……。連合艦隊司令長官のあなたが言うなら、その通りなのかもしれませんね」
宍戸は肩を落とす。日本の生きる道には、戦争という避けられない障害があることを理解したからだ。
「だが、宍戸君にしかできない仕事もあるだろう。宍戸君の役職は戦略政務官、とりわけ大本営幕僚長相当職とある。海軍大臣や陸軍大臣と同等の権力を持っていると言っても過言ではない。つまり、宍戸君が皇軍の方針を決定すればいいのだよ」
「……それって天皇陛下の御仕事では?」
「確かにそうかもしれないな。しかし、全てのことを陛下がお決めになるわけではない。普通の組織のように、下の人間が上司や社長に提案し、それを社長が承認する。宍戸君の仕事は企画を提案することにあるのではないか?」
「た、確かに……」
しかし、本当にそれでいいのだろうか。宍戸は一度納得するものの、疑問に思う。
そして思ったことを口にした。
「それは言葉の綾ってやつではないですか……?」
「そうかもしれない。だが、提案することは誰だってできる。上の人間がそれをどう受け止めるかの差でしかない」
高橋の言っていることは至極真っ当だ。それと同時に、権限と言葉の曖昧さのチキンレースをしている感じがある。
宍戸は後で、総理や内務省の関係者に確認を取ろうと強く決めた。
「では話を変えまして、陸軍との関係をどう思いますか?」
「私個人としては、陸軍とは協力体制でありたいと思っている。先の満州事変での参謀本部の動きは理想的だ。我が軍令部もこうでありたいものだ」
「とにかく、協力し合いたいと……」
「こちらはそう願ってはいるが、向こうがどう思っているのかは分からない。陸軍は海軍のやろうとしている事をとことん否定してくる節があるからな」
「なるほど……。個人的にも、陸海軍が協力関係にあるのは賛成です。これからの国際情勢などを考慮すれば、それが最善ですからね」
「そうだろう。陸軍にはぜひそのように伝えておいてくれ」
こうして宍戸は海軍省を後にし、陸軍省へと向かうのだった。
「細かい要望はそこに書いてある。細かいとは言っても、だいぶ簡略化された要望だがな」
宍戸は内容を黙読する。要点を摘出すれば以下の通りである。
一、南進すべき。
二、米英と対立すべき。
三、但し、武力衝突は避けるべき。
簡潔に述べれば、この通りだ。
「南進論を支持、米英とは対立するも戦争はしない、と言ったところですか?」
「そうだ。米英の影響力は絶大だ。このまま何もしなければ、帝国は次第に衰弱していくだろう。武力をもって敵対するのもいいが、それもいつまで持つか分からない」
「その通りだと思います」
「実際、君がいた世界ではどうだ? 少し教えてもらえないだろうか?」
「いいですよ」
宍戸は、前の世界での日本を簡単に伝えた。真珠湾攻撃、マレー沖海戦、ミッドウェー海戦、ソロモン海戦、レイテ沖海戦、そして坊ノ岬沖海戦。
本当に簡単な内容に噛み砕いて説明する。
それを聞いた高橋一同は、絶望の表情を見せる。
「まさか、いや、それでも……」
高橋は目を見開いて、だが納得した様子だった。参謀部の二人も、絶望に打ちひしがれている。
「……ありがとう。やはりそこに書かれている方針は間違っていなかったようだ」
そう高橋が言う。そこに宍戸が助言する。
「しかし、南に向かうということは現在の仮想敵国、アメリカやイギリス、その他連合国と対立することになりますが、本当に大丈夫なんですか?」
「おそらく大丈夫ではないだろうな。少なくとも局所的な武力衝突が起こる可能性がある。戦艦の一隻や二隻が沈む覚悟が必要だろう」
「そうですか……。連合艦隊司令長官のあなたが言うなら、その通りなのかもしれませんね」
宍戸は肩を落とす。日本の生きる道には、戦争という避けられない障害があることを理解したからだ。
「だが、宍戸君にしかできない仕事もあるだろう。宍戸君の役職は戦略政務官、とりわけ大本営幕僚長相当職とある。海軍大臣や陸軍大臣と同等の権力を持っていると言っても過言ではない。つまり、宍戸君が皇軍の方針を決定すればいいのだよ」
「……それって天皇陛下の御仕事では?」
「確かにそうかもしれないな。しかし、全てのことを陛下がお決めになるわけではない。普通の組織のように、下の人間が上司や社長に提案し、それを社長が承認する。宍戸君の仕事は企画を提案することにあるのではないか?」
「た、確かに……」
しかし、本当にそれでいいのだろうか。宍戸は一度納得するものの、疑問に思う。
そして思ったことを口にした。
「それは言葉の綾ってやつではないですか……?」
「そうかもしれない。だが、提案することは誰だってできる。上の人間がそれをどう受け止めるかの差でしかない」
高橋の言っていることは至極真っ当だ。それと同時に、権限と言葉の曖昧さのチキンレースをしている感じがある。
宍戸は後で、総理や内務省の関係者に確認を取ろうと強く決めた。
「では話を変えまして、陸軍との関係をどう思いますか?」
「私個人としては、陸軍とは協力体制でありたいと思っている。先の満州事変での参謀本部の動きは理想的だ。我が軍令部もこうでありたいものだ」
「とにかく、協力し合いたいと……」
「こちらはそう願ってはいるが、向こうがどう思っているのかは分からない。陸軍は海軍のやろうとしている事をとことん否定してくる節があるからな」
「なるほど……。個人的にも、陸海軍が協力関係にあるのは賛成です。これからの国際情勢などを考慮すれば、それが最善ですからね」
「そうだろう。陸軍にはぜひそのように伝えておいてくれ」
こうして宍戸は海軍省を後にし、陸軍省へと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる