転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第15話 リエゾン

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 一九三六年二月四日。
 内務省の職員が宍戸邸を訪れ、ある物を渡した。衣服である。
 宍戸は一種の軍服のようなそれを着るが、少し小さいような気がした。
 宍戸は超法規的措置により、遡って一九三六年一月一日より爵位を叙された華族となった。それと同時に、手に入れた肩書がある。
 陸海軍統合戦略政務官(大本営幕僚長相当職)兼連絡将校。これが宍戸の役職だ。ちなみに内務省から海軍省へ出向していることになっている。しかも階級を貰っており、なんと海軍少将とのこと。一体何がどうなっているのだろうか。
 いつの間にか内務省に就職した上に、とんでもない肩書を背負ってしまった宍戸。これからが不安である。
「いいのかなぁ、こんな役職貰っちゃって……」
「似合ってますよ、和一様」
(何故そんなにドヤ顔なんだ……?)
 なぜかすず江が誇らしそうにしていた。そういう彼女は昨晩、一つしかないベッドで一緒に寝ようとしなかったという、少女らしい一面を見せていた。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
 宍戸が車に乗って家を出るとき、すず江と二人の使用人が見送ってくれた。
(なんだか、守るべきものが増えたなぁ)
 そんなことを思いながら、宍戸は流れゆく街並みを見る。
 そして宍戸の職場へと到着した。海軍省である。
「今日から宍戸様には、大本営の幕僚長の一人として、海軍省と陸軍省の橋渡しとなっていただきます。そのために連絡将校と兼任させてもらっています」
「なんというか、陸軍と海軍との交渉人って感じですね」
「そのように思っていただいて構いません。本日は海軍省側の大本営、海軍参謀部にて話を聞き、意見してもらいます」
「それはいいんですが、それって統帥権の侵害になったりしません……?」
「今の超法規的措置による解釈だと、侵害に当たると考えられています。ですが、宍戸様の意見は、あくまで陛下や陸軍省海軍省に対する助言ということにしています」
(うわぁ、曖昧法解釈。厄介なことになりそうだなぁ)
 宍戸がそんなことを思う。しかも、そのことが顔に出ていたのか、職員が付け加えて言う。
「厄介なことになると思いますが、今の宍戸様は、現在の天皇陛下を頂点とする帝国憲法の根底を揺るがす危ない存在です。この構図を発案したのは岡田総理とお聞きしています」
「何故総理が……?」
「おそらく、未来に起こることを知っている人間になるべく権力を集中できるようにしたためと思われます。現に、英国議会では宍戸様と同じ転生者が演説をしていました。どの国も、考えることは同じです。『自分たちは勝者の側にいる』。この世界は、勝者が歴史を作るのですから」
 その言葉を聞いて、宍戸は思うところがあった。例えば、ナチス・ドイツが連合国に勝利した世界。おそらくはホロコーストが完全に正当化されていたのかもしれない。ナチス党の、特にヒトラーの一声で、死ぬことが決定づけられた民族が生まれたかもしれない。
 そう考えれば、宍戸がいた世界の歴史はかなりマシだったのだろう。
 だが宍戸にしてみれば、それはリセットされた状態に等しい。ここから、綱渡りの歴史が繰り返されるのだ。
 そんなことを考えていると、海軍省の職員がやってくる。その前に、助手席にいた職員がある物を差し出す。
「これを携帯してください。お守りみたいなものです」
 布に包まれた、手のひらより少し大きい物体。宍戸はそれを受け取ったとき、正体を理解した。
「け、拳銃……!」
「もしもの時の備えです。弾は入ってませんが、威嚇で使えるはずです」
「それ意味あります?」
 宍戸は、拳銃の操作方法などを聞きたかったが、海軍省の職員が車の扉を開けるのが先だった。宍戸は布に包まれた拳銃を素早くカバンにしまい、海軍省の職員の後についていく。
 階段で二階に上がり、少し進んだ所の部屋に入る。どうやら会議室のようで、中にはすでに男性数人が待ち構えていた。
「宍戸様をお連れしました」
「ご苦労。あとは人払いを頼む」
「はっ」
 そういって職員は会議室を出る。宍戸は入口付近で直立していた。
「まぁまぁ、宍戸君。そんなに身構えることはない。こちらにきて座りたまえ」
「し、失礼します」
 宍戸は言われるがまま、ソファに座る。
「さて、自己紹介がまだだったな。私が連合艦隊司令長官の高橋三吉だ」
 机の正面に座っている高橋が言う。
「参謀部第一部部長の近藤だ」
「部長補佐の青木です」
 残りの二人も自己紹介する。
「では改めまして、宍戸です。政務官兼連絡将校に任命されました」
「話は聞いている。どうも伯爵だそうだな」
「えぇ。昨日邸宅と嫁を貰いました」
「いいことだ。男の本望は、出世することと嫁と子供を持つことだからな」
 そういって高橋はにんまりと笑う。ちょっと不気味だ。
「では、政務官兼連絡将校としての仕事をしてもらおうか」
 いよいよ仕事に取り掛かる。
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