転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
13 / 149

第13話 叙爵

しおりを挟む
 一九三六年一月二八日。
 宍戸は内務省の職員に呼び出され、車に乗せられていた。
「今日は何用で呼び出されたんです?」
「宍戸さんの未来を決める、大事なことです」
 そうして連れられて来たのは、人通りがほとんどない、閑散とした場所だった。その中の一つの建物の前に車が止まる。
「ここは一体……?」
 宍戸は職員に聞く。
「華族会館です」
「……えっ」
 宍戸は思わず建物を見る。
 おそらく大正期に作られたであろう建築様式であるが、どこか質素な佇まいをしていた。
 そのまま職員に連れられ、華族会館に入る。正面の階段を上がり、一段と大きな扉の前に到着した。
 職員が扉を開けると、そこには大勢の人々がこちらを見ていた。
 宍戸は、その刺すような視線を向けられ、急に緊張してくる。
「あ、あの、今日はここに何用で……?」
「何って、宍戸さんの叙爵を執り行うのですよ」
 それを聞いた宍戸は、点と点が繋がったような顔をした。
 そして、ふと疑問に思ったことを口にする。
「こんな服装でいいんですか?」
 今の宍戸の服は、転生してきたときの服装のままである。すなわち、完全な冬の私服だ。
「そこには目をつむりましょう。なんだって、宍戸さんは転生者なんですから」
(なんて適当な……)
 しかし、おそらく貴族と思われる方々に見られてしまったからには、もう引き返すことはできない。宍戸は仕方なく、その格好で職員の後ろをついていく。
 案内されたのは、貴族の方々の正面にある一段高くなっているステージの上。椅子が端のほうに一つだけ置かれている。
「こちらにお座りになってください」
 そういって職員は、下座のほうにポツンと置かれている椅子を指す。
 逆に反対側にも椅子があり、そこにはすでに男性が座っていた。
(マジか……。完全に公開処刑モノじゃないか)
 だが、こうなってしまったからには後には引けない。宍戸は覚悟を決めた。
『えー、皆さま。大変長らくお待たせしました。これより、簡易的ではありますが、未来からの転生者、宍戸和一様の叙爵式を執り行いたいと思います。それでは、最初に国歌斉唱です。皆さま、ご起立願います』
 その場にいる全員が、席から立つ。当然宍戸も立ち上がった。そして国旗のある方に向く。ピアノによる演奏が行われる。
 国歌斉唱が終わると、全員椅子に座る。
『それでは、宍戸和一様に叙爵を行います。与えてくださるのは、三笠宮みかさのみや崇仁たかひと殿下でございます』
 そういって、上座のほうに座っていた男性が立ち上がる。
(殿下ということは、皇族の方だったか……)
 宍戸は余計緊張する。
『殿下、宍戸様、前にお進みください』
 宍戸は椅子から立ち上がり、崇仁親王と相対する。
 崇仁親王は、そばにいたスタッフからメダルのような物を受け取った。
「宍戸和一君」
 崇仁親王が宍戸のことを呼ぶ。
「は、はい」
「本来なら、皇室と国家に対して忠誠を誓う宣誓を行うのだが、今日は省くことにする。すでに総理大臣や兄上様とお会いになっているそうだからな」
 そういって、メダルを宍戸の首に掛けようとする。宍戸はそのメダルを受け入れるため、頭を下げる。メダルは首にかかった。
 次に親王は、スタッフから桐箱のようなものを受け取る。それを宍戸に差し出した。
「今はこれだけだが、我が帝国に貢献すれば、色々と叙するものが増えるだろう」
 そういって親王は、桐箱を宍戸に渡した。おそらく爵位に関するものが入っているのだろう。
 そして親王は、宍戸に声をかける。
「おめでとう。今日から君は伯爵だ」
 会場からパラパラと拍手が響く。やる気のない拍手だ。
(ほとんどの貴族は、俺が爵位を叙されるのが気に食わないはずだ。おおよそ、人脈も財力もない平民風情が……とか思ってるんだろうな)
 こうして、簡易的ではあるが、宍戸の叙爵式は終了した。
 宍戸は職員に連れられ、華族会館の中にある一室へと案内された。
「あの、これから何を……?」
「宍戸様には、これからある方にお会いしていただきます」
 よく分からないが、まだ何かあるようだ。
 すると、部屋の扉がノックされる。
「どうぞ、お入りください」
 扉が開き、一人の少女と二十代くらいの女性、そして初老の男性が入ってくる。
「ご機嫌麗しゅう。私は森すず江と申します。男爵、森三九郎の三女でございます」
「これはご丁寧にどうも……」
「後ろの方は、私の家の使用人、トミさんと亮元りょうげんさんです」
「よろしくお願いします」
「今後ともよしなに」
「はぁ。それで、自分に何の用が……?」
 その問いに、職員が答える。
「今日から宍戸様は、浅草区にある邸宅に住んでいただきます。御住居になる邸宅ですが、かつて侯爵の離れとして使われていました。少々手狭いですが、なんとかなるでしょう」
「ちょちょちょ。話しが見えてこないんですが……」
「結論から言えば、浅草区の邸宅にて森すず江様と使用人二人と一緒に住んでいただきます」
「なっ……」
 宍戸は驚きのあまり、絶句した。あまりにも波乱万丈な生活が待っていることが確定したからだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...