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第13話 叙爵
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一九三六年一月二八日。
宍戸は内務省の職員に呼び出され、車に乗せられていた。
「今日は何用で呼び出されたんです?」
「宍戸さんの未来を決める、大事なことです」
そうして連れられて来たのは、人通りがほとんどない、閑散とした場所だった。その中の一つの建物の前に車が止まる。
「ここは一体……?」
宍戸は職員に聞く。
「華族会館です」
「……えっ」
宍戸は思わず建物を見る。
おそらく大正期に作られたであろう建築様式であるが、どこか質素な佇まいをしていた。
そのまま職員に連れられ、華族会館に入る。正面の階段を上がり、一段と大きな扉の前に到着した。
職員が扉を開けると、そこには大勢の人々がこちらを見ていた。
宍戸は、その刺すような視線を向けられ、急に緊張してくる。
「あ、あの、今日はここに何用で……?」
「何って、宍戸さんの叙爵を執り行うのですよ」
それを聞いた宍戸は、点と点が繋がったような顔をした。
そして、ふと疑問に思ったことを口にする。
「こんな服装でいいんですか?」
今の宍戸の服は、転生してきたときの服装のままである。すなわち、完全な冬の私服だ。
「そこには目をつむりましょう。なんだって、宍戸さんは転生者なんですから」
(なんて適当な……)
しかし、おそらく貴族と思われる方々に見られてしまったからには、もう引き返すことはできない。宍戸は仕方なく、その格好で職員の後ろをついていく。
案内されたのは、貴族の方々の正面にある一段高くなっているステージの上。椅子が端のほうに一つだけ置かれている。
「こちらにお座りになってください」
そういって職員は、下座のほうにポツンと置かれている椅子を指す。
逆に反対側にも椅子があり、そこにはすでに男性が座っていた。
(マジか……。完全に公開処刑モノじゃないか)
だが、こうなってしまったからには後には引けない。宍戸は覚悟を決めた。
『えー、皆さま。大変長らくお待たせしました。これより、簡易的ではありますが、未来からの転生者、宍戸和一様の叙爵式を執り行いたいと思います。それでは、最初に国歌斉唱です。皆さま、ご起立願います』
その場にいる全員が、席から立つ。当然宍戸も立ち上がった。そして国旗のある方に向く。ピアノによる演奏が行われる。
国歌斉唱が終わると、全員椅子に座る。
『それでは、宍戸和一様に叙爵を行います。与えてくださるのは、三笠宮崇仁殿下でございます』
そういって、上座のほうに座っていた男性が立ち上がる。
(殿下ということは、皇族の方だったか……)
宍戸は余計緊張する。
『殿下、宍戸様、前にお進みください』
宍戸は椅子から立ち上がり、崇仁親王と相対する。
崇仁親王は、そばにいたスタッフからメダルのような物を受け取った。
「宍戸和一君」
崇仁親王が宍戸のことを呼ぶ。
「は、はい」
「本来なら、皇室と国家に対して忠誠を誓う宣誓を行うのだが、今日は省くことにする。すでに総理大臣や兄上様とお会いになっているそうだからな」
そういって、メダルを宍戸の首に掛けようとする。宍戸はそのメダルを受け入れるため、頭を下げる。メダルは首にかかった。
次に親王は、スタッフから桐箱のようなものを受け取る。それを宍戸に差し出した。
「今はこれだけだが、我が帝国に貢献すれば、色々と叙するものが増えるだろう」
そういって親王は、桐箱を宍戸に渡した。おそらく爵位に関するものが入っているのだろう。
そして親王は、宍戸に声をかける。
「おめでとう。今日から君は伯爵だ」
会場からパラパラと拍手が響く。やる気のない拍手だ。
(ほとんどの貴族は、俺が爵位を叙されるのが気に食わないはずだ。おおよそ、人脈も財力もない平民風情が……とか思ってるんだろうな)
こうして、簡易的ではあるが、宍戸の叙爵式は終了した。
宍戸は職員に連れられ、華族会館の中にある一室へと案内された。
「あの、これから何を……?」
「宍戸様には、これからある方にお会いしていただきます」
よく分からないが、まだ何かあるようだ。
すると、部屋の扉がノックされる。
「どうぞ、お入りください」
扉が開き、一人の少女と二十代くらいの女性、そして初老の男性が入ってくる。
「ご機嫌麗しゅう。私は森すず江と申します。男爵、森三九郎の三女でございます」
「これはご丁寧にどうも……」
「後ろの方は、私の家の使用人、トミさんと亮元さんです」
「よろしくお願いします」
「今後ともよしなに」
「はぁ。それで、自分に何の用が……?」
その問いに、職員が答える。
「今日から宍戸様は、浅草区にある邸宅に住んでいただきます。御住居になる邸宅ですが、かつて侯爵の離れとして使われていました。少々手狭いですが、なんとかなるでしょう」
「ちょちょちょ。話しが見えてこないんですが……」
「結論から言えば、浅草区の邸宅にて森すず江様と使用人二人と一緒に住んでいただきます」
「なっ……」
宍戸は驚きのあまり、絶句した。あまりにも波乱万丈な生活が待っていることが確定したからだ。
宍戸は内務省の職員に呼び出され、車に乗せられていた。
「今日は何用で呼び出されたんです?」
「宍戸さんの未来を決める、大事なことです」
そうして連れられて来たのは、人通りがほとんどない、閑散とした場所だった。その中の一つの建物の前に車が止まる。
「ここは一体……?」
宍戸は職員に聞く。
「華族会館です」
「……えっ」
宍戸は思わず建物を見る。
おそらく大正期に作られたであろう建築様式であるが、どこか質素な佇まいをしていた。
そのまま職員に連れられ、華族会館に入る。正面の階段を上がり、一段と大きな扉の前に到着した。
職員が扉を開けると、そこには大勢の人々がこちらを見ていた。
宍戸は、その刺すような視線を向けられ、急に緊張してくる。
「あ、あの、今日はここに何用で……?」
「何って、宍戸さんの叙爵を執り行うのですよ」
それを聞いた宍戸は、点と点が繋がったような顔をした。
そして、ふと疑問に思ったことを口にする。
「こんな服装でいいんですか?」
今の宍戸の服は、転生してきたときの服装のままである。すなわち、完全な冬の私服だ。
「そこには目をつむりましょう。なんだって、宍戸さんは転生者なんですから」
(なんて適当な……)
しかし、おそらく貴族と思われる方々に見られてしまったからには、もう引き返すことはできない。宍戸は仕方なく、その格好で職員の後ろをついていく。
案内されたのは、貴族の方々の正面にある一段高くなっているステージの上。椅子が端のほうに一つだけ置かれている。
「こちらにお座りになってください」
そういって職員は、下座のほうにポツンと置かれている椅子を指す。
逆に反対側にも椅子があり、そこにはすでに男性が座っていた。
(マジか……。完全に公開処刑モノじゃないか)
だが、こうなってしまったからには後には引けない。宍戸は覚悟を決めた。
『えー、皆さま。大変長らくお待たせしました。これより、簡易的ではありますが、未来からの転生者、宍戸和一様の叙爵式を執り行いたいと思います。それでは、最初に国歌斉唱です。皆さま、ご起立願います』
その場にいる全員が、席から立つ。当然宍戸も立ち上がった。そして国旗のある方に向く。ピアノによる演奏が行われる。
国歌斉唱が終わると、全員椅子に座る。
『それでは、宍戸和一様に叙爵を行います。与えてくださるのは、三笠宮崇仁殿下でございます』
そういって、上座のほうに座っていた男性が立ち上がる。
(殿下ということは、皇族の方だったか……)
宍戸は余計緊張する。
『殿下、宍戸様、前にお進みください』
宍戸は椅子から立ち上がり、崇仁親王と相対する。
崇仁親王は、そばにいたスタッフからメダルのような物を受け取った。
「宍戸和一君」
崇仁親王が宍戸のことを呼ぶ。
「は、はい」
「本来なら、皇室と国家に対して忠誠を誓う宣誓を行うのだが、今日は省くことにする。すでに総理大臣や兄上様とお会いになっているそうだからな」
そういって、メダルを宍戸の首に掛けようとする。宍戸はそのメダルを受け入れるため、頭を下げる。メダルは首にかかった。
次に親王は、スタッフから桐箱のようなものを受け取る。それを宍戸に差し出した。
「今はこれだけだが、我が帝国に貢献すれば、色々と叙するものが増えるだろう」
そういって親王は、桐箱を宍戸に渡した。おそらく爵位に関するものが入っているのだろう。
そして親王は、宍戸に声をかける。
「おめでとう。今日から君は伯爵だ」
会場からパラパラと拍手が響く。やる気のない拍手だ。
(ほとんどの貴族は、俺が爵位を叙されるのが気に食わないはずだ。おおよそ、人脈も財力もない平民風情が……とか思ってるんだろうな)
こうして、簡易的ではあるが、宍戸の叙爵式は終了した。
宍戸は職員に連れられ、華族会館の中にある一室へと案内された。
「あの、これから何を……?」
「宍戸様には、これからある方にお会いしていただきます」
よく分からないが、まだ何かあるようだ。
すると、部屋の扉がノックされる。
「どうぞ、お入りください」
扉が開き、一人の少女と二十代くらいの女性、そして初老の男性が入ってくる。
「ご機嫌麗しゅう。私は森すず江と申します。男爵、森三九郎の三女でございます」
「これはご丁寧にどうも……」
「後ろの方は、私の家の使用人、トミさんと亮元さんです」
「よろしくお願いします」
「今後ともよしなに」
「はぁ。それで、自分に何の用が……?」
その問いに、職員が答える。
「今日から宍戸様は、浅草区にある邸宅に住んでいただきます。御住居になる邸宅ですが、かつて侯爵の離れとして使われていました。少々手狭いですが、なんとかなるでしょう」
「ちょちょちょ。話しが見えてこないんですが……」
「結論から言えば、浅草区の邸宅にて森すず江様と使用人二人と一緒に住んでいただきます」
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