転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第7話 閣僚会議その一

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 一九三六年一月九日。
 この日は海軍省の役人と海軍下士官に連れられて、車で数分の場所に移動する。その道中、見たことのある橋を見かけた。
(二重橋……)
 見たことのある写真が脳裏に思い浮かぶ。そして車は、その敷地へと入っていく。
 ここは皇居━━この時代なら宮城きゅうじょうの中ということになる。
 そして車は、とある建物の前に止まった。
「ご降車願います」
 運転していた下士官が、宍戸にそう伝える。
 車を降り、役人の案内に従って建物を進む。すると目の前に、転生初日に見た扉が見える。
 役人が扉をノックする。
「宍戸様をお連れしました」
「入ってくれ」
 そういって扉が開く。初日と違って、今回は穏便に部屋の中に入れた。
 部屋の中には、大勢の男性がいた。若そうな人はおらず、全員シワが深く入った面持ちをしている。
「よく来たな、宍戸君。まぁ、そこに掛けてくれ」
「失礼します」
 優しそうな顔をした男性に言われ、宍戸は素直にそれに応じる。
 そのまま椅子に座るように話した男性が、静かに話し始める。
「私は総理大臣の岡田だ。まぁ、そんな大したタマではないがね」
 そういって自分で笑う。
「さて、無駄話は置いといて、先に紹介しよう。我が岡田内閣の閣僚たちだ」
 その言葉で、宍戸はこの集まりを理解した。そして一つの疑問が出てくる。
「あの、陛下は?」
「陛下は現在、お休みの最中だ。ここのところ心苦しいことが多いからな」
「では、この集まりは……?」
「この集まりは、仮称だが宮城閣僚会議という。このように、宮城の一部屋をお借りして閣僚会議をするものだ」
「宮中であるのに、御前会議をしないのですか?」
「そう簡単に陛下の意見を賜るものではない。それに、陛下のご決断は国家方針に等しい。国家方針も簡単に変えていいものではないからな」
「それも……そうですね」
 宍戸は納得した。
「さて、本題に入ろうではないか。まず、これからの我が国の進むべき道を教えてほしい」
「進むべき道……」
 そう言われ、宍戸は少し悩む。ここは架空戦記のようにするか、それとも好戦的な道を進むか。
 しかし、どの道を進んでも、そこには幾千万もの国民の命がかかっている。それは忘れてはいけない。
「でしたら、大陸から手を引くことですね。特に満州国を完全な独立国として認め、関東軍を引き上げさせてください」
「何だと!?」
 陸軍の軍服を着た男が、怒号を上げて立ち上がった。
 それもそうだ。大陸の利権は主に陸軍が握っている。利権を手放すのは簡単ではないだろう。
「貴様ァ……! さては海軍の人間か!?」
「落ち着け。もともと満州国関連は国際連盟から勧告を受けているではないか」
「それがなんだ!? 満州国が無ければ、ソ連の大攻勢を受けることになるんだぞ! それでは帝国が滅びるではないか!」
「まぁ、落ち着いてくれ。宍戸君にも何か考えがあるのだろう。理由があれば聞かせてくれないか?」
「はい。まず話題にも上がった通り、満州国に関しては国際連盟から勧告を受けている以上、アメリカ他多数の国家から経済制裁を受ける要因の一つになります。このままでは、この国から石油を筆頭とした重要な資材がなくなり、この後勃発するアメリカとの戦争に負けます」
「それは困るな……」
 海軍の軍服を着た男性が呟く。
「また、自分がいた時代では地政学が発達しており、朝鮮半島は地政学的に見れば重要な武力衝突が発生しやすい場所になります。この場所を抑えるのは膨大な戦力が必要になりますが、もし有利に防衛を続けることができれば、内地はソ連や中華民国の脅威には晒されることはなくなります」
「な、なるほど……」
 閣僚のうちの誰かが呟いた。
「つまり、関東軍が満州国から朝鮮半島に移動することができれば、日本は最小限の防衛をするだけでソ連の南進を食い止めることができるはずです」
「こ、この……! 口を開けば適当なことを抜かしよって……!」
 陸軍大臣は青筋を立てている。
「だが、ずいぶんと現実的ではないか。聞く限りは利点が多そうだ」
 岡田総理が感想を述べる。
「総理! この青二才に騙されてはなりませんぞ! 関東軍を動かすなどもってのほか! 彼らは満州国の建国に尽力したではありませんか!」
「しかしだな、関東軍はすでに参謀本部の所掌を離れつつあるのも事実だろう。今一度関東軍を再編して、内地に移動するのはどうだ?」
 そう提案したのは大蔵大臣である。おそらく経費削減を狙っているのだろう。
「ぐっ……」
 陸軍大臣は反論することもできずに、椅子に座りなおす。
「この意見は持ち帰って検討させてもらおう。彼の言い分は正しいかもしれないが、万が一間違いがあってはいけないからね」
 岡田総理はそう締めた。
 陸軍大臣からキツい視線を浴びるが、宍戸はそれを徹底的に無視した。
「他に何か言いたいことはあるかね?」
 総理が続けて言う。
「それでしたら、陸軍の再編で削減された予算の一部を、海軍の艦艇建造に回していただきたいのです。おそらく今、新型戦艦の建造で予算集めに必死になっているでしょうし」
 それを聞いた海軍大臣が、一瞬鋭い視線を宍戸に向けたが、すぐに元の顔に戻る。
「そうか。検討しよう」
 岡田総理は、少し眉をひそめて言った。
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