異世界転生無双短編集

山田みぃ太郎

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キャットフードの狩り

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「キャットフードというものは、あ~、人間が自動車というあの大きな動く家を使って、狩りをするものだと、わしはずっと思うておる」
「自動車を使って狩り…、ですか」
「そうじゃ。実はわしはこの家に住むようになる、つまりあの人間に飼われるようになる前は、いっぱしの野良猫じゃった」
「そういう話、されていましたね」
「そして自動車は、物凄い力を持っておるのじゃ」
「ものすごい力?」
「実はわしが野良猫だった頃、よく一緒に食べ物を探したりしておった、連れの猫がおったのじゃ」
「連れの猫?」
「そうじゃ。そしてその連れは、あの人間の自動車というものに踏まれて死んだのじゃ」
「うわ~、可哀そう」
「そうじゃな。とにかく自動車にかかってしもうたら、猫などひとたまりもないわい」
「そうなんですか。それはさぞかしお辛かったでしょう」
「そうじゃな」
「それで、ええと、さっき言っておられた、キャットフードの狩りとは?」
「これはわしの妄想かも知れんが、キャットフードというのは、相当にどう猛な生き物なのじゃ」
「どう猛な? 生き物? キャットフードが?」
「そうじゃ。というのは、人間がキャットフードを連れて帰るときは、いつも自動車で帰ってきおる。じゃから人間はどこかに潜んでおるキャットフードを見つけては、自動車で一気に襲い、殺してから持って帰るのじゃ」
「だからキャットフードは、家ではいつも大人しくしているのですか。自動車に襲われて殺されたから…」
「そういうことじゃな」
「それじゃ、猫缶は?」
「おそらく猫缶も、人間が狩りをして捕まえてくるものじゃろうて」
「だけどあの人間は、猫缶はめったに捕まえてきませんね」
「おそらく猫缶は、小さくてとてもすばしこくて、じゃからかんたんには捕まらんのじゃろう」
「それじゃ、キャットフードはずうたいが大きいから、逃げ足も遅くて…」
「おそらくそういうことじゃな」
「だからぼくらはほとんど毎日キャットフードで、猫缶はたまにしかたべられないのか」
「そういうことじゃな」
「う~ん…」


 ぼくはある日、猫部屋の窓際の陽だまりで、ほかの猫たちと並んでごろんと寝ころんで、ずいぶん前に死んだおじいさん猫の話を思い出していた。

 キャットフードは人間が自動車で狩りをして捕まえてくる。
 そして猫缶は、すばしっこいのでめったに捕まらない。
 だからめったに食べられない。
 そうだったんだ…

 そんなことを考えていたらいつしか眠くなって、それでその陽だまりでごろんとしたまま眠りに落ちそうになったら、とつぜんぼくは金縛りに遭い、そしてぼくの目の前には仙人、いやいや仙猫という感じの長毛の、そしてとても年をとった感じの奇妙な猫が現れ、突然ぼくにこんな話を始めた。

「お前さん、短い時間の限定じゃが、人間に転生してみんか?」
「短い時間? で、人間に転生?」
「そうじゃ。転生するのはお前を飼っておるあの人間で、明日の朝から昼頃までじゃ」
「で、あの人間は?」
「その間、猫に転生する」
「つまりぼく?」
「そうじゃ」
「つまり、ええと、要するに、ぼくと飼い主のあの人間が入れ替わるってことですか?」
「お前さん飲み込みが早いのう」
「だけどどうしてぼくにそんなことを?」
「わしはもともと転生をつかさどる魔王なのじゃが、実はとある邪悪な魔王によって猫魔王に転生させられたのじゃ」
「ありゃまあ」
「それで、猫→人間および人間→猫における転生のメカニズムをずっと研究しておった」
「ずっと研究を?」
「わしは邪悪な魔王によって、猫魔王に転生させられたのじゃ。じゃから、ああ~、猫魔王もそれほど悪くはないが、どちらかというと人間の方がいいかな」
「そりゃまあ、飼い猫よりも飼い主の人間の方が、なにかと自由があっていいかも知れませんね」
「じゃからそういうわけで、猫→人間および人間→猫における転生のメカニズムを研究しておったのじゃ。そしてまだ臨床研究段階じゃが、数時間であれば、かような転生も可能となった」
「かような転生も可能となった? へぇー、で、数時間ですか」
「そうじゃ」
「で、それを過ぎると?」
「元にもどる」
「う~ん」
「さすればわしは、その転生持続時間延長を目論んでおる」
「目論んでおる? じゃ、ぼく実験台?」
「これまで十分な臨床試験を行っておるから、猫→人間および人間→猫における転生の安全性については請け合おう」
「安全に?」
「そうじゃ。それにこの研究は猫魔界医学発展に貢献するものじゃ」
「猫魔界医学発展に貢献?」
「そうじゃ」
「ええと、まあいいですよ。ぼく今、豪快にひまだし、一度キャットフードの狩りなんかやってみたかったし」
「キャットフードの狩り? なんじゃそら」
「人間が自動車を使ってキャットフードの狩りをするんです」
「はぁ~? わしゃそんな話は聞いたことないが」


 まあそういう訳で、ぼくはその「転生臨床実験」みたいなのを体験することになり、で、その次の日の朝、朝食の平凡な(それほど美味しくない)キャットフードを食べ終えた頃、ぼくはいきなり人間に転生した。
 もちろんあの人間は、猫であるぼくに転生したようだった。
 つまり入れ替わったってこと。

 そして都合のいいことに、その日はあの人間がキャットフードの狩りをする日だった。
 ところで今まで猫だったぼくに人間は勤まるのかな? と思ったけれど、転生するとき、人間なりの生きる術はデフォルトで付いているようなった。
 一方、ぼくに転生したあの人間も、さっそく爪とぎをしたり、体をなめたり、猫のトイレも上手に使えているようだったし。

 それでぼくは猫部屋のドアのノブを、器用な人間の手で回して開け、二足歩行で人間の家の玄関へ行き、そこに置いてあった自動車のカギを手に取り、外へ出て自動車に乗った。
 もちろん自動車の動かし方もすぐに分かった。

 それで、張り切ってキャットフードの狩りに出発♪ と思ったら、どうやらキャットフードの狩りはホームセンターというところでやるみたいだった。
 ぼくはジャングルのような、はたまたサバンナのようなところでやるとばかり思っていたから意外だった。

 ところで「ジャングル」とか「サバンナ」とか、はたまた「ホームセンター」とかいうボキャブラリーは、ぼくが猫のころは知らなかった。
 つまりこれは人間に「一時転生」した際、デフォルトで備わっているらしかったけれど、そういうことはどうでもいいから、もう書かない。

 で、実際は「狩り」どころか、キャットフードはホームセンターで「買う」のだと分かって、ぼくはぶったまげた。
「飼う」ではないぞ! 
「買う」だ!

 そういう訳でキャットフードはホームセンターのペット用品コーナーにずらりと並んでいる。
 だけど、キャットフードだけじゃなく、猫缶もずらりと並んでいるではないか!
 それにしてもあの、ずいぶん前に死んだおじいさん猫が言っていた、

「キャットフードというものは、人間が自動車というあの大きな動く家を使って、狩りをするものだと、わしは思うておる」とか、
「おそらく猫缶は、とてもすばしこくてかんたんには捕まらんのじゃろう」とかいうのは全くのでたらめだったんだ。
 だけどおじいさん猫を悪く言うのはやめておこう。おじいさん猫なりに思うところがあったのだろう。

 それはいいけれど、そういうわけで、ぼくは押していたホームセンターのショッピングカートに、猫缶をしこたま…

 あ、だけど人間には「お金」という概念があったのだ。
 それでぼくは右の後ろ足の付け根あたりの付いていた、ポケットという小さな袋みたいなものから「お財布」という物体を出し、その中に「お金がいくら入っているか」を確かめた。
 そして猫缶を買えるだけ買おうと…

 それで猫缶の「値段」を見ていると、「税別」と書いてあった。
 つまり人間の世界には「消費税」などというくだらない物があり、しかもこれが10%などという法外な額である。

 これは猫が実際は10匹なのに11匹と勘定するような不当なものである。
 しかもこれが財務省とかいう悪の権化のようなところが「どうしてもやるもんね!」と言って決めたらしく、許しがたいものだ!
 なんたって猫缶が一割も減ってしまうではないか!

 まあそういうことはどうでもいいが、とにかくあの人間のお財布に入っていた有り金全部はたいて買える猫缶を割り出し…、ええと、ぼく、やっぱり猫だから、あまり算数得意ではない。

 だけどどうやら人間の言葉はしゃべれるので、ペット用品コーナーの猫玉さんという人間を目ざとく見つけ、「この有り金全部で猫缶を買う」という意味のことを人間の言葉で言うと、ばっちり通じたみたいで、猫玉さんはにこやかにぼくを手伝ってくれ、「これ、猫ちゃんに大人気ですよぉ」とか「やっぱりまぐろ味は定番かなぁ」とか、いろいろ言って、結局カートには山盛りの猫缶♪

 それからレジという関所みたいな場所へ行き、会計を済ませ、いくつかの袋に入れてもらった。
 そしてレシートは速攻で捨てたのだ!
 レシートが無ければ、あの人間は猫缶を返品できない♪

 そしてぼくはいくつかの猫缶の袋を抱え、すっからかんの財布を後ろ足の付け根のポケットという小袋に入れ、そして自動車を運転して家へ帰り、買ってきた猫缶は全部猫部屋の入り口のキャットフード置き場に置いて、そろそろ猫にもどる時間も迫ってきたので、ぼくは猫部屋へはいり、お山座りしていたら突然猫にもどり、ぼくだった人間は人間にもどった。
 そしてけげんな顔をして立ち上がり、猫部屋を出て行った。

 さてさて、あの返品不可能の猫缶の山。
 これから当分みんなで、猫缶三昧としゃれこもうではないか(=^・^=)


「何だこの猫缶の山は」に続きます。
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