異世界転生無双短編集

山田みぃ太郎

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異世界転生したら豪快に運が悪くなる 其の3

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其の2からの続きです。

 それから見る見るうちに辺りは暗くなり、もう夕方か、はたまた皆既日食のようになり、しかも99%の運を搾り取られている俺は、もうさすがにTHE ENDと観念したが、それから廃墟の街をふと見ると、偶然、とある地下鉄駅の入口が見えた。
 そしてその入口の階段を覆うように、頑丈そうなコンクリート製の屋根がついている。

 実はこの異世界で話に聞くところによると、この異世界の、とある運と手際の悪い土木技術者が、この地下鉄駅の入り口を、何と設計の10倍ものコンクリートと鉄筋を使ってしまい…、実はその技術者はそれを理由に、不運にも解雇されたらしいのだが、理由はともあれ、間違えて10倍の材料だから、当然10倍の強度になってしまっているらしかった。

 まあ、耐震偽装とは逆で、完全なる「過剰品質」であったが故、わざわざ取り壊して強度の低いものに立て替えることも、「まあいいだんべえ」という話になり、そのままにされたのだ。

 とにかくそういう経緯で、その地下鉄駅の屋根はそのまま残っていた。
 もちろんそれ故、あれほどの自然災害、即ち巨大台風やら直下型地震やらにもびくともせずに、その場所で凛と佇んでいたのだ。

 それと、これはふと思い出したのだが、100年以上前、ロシア帝国のツングースカに巨大隕石が…、いやいやだけど落下したのはたしか、小さな彗星かなんかで、しかもかなりの上空で、大気圏突入時の高温で爆発し、そして蒸発してしまし、爆風だけが地上にやってきたという。

 もう一つ。
 彗星落下後、ツングースカでは半径数百キロにわたり、樹木が放射状になぎ倒されていたのだが、彗星が爆発した地点の真下だけは、樹木だけは倒れていなかった。
 何故かといえば、ここは真上から爆風が来たためであり、樹木は葉っぱを奪われはしたが、倒れなかったらしい。

 とにかく「THE END」を覚悟した者には、どうやらパノラマ視;死を覚悟したときにそれまでの人生が次々と走馬灯のように浮かんでくる…、という現象が起こるらしく、たしかに俺もいろいろ浮かんだけど、その一つが、何故かその土木技術者の不手際と、ツングースカの彗星爆発の話だったのだ。

 で、冷静に考えると、辺りが暗くなったことから、どうやら小惑星は真上から来ているみたいだし、もしあれが岩石で出来た小惑星ではなく、ツングースカみたいに雪玉みたいな彗星だったら…

 そう思った俺は、ともあれ淡い期待とともに、そしてダメ元で、その地下鉄の入口の屋根の下に逃げ込んだ。
 もちろん地下鉄駅まで逃げ込みたかったが、地下鉄はとうの昔に閉鎖され、バリケードがが置かれていて入れなかった。

 だけどともかく俺は、その土木技術者の不手際と、これから落下してくる小惑星が雪玉みたいな彗星で、しかも俺のまさに真上に落ちてくることを、俺に残された残った1%の運に賭けてみることにしたのだ。

 それで俺はコンクリート製の屋根の下でうずくまり、両手でしっかり目と耳を塞ぎ、内臓破裂に備え、大きく口を開けた。

 そして俺は祈った。

(どうか彗星が真上に落ちてくれ。そして不手際で作った過剰な強度の屋根様、どうかその爆風に耐えてくれ…)

 そして数秒後、「どか~ん!」物凄い爆発音。
 そしてしばらく、ごーごーというすさまじい風の音。

 周囲からは建物のガラス、いや、建物そのものが、そして瓦礫もみんなぶっ飛ばされるような「どっしゃんがらがら」というすさまじい音。
 そういうものが数分間続いた。

 そして辺りは静かになった…

 それから俺は恐る恐る目と耳から手を放し、口を閉じ、そして顔を上げた。
 すると地下鉄入口の屋根はかろうじて原形を留めていた。
 しかしコンクリートが割れ、呆れるほどの極太の鉄筋が何本も露出し、無残にねじ曲がってていた。
 
 そして周囲を見ると、そこは見事に大平原で、それまであった瓦礫同然の街は見事に消滅し、はるか遠くに地平線が見えた。

 つまり俺が期待したとおり、落ちたのは彗星で、空中で蒸発し、しかもそれは俺の真上で起こり、だから真上から爆風が吹き、逆の意味での「耐震偽装」をされた地下鉄入口のコンクリート製の屋根は、その真上からの猛烈な爆風に持ちこたえたのだ。

 俺には運が残されていたんだ!

 そう思ってから、気を取り直した俺は、それから人っ子一人いないその大平原をてくてくと歩き始めた。

 それまであったコンクリート製のビルも何も、爆風で吹き飛ばされていた。
 だから見事にのっぺらぼうの大平原。

 そして少し歩いて、俺がふと振り返ると、モニュメントのように、その地下鉄の入口だけが、かろうじて残っていたが、その直後、どこからともなく吹いてきたそよ風にあおられ、見事どっしゃんがらがらと崩れ落ち、そして何トンもあろうかというコンクリートの塊が、俺のうずくまっていたまさにその場所にどか~~んと落下した。

 それを見て俺は背筋がぞっとした。
 そしてそのとき俺は自分の持つ運をすべて使い果たしたと確信した。
 もう運の持分はゼロだ!

 それから、ここにいてもしょうがないと思い、俺は大平原の地平へと向かい、てくてくと歩き続けることにした。

 しばらく、というか、延々と歩いてからふと振り返ると、あの地下鉄の「モニュメント」は地平線の彼方へ消えていた。
 そしてどの方向を見ても、荒涼とした大地の向こうに地平線が見えるだけだった。

(しかしあの彗星の野郎、豪快に更地にしやがったな…)
 なんて俺はあきれ果ててそう思ったが、それはどうでもいい。
 だからやっぱり俺は、すでにすべての運を使い果たしている筈だ。
(だからこの荒涼とした、そして無限とも思える大地を、俺は延々と歩き続けるしかないのか…)

 そんなことを考えながら、俺が三日ほど歩いた時だった。

 其の完結へつづく
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