ブチ猫のミッキー

山田みぃ太郎

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幸せだったぼく

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 アイタロー、ペコ、タバの「母親」として、それからぼくは何年かを幸せにくらした。
 幸せな幸せな、とても長い月日だった。
 そして、アイタローたちも立派に育ってくれた。

 だけど、いつのまにかぼくは、あのおじいさん猫みたいに歳を取っていった。
 体も弱ってしまったみたいだった。

 そしてある頃から、キャットフードのかりかりを食べると、口の中がものすごく痛くなるようになってしまった。
 あまりに痛くて、ぼくは思わず「シャーッ」と言って物陰に隠れた。
 
 猫カゼのときみたいに体もきつくなった。
 そういえば猫カゼのときも口の中が痛かった。
 それでぼくは、また猫カゼにかかったのかなと思っていたけれど、それはいつまでもいつまでも治らなかった。

 そんなぼくの様子を見かねて、あの人間は朝も夕も、石を使ってキャットフードを粉々にし、それに水を混ぜてとろとろにしたものを食べさせてくれた。
 それでぼくがそれをおそるおそる、ぺろぺろとなめると、何とか食べられた。
 
 それからぼくは毎日抱っこされ、仰向けにされ、そしてぼくの口の中に何か棒のようなものを押し込まれたりもした。
 猫カゼのときみたいに。

 あの人間が、ぼくの病気を治してくれているのかなと思ったんだ。
 だけど、あの死んだ小さな犬みたいに、ぼくはいつまでも良くならなかった。
 
 それでもおなかがへったら食べたいので、とろとろのキャットフードをぺろぺろとなめて、それからもぼくは生きのびた。
 だけど、とろとろのキャットフードだけでは足りないみたいで、ぼくはどんどん小さくなっていった。

 そして自分がどんどん弱っていくのがわかった。
 やっぱりぼくの病気はただごとではないみたいだった。

 なんだかもう、ずっと治らないのではないかという予感もしていた。
 とにかくぼくはどんどん弱っていったんだ。
 
 それまでなら「ぴょん」と飛び乗れていた水飲み場も、ある日ぼくは登れなくなった。
 それを見たあの人間は、ぼくを水飲み場に抱え上げてくれたり、それからいつも床に水を置いてくれるようにもなった。
 
 だけど、それからもぼくはどんどん弱って、そしてどんどん小さくなった。
 ぼくが面倒を見た仔たちのなかでも、アイタローはずっとぼくに懐いていたので、いつもぼくといっしょにいて、いつも心配そうにぼくをなめてくれた。

 寒いときはいっしょに段ボールの中で寝てくれたりもした。
 ぼくは逆に、あの仔にめんどうを見てもらっていたんだ。
 

 だけど、それからもぼくはどんどん弱って、ある日、とうとうぼくは動けなくなった。
 そして何も食べられなくなった。

 そしたらあの人間は毎日何回もぼくを抱っこして、「ミッキー」「ミッキー」と、ぼくの名を呼びながら、ぼくの口の中にあの棒を入れ、いろんなものを流し込んでくれた。

 だけどもうぼくは動けなかった。
 じっと寝ているか、ただ抱っこされているだけだった。

 本当は起きて歩き回って、アイタローや、みんなといっしょに遊びたかったのに。
 だけどぼくの体は、もう動かなかったんだ。

 そしてある日、ぼくはあの人間に抱っこされながら、いつしか自分が起きているのか、眠っているのかさえも分からなくなっていた。
 いや、本当はそのときぼくは夢を見ていたのかもしれない…
 

 ぼくが生まれて、兄弟たちと一緒に生きようとしたけれど、だけどみんなどんどん死んでいって、そしてぼくだけが生き残った。

 それからきびしい野良猫の生活をして、そんなぼくはあのおじいさん猫に出会い、おじいさん猫の話を聞き、あの人間に出会い、あの人間はぼくが一度かみついたのにそれを許してくれて、巣を作ってくれ、猫カゼを治してくれた。

 それに今思えば、野良猫だった頃だって、ぼくはそれなりに楽しく自由に生きていたと思う。
野良さんだった頃の実際のミッキー


 それから新しいこの家に来て、アイタローたちに出会い、幸せな飼い猫としての長い長い月日が過ぎていった…
 それは、ぼくがこれまでに経験した、いろんなことが、きっと夢になっていたんだ。
 
 あの人間に抱っこされ、ぼくはそんな夢を見ていたんだ。
 そして今、ぼくはあの人間に抱っこされ、だけどぼくはもう動けない。
 あの人間はぼくに「ミッキー」「ミッキー」と呼びかけている。

「ミッキー」「ミッキー」「ミッキー!」…

 だけどいつしかその声もだんだん小さくなって、そして何も聞こえなくなった。
 ぼくのまわりはだんだん暗くなって、何も見えなくなった。
 ただあの人間に抱っこされている感覚だけになった。
 
 もしかして、ぼくはもうこのまま死ぬのかな? 
 あのおじいさん猫や、ケリーや、そしてぼくの兄弟たちのように…

 もしこのままぼくが死んだら、あの人間は、あのおじいさん猫やケリーが死んだ時のように、悲しい顔をして、ぼくを庭に埋めるのかな?
 とても悲しい顔をして、目を閉じて両方の前足を合わせて…
 
 だけど、だけどもしぼくがこのまま死んだとしても、お願いだから、絶対に、絶対に、悲しい顔なんかしないでね!
 
 ぼくはあの人間と本当の友達になれて、アイタローや、みんなと出会えて、だから、だから、ぼくは……
 ぼくは、きっと、きっと、絶対に、世界で一番幸せな猫だったんだよ!

  ミッキーは、私にとって一生忘れられない猫でした。
 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
 お読みいただいた皆さんの心の片隅に、ミッキーが永遠に生きていることを願いながら…
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