ブチ猫のミッキー

山田みぃ太郎

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おじいさん猫1

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 人間という生き物は自動車よりずっと大きな「家」という巣に住んでいる。
 そんな事はぼくが縄張りのパトロールをするうちに、とっくに知っていた。

 だけど、ときどきそこで「けしからん猫」を見かけた。
 人間と一緒に住んでいるんだ! そういうのを「飼い猫」とかいうらしいけれど…
 
 それはいいけれど、とにかく人間なんてろくな奴じゃない。きっとそのうちひどい目にあうぞ!
 いつもぼくはそう思っていた。
 
 ところで、以前からぼくに「こんにちは」と話しかけるあの変な人間は、あいかわらずぼくに「こんにちは」と話しかけていた。
 それにしてもあの人間は一体何を考えているのだろう?
 いや、何をたくらんでいるのだろう? 
 それとも、ただ単に猫が好きなだけなのだろうか…
 
 そんなある日。
 ぼくがそんな事を考えながら、たまたま、「こんにちは」と話し掛ける、あの変な人間の家の前を通りかかったときだった。
 その家に一匹の猫が住んでいたんだ。
 
 最初ぼくは、〈ほ~ら、ここにも「けしからん猫」がいる!〉と思った。〈人間と暮らしているだなんて!〉
 だけどそれほど性格の悪そうな猫にも思えなかったので、ぼくは様子を見るために、その猫に少し近づいてみた。

 するとその猫は、あの人間の家の端っこで日向ぼっこをしていた。
 そしてその手前に網戸があった。
 だからその猫は外には出られない様子だった。もちろんぼくも中に入れない。
 
 それにしても網戸というのは不思議な物体なんだ。ぼくらは通れないのに風や匂いは通るし、音も話し声も聞こえる。
 以前、ほかの人間の家で、おいしそうな魚の匂いがしたので、ぼくはその匂いにひかれて魚の方へ向かっていたら、いきなり何かが「どしゃん」とぼくの鼻にぶつかった。
 それが網戸だった。
 とにかく不思議な物体なんだ。

 それはいいけれど、あの人間の家の中にいたその猫は、網戸に鼻先を付けるようにして座っていた。
  それでぼくが、人間が「縁側」と呼ぶ、岩場のような場所に飛び乗ったら、ぼくはその猫と同じくらいの高さになり、それでぼくはその猫をよく見る事が出来た。 

 ぼくらは網戸を挟んで、お互いにお見合いをするように座っていたんだ。


 そして近づいてよく見ると、相当なおじいさん猫だった。
 それに、とても目が悪そうだった。ぼくが近づいても最初は気がつかず、ぼくの肉球が縁側に触れるかすかな音とぼくの臭いで、やっとぼくの事に気づいたようだった。
 
 ところで、猫という生き物には年寄り猫に敬意を表し、親切にしなければいけないという掟がある。
 そのへんはライオンやオオカミや猿なんかとは違う。

 奴らは年寄りを寄ってたかっていじめ、群から追い出してしまう。だいたい群を作る連中にろくな奴はいない。

 その点、猫は群れない上等な生き物だ。
 年寄りを大切にするのも、猫が上等で気高い生き物であるという証なのだ。
 それでぼくはせいいっぱい丁寧な言葉で、そのおじいさん猫に話しかけた。

「こんにちは。おじいさんは毎日ここで日向ぼっこをされているのですか?」
 するとそのおじいさん猫は、ぼくの声に少し驚いた様子だったけれど、それからすぐに、ゆっくりと話を始めた。

「そうじゃ。実はわしは、いつのまにかここへ連れてこられたのじゃ」
「いつのまにか、ここへ連れてこられた…、のですか?」
「そうじゃ。こう見えてもわしも若いころは、ちょっとした飼い猫じゃった」


「お若い頃から、ちょっとした飼い猫?」
「それは…、このしゃれた首輪が飼い猫の証拠じゃ」
「首輪?」
つづくよ
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