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~山着~ 最終章 「視霊」 全六話
最終話 視霊
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次に気が付くとあなたは歩いていた。普通の山道だ。自分の意思ではない動きなので、また誰かの中の意識で見せられている。
うんざりした気持ちでひたすら眺めさせられていて、目を瞑ろうとしてもそれすらあなたの意思では出来ず、また新たなこの男に”瞬きすら”全てを委ねられていく。
何かを、誰かを探しているように草木を掻き分け、岩や倒木の裏を散策している様子だった。
すると、生い茂った雑草で視界が手前しか見えず、その奥が一メートルも無い崖と斜面になっているのにこの男は気が付かず、右足を踏み込んでしまい体幹がズレて大きく右前方へと転倒していく。
何度も人の死を見て体験してきたあなただからこそ分かることがある。この男もこの瞬間に死んだということを。運悪く坂で転げ落ちて行きながら、途中の岩に頭を強く打ち付けた。頭部は裂傷する程ではなく外傷も無いので血も出ていない。しかし脳の内部では出血をしていて頭蓋内出血による、今までに比べて今回は比較的に簡単な死のようだったので、あなたは内心ホッとした。
薄れゆく意識の中、坂道で転がり続け終えた最終地点では頭が下に、身体が上の状態で倒れているのでこの男の身体が少し見える。今まで妊婦のお腹が見えてきたように、先ほど首の関節が外されて腹と内臓が鬼たちに食われ死んでいったように、紺色で薄手のガウンジャケット、ジーパン姿が今、自分の目下に見えている。
そしてこれは、この身体は先ほどの杜下の服装と全く同じだということに気が付いた。
《そうか。杜下さんも死んでいたんだ・・・・・・》
可哀そうな気分になりながら意識が消える。その間際、杜下があなたのことを心配している感情だけが心に通じた・・・・・・
最後に。
あなたは今までの『モノ』たちの背後に立っていく。
『敵前逃亡した侍の子の背後に、侍の男として』
『祭壇に立たされ、生け贄となっていく者たちの背後に、様々な想いで』
『異形の子の背後に、母親として』
『あなた自身の背後に、母親と父親として』
そして・・・・・・
あなたの目の前には叔母とその子供たちが住む家がある。
甥と姪がかわいい寝顔で眠っている。
叔母は疲れた表情で洗い物をしている。その、後ろ姿が見える。
これからあなたがやるべきこととは、決して億劫がってはいけない事だった。やるべき事とは平凡で同じことの繰り返しだ。しかし、見守るということを止めてしまうと、今度はまたこの人たちが『御呼ばれ』されてしまうのだから・・・・・・・
あなたはこれで満足していた。叔父の変わりに自分が、今度はこの子たちを守っていく番だった。
あなたは使命が出来てなんだか喜んだ。何も無い、流れるがままの敷かれたレールにトロッコで乗っていくような空虚な弱者ではなく、列記とした目的が出来た。叔母にも母にも、誰にも罪悪感を抱かずに真っ当に顔向けが出来る。そんな崇高な使命のように感じて、心が救われたようだった。
父と母がどうやって自分を守ってくれてきたのか、それらも今やっと実感をした。あの時、父と母も使命を全うしたんだ。バスに乗って、あれが成仏というものだろうか。きっとあなたにはそういったビジョンだったのだと思われる。最後に”落ち着け”と言う為に、使命を全うした後でもあそこで出てきてくれたのだろう。
《ありがとう・・・・・・》
この世界ではあなたの周辺に多くの『モノ』の気配がします。同じような『モノ』と成ったあなたには、今までよりも明確に、実態感の存在として感じてくる。
異形のモノたち。異国のモノたち。悔やまれ死んでいった兵士や農民。捨てられていった年寄りや子供たち。捧げられ食われたモノたちや、自死を選ぶモノたち。そして多くの炭鉱夫たち等・・・・・・
あなた自身の所縁も感じました。
あなたはどうやらあの戦の時に逃げ出し、この山で生け贄となった女性との間に生まれた子の子孫であり、生まれ変わりのような『モノ』のようですね。
「御出」
食い損ねた『モノ』たちの思念のような因縁が、ずっと憑きまとっていたのだろう。多くの餓死者を引き連れて・・・・・・
この故郷に居てる間に、どんどんと様々な『怨』と『所縁』を蓄積し集めてしまっていた。
父と母は、だからあなたをこの地から遠ざけてくれた。
あなたは『貢ぎモノ』だったはずの血と肉。因果が紡ぎ、繋がるはずがなかった子種・・・・・・
その他、多くの捧げられてきた『モノ』達からも僻み、嫉み、そして恨まれてきた血筋だった。
《ごめんね・・・・・・》
父と母の努力や想いを無駄にしてしまったかもしれない。でも、あなたはこれがいいと、心の中で両親へと手向けた。
父と母の運命を辿り、やっと一緒になれた気がする。同じ宿命を受けて最後まで全うすれば、いつかきっと・・・・・・
幼き頃のように、バスを追いかけたように、置いていかれるだけじゃなく、今はゴールが見えてきた気がする。同じバスに、あの赤いバスに乗って行けば・・・その先は・・・・・・
しかし、あなたは『視霊』となってもまだ「視線」を感じています。周囲の『物の怪』たちや「嫉みの視線」ではありません。温かく好意の眼差しです。あなたはまだ見守られています。これからもずっと。
これを見て頂いているいる”そこ”の『あなた』がまた、これからもこれを開き、読んでくれる度に・・・・・・
~山着~ END
うんざりした気持ちでひたすら眺めさせられていて、目を瞑ろうとしてもそれすらあなたの意思では出来ず、また新たなこの男に”瞬きすら”全てを委ねられていく。
何かを、誰かを探しているように草木を掻き分け、岩や倒木の裏を散策している様子だった。
すると、生い茂った雑草で視界が手前しか見えず、その奥が一メートルも無い崖と斜面になっているのにこの男は気が付かず、右足を踏み込んでしまい体幹がズレて大きく右前方へと転倒していく。
何度も人の死を見て体験してきたあなただからこそ分かることがある。この男もこの瞬間に死んだということを。運悪く坂で転げ落ちて行きながら、途中の岩に頭を強く打ち付けた。頭部は裂傷する程ではなく外傷も無いので血も出ていない。しかし脳の内部では出血をしていて頭蓋内出血による、今までに比べて今回は比較的に簡単な死のようだったので、あなたは内心ホッとした。
薄れゆく意識の中、坂道で転がり続け終えた最終地点では頭が下に、身体が上の状態で倒れているのでこの男の身体が少し見える。今まで妊婦のお腹が見えてきたように、先ほど首の関節が外されて腹と内臓が鬼たちに食われ死んでいったように、紺色で薄手のガウンジャケット、ジーパン姿が今、自分の目下に見えている。
そしてこれは、この身体は先ほどの杜下の服装と全く同じだということに気が付いた。
《そうか。杜下さんも死んでいたんだ・・・・・・》
可哀そうな気分になりながら意識が消える。その間際、杜下があなたのことを心配している感情だけが心に通じた・・・・・・
最後に。
あなたは今までの『モノ』たちの背後に立っていく。
『敵前逃亡した侍の子の背後に、侍の男として』
『祭壇に立たされ、生け贄となっていく者たちの背後に、様々な想いで』
『異形の子の背後に、母親として』
『あなた自身の背後に、母親と父親として』
そして・・・・・・
あなたの目の前には叔母とその子供たちが住む家がある。
甥と姪がかわいい寝顔で眠っている。
叔母は疲れた表情で洗い物をしている。その、後ろ姿が見える。
これからあなたがやるべきこととは、決して億劫がってはいけない事だった。やるべき事とは平凡で同じことの繰り返しだ。しかし、見守るということを止めてしまうと、今度はまたこの人たちが『御呼ばれ』されてしまうのだから・・・・・・・
あなたはこれで満足していた。叔父の変わりに自分が、今度はこの子たちを守っていく番だった。
あなたは使命が出来てなんだか喜んだ。何も無い、流れるがままの敷かれたレールにトロッコで乗っていくような空虚な弱者ではなく、列記とした目的が出来た。叔母にも母にも、誰にも罪悪感を抱かずに真っ当に顔向けが出来る。そんな崇高な使命のように感じて、心が救われたようだった。
父と母がどうやって自分を守ってくれてきたのか、それらも今やっと実感をした。あの時、父と母も使命を全うしたんだ。バスに乗って、あれが成仏というものだろうか。きっとあなたにはそういったビジョンだったのだと思われる。最後に”落ち着け”と言う為に、使命を全うした後でもあそこで出てきてくれたのだろう。
《ありがとう・・・・・・》
この世界ではあなたの周辺に多くの『モノ』の気配がします。同じような『モノ』と成ったあなたには、今までよりも明確に、実態感の存在として感じてくる。
異形のモノたち。異国のモノたち。悔やまれ死んでいった兵士や農民。捨てられていった年寄りや子供たち。捧げられ食われたモノたちや、自死を選ぶモノたち。そして多くの炭鉱夫たち等・・・・・・
あなた自身の所縁も感じました。
あなたはどうやらあの戦の時に逃げ出し、この山で生け贄となった女性との間に生まれた子の子孫であり、生まれ変わりのような『モノ』のようですね。
「御出」
食い損ねた『モノ』たちの思念のような因縁が、ずっと憑きまとっていたのだろう。多くの餓死者を引き連れて・・・・・・
この故郷に居てる間に、どんどんと様々な『怨』と『所縁』を蓄積し集めてしまっていた。
父と母は、だからあなたをこの地から遠ざけてくれた。
あなたは『貢ぎモノ』だったはずの血と肉。因果が紡ぎ、繋がるはずがなかった子種・・・・・・
その他、多くの捧げられてきた『モノ』達からも僻み、嫉み、そして恨まれてきた血筋だった。
《ごめんね・・・・・・》
父と母の努力や想いを無駄にしてしまったかもしれない。でも、あなたはこれがいいと、心の中で両親へと手向けた。
父と母の運命を辿り、やっと一緒になれた気がする。同じ宿命を受けて最後まで全うすれば、いつかきっと・・・・・・
幼き頃のように、バスを追いかけたように、置いていかれるだけじゃなく、今はゴールが見えてきた気がする。同じバスに、あの赤いバスに乗って行けば・・・その先は・・・・・・
しかし、あなたは『視霊』となってもまだ「視線」を感じています。周囲の『物の怪』たちや「嫉みの視線」ではありません。温かく好意の眼差しです。あなたはまだ見守られています。これからもずっと。
これを見て頂いているいる”そこ”の『あなた』がまた、これからもこれを開き、読んでくれる度に・・・・・・
~山着~ END
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