二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン

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~山着~ 最終章 「視霊」 全六話

第三話 異形

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 気が付くとあなたと杜下は二人で洞窟の入口付近、焚火の傍にいた。元に戻ったかと一瞬思ったが、あなたの手にレールの冷たい感触が伝わりその考えを改めさせられた。杜下も目覚めて同じ感想を言ってきた。

「これは・・・戻ったのか?!」

「いや、どうやら違うみたいです」
 そう言って足元のレールを指さす。杜下はそれを確認すると同時に嗚咽とともに吐き出した。

「・・・最悪の気分だ。君は・・・こんな体験を何度もしてきたのか?」

「まぁ、そうです。これで四度目?ともなると、慣れてくるもんですね」

「・・・僕はもう二度とごめんだよ。逃げよう。もう奥へ行くなんて言うなよ」

 そう言って杜下は洞窟の外へと走り出す。あなたも後に続く。
 するとライトの光では届かない木々の闇から


 ガサガサガサッ!・・・キィキィキィ・・・バキバキッ!


 と、明らかに何かがいるとアピールするかのように、けたたましく草木をかき分けて何かがやってくる。杜下がその方向をライトで照らすと、あなたには少し見覚えがある姿が現れた。そこには大分と大きく成長した、目が四つあり手が三本の異形の子が腰を曲げながら手を広げ雄たけびを上げている。

「キィィィィィィ!シャァーーー!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」

 杜下は腰を抜かすかのように尻もちを付きながら、怯えた声と表情にて四つん這いでこちらへと帰ってくる。あなたは杜下の反応とは真逆の感情でその異形の子を見上げていた。二メートルは越えるほどに大きく、身体はまるでゴリラかのように筋肉質で逞しかった。一度、母親の母性と愛情を共有し記憶では短時間だったが、感性は何年も共に暮らしたかのようにあなたは成長した我が子を眺めて心はしていました。

 そのあなたの姿を戻ってきた杜下が気づき
「何をしているんだ?!」
 と言ってあなたの手を引いて洞窟内へと戻り、焚火の松明をもって異形の子へと火を向けて威嚇をしている。子は動物のように火を怖がり、杜下に追い立てられるかのようにまた森の闇へと消えていった。


 ボーっとしているあなたの元への帰ってきた杜下があなたの肩を揺さぶり
「おい!どうしたんだ!」
 その声であなたは正気を戻しました。

「なんなんだあの化け物は!くそっ!!」
 杜下はこの場所から逃げ出せない状況で悔しそうにしながら松明を離さないでいる。

「・・・あれも、見ました。見たんです。杜下さん。可愛そうな親子だった・・・無事に大きく育って・・・良かった」

 あなたが実際に見ていた母子の姿や村人たちは、大昔、江戸時代などの様な着物や出で立ちであり、現代にまであの子が生き続けているとは思えませんが、しかし、あなたにはあの時の子のように見えたのです。

「何を言っているんだ?これじゃ帰れないじゃあないか!」

「まぁ、杜下さん。奥へと進みましょう。きっと、まだ居るんですよ。死んだ人たちが・・・・・・」

 そう言ってあなたはふらふらと洞窟内へと歩き出します。杜下は異形の子から逃げるように奥へとあなたの後を付けてきました。


 今度は入ってすぐの分岐点で左の道を選び進みました。その先に更なる分岐は無く、長く掘り進められた穴が続き、だんだんと下へとその穴は下り坂で進んでいる。

 深部まで到着するとまた、多くの影が掘削作業をしていました。

 今度は到着するや否やすぐにバタバタと影が倒れていく。凄い勢いで影が順番に倒れ、あなたの目の前の炭坑夫が倒れ、次にあなたもふっと意識を失いました。

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