二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン

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~山着~ 最終章 「視霊」 全六話

第二話 守護霊

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「・・・で、こ、これは、ど、ど、どうなっているんだ?」
 杜下は焦りを隠すこともなく眼球が震えている。

「・・・自分にも具体的なことは分かりません。言えることはこの山の松毬まつぼっくりに触ると、色んな死を見せられるんです。恐らく今回も・・・でも、今回は少し違います。二人で体験することも初めてですし、今までは主観視点できました。今回はお互い自分自身の認識下での俯瞰視点という違いもあります。もしかして触れたのではなく松ぼっくりを、からでしょうか・・・・・・」

「・・・ちょっと何を言っているのかが分からないんやけど、要するにこれが君たちの言うという体験なのかい?それを今は君と共有し、僕にも起きているということかな」

「神隠し・・・という、今までは意識を失い気がつけば別の現実世界、という展開でしたが・・・もしかすると、意識の覚醒下ではこうなのかもしれません」

「・・・まぁ、君にもよくは分からないってことだね。では、とりあえずはあまり深くは考えないでおこう。僕はなんとなくだが引き返して逃げるべきだと思うんだけど・・・進むんだね?」

「・・・はい。今までの経験上、誰かの死を体験するとへ帰れます」

「そ、そうか・・・・・・」

「・・・あの、杜下さん。聞きたいことがあります」

「??なんですか?」

 あなたは固唾をのみ込みながら言い出しました。

「自分の父と母はここで、この山で死んだのですね・・・?」

「・・・まさか・・・・・・」

「さっき言った、ここでの。それで見たんです。父が、恐らく母の首を刎ねて、そして自分も・・・・・・」

「・・・・・・」

「何があったんですか?杜下さんなら、ここで起こったことの何かを知っているんじゃないんですか?!」

「・・・分かった。疑念や不信、そんな中途半端な状態では逆に良くないイメージを持ってしまうかもしれんしね。でも、僕も詳しいことは知らないんだ・・・・・・」

「今まで毎回、良くない事が起こる度に母や父の気配を感じてきました。まさか、この事件や出来事なんかも・・・・・・」

「いや、それは絶対に違う!・・・すまない、僕も詳しいことや細かい事情は聞かなかったんだ。ただ、何かに凄く怯えていた・・・そう、ここに来たときの君のようにね。色々とご夫婦で問題を抱えていて、最後にはにも必要だと言われて、例の僧侶たちが眠っているとされている石塚、石碑がある場所を案内したんだ。それが・・・本当に申し訳ない。あんなことになるなんて・・・これで君は自由になれる。そう言っていたご両親が命がけでしたことで、また君をこんなことに巻き込むわけがないし僕も君にはここのこと全てを忘れて欲しかったんだ。だから・・・・・・」

「物心が付いてすぐ・・・ぐらいに、自分が幼かった時なので殆ど実の両親の記憶はありません。父方の親戚にその後、引き取られてからは育ての親こそが本当の親だと今でも想っています。だから、もしそうだとしても、杜下さんを恨むようなことはしません。ただ自分は知って納得がしたいだけなんです。実の父母が悪い人だったとしても、だから自分を置き去りに出来るような親だったんだと納得するだけです。ただ何某らの意味があり、正しかったんだという理想は勿論ありますが・・・今では過去に縛られるということはここで死んでいった人たちのようになってしまう。そんな気がしています・・・・・・」

「そうか・・・強いな、君は」

「ここに来て何度も、父と母のがするんです。そんな匂いでちょっとした場面なんかも思い出し、そして寂しかったことや悲しかったことといった曖昧なことは思い出して、なんとなくは覚えています。そんな感覚と感情だけの想い出ですが、出来れば良い想い出としてなればいいと願望・・・希望はありますよ」

 洞窟を進むと、分岐が現れた。あなたはなんとなく右を選ぶ。

「そうだね・・・今から話すのは僕の想定、もしかしてという感想なんだけど・・・我々、この村の住人が君のような異変に合わないのはなぜか、という疑問について、僕はずっと考えてきちょったんだ。もしかすると・・・僕たちのご先祖が各々、ずっと個々を『背後霊』のように守ってくれているからなんじゃないかと感じるんだ。外部からやってくる被害者の管理をしてきて、多くの異変報告を目にし、耳にしてきたけど尚更、その度に僕たちがこんなにも何も無いなんてのも変だとずっと思ってきた。勿論、僕らは無暗やたらにこの禁足地に入らないようにしてきたんだけどね。しかしそんな中、なぜか君とご両親、とくに君のお母様はその、所謂、守護霊といった『モノ』が突如と居なくなった。ご両親と話を聞いたり、相談を受けたりしてる内にそんな気がしてきとってね。だから君が、その何らかの異変に見舞われていると聞いて驚いたんよ。なぜなら・・・恐らく、君のご両親はになろうとしていた・・・あ、これも、僕は何も聞いてはいなかった。聞いていたらもちろん止めたさ。そんな事が出来るのかどうかも分からないんやしね。・・・君のお母様も、君と同じく何かを見て、感じて、そう決断したんじゃあないかな。僕らには分からない、体験をした者なら確信が持てるようながあるんじゃないかな」

「・・・・・・」

「死後の因縁や関連までは、誰も解らない。どのようなことわりで成り立っているかなんてのは死んでみないと分からないけど、僕の言うこの『背後霊』『守護霊』ってのがあったとしてだよ、その力関係があるのかもしれない。だからもしかして、君がのは、ご両親のおかげなのかもしれないよ」

「・・・なるほど」

「まぁ、分からないことは今は考えないでおこう。行動が出来なくなってしまうけんね。僕がずっと研究、というかただの考察レベルなんだけど、考え抜いてきたことに当てはめるのなら、そういうことなんじゃないかという個人的な感想だよ」

「『守護霊』・・・か。ありがとうございます・・・・・・」

「あ、気休めだとかそんなんじゃないからね?本当にそう思うんだ。とにかく、ずっと内緒にしてきて本当に申し訳ない。僕なりにご両親の意向を汲んだつもりだったんだ・・・事故死ということにしたのも僕だし、君にはとにかくこの村の因縁や、特にご両親については何も知らない方がいいかと思ったんだ」

 暗くてよく確認できなかったが、杜下が鼻をすする音が聞こえた。

「いえ、本当にありがとうございます。杜下さんのお心遣いに両親も感謝していると思います」

「そうだといいんだが・・・・・・」

 また道が分岐されていて、今度は三方向に分かれている。杜下が言うには分岐が今後も多くなることを見越し、先ずはずっと右を選んで進もうと提案してきた。帰れなくなるようなことがあってはならないためだ。



「杜下さんは、うちの母との面識はあったんですか?」

「ああ、もちろんさ。昔は君の叔父さんよりも・・・仲良くさせてもらっていたよ。だからこそ、我が家の禁止事項すらも破ってご両親をあそこへ入るように手配したのさ。その後、親父にとことん叱られたけどね。しかし、僕も君のご両親も後悔はないよ・・・君がこんなにも大きく育ってくれたんだから」

 またあなたには見えないが、杜下はあなたを我が子のような眼差しで少しだけ見ていただろう。前方を照らすライトが進行方向をしっかりと向けられていなかったのです。

 すると、突き当りまで到着しそこでは何人かの炭坑夫が洞窟を掘り進めている影のようなものが見えてきた。
 影は各々、ピッケルで壁を砕いていくものたちや砕かれた岩などをスコップで拾い集めるものたち。計七人ほどがそこで作業をしていて、何人かの頭にはヘッドライト付きのヘルメットがありそこだけは明るかった。他数人は手押し車であなたと杜下の間を行き来し無駄な土砂を掃けていっている。

 あなたの身体をまたすり抜けながら、ひたすら作業をしているので明らかに実在する『者』ではなかったが、杜下もあなたもこの影たちに恐怖は無かった。淡々とした機械のように無駄なく流れる作業を眺めていた。

 すると、影たちがおろおろと慌てふためき、全員がこちらを見ているようだった。同じくあなた達二人も後ろを振り向くと、地震のような振動のあと上部から大量の石や砂利が降ってきてあなたたちと影たち十人ほどが洞窟深部で閉じ込められてしまった。影たちが持っている道具で背後の土砂を掘削していくが、掘っても掘っても上から新たな土砂や石が降ってくるばかり。


 同じ作業が繰り返されるが、やがて全員、息が苦しくなってくる。あなたと杜下もなぜか同じく息苦しい。この空間の空気が少なくなってきたのだ。呼吸が激しくなり頭痛と吐き気がしてくる。眩暈と共に、次々と影や杜下が倒れ、やがてあなたも意識を失った。

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