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~山着~ 第二章 「マヨヒガ」 全八話
第八話 虚構
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あなたはその女郎屋敷のような飯屋を後にし、数える程度にしかない主要道路を車で走りました。
基本的な地形の変化は無く、幼少時代の微かな思い出を振り絞りながら、見知った場所を見つけては車を停めて徒歩でまた周囲を徘徊し、懐かしの地を堪能しながら周囲全体を把握して行きます。
この地区は地盤が安定していないからか、はたまた景観を維持するための地元民の反対が強いのか、大きくて高いマンションや集合住宅は少なく連立する平屋や二階や三階建てのアパートしか無い。もし住むことになったとしたら、誰も使わなくなった一軒家の方が安く賃貸出来るかもしれない。そんな事を考えながらこの村で唯一の駅周辺を探索してから、また駐車場へと帰っていく。
その夜。
旅館の温泉で約束通り入浴をすませて車内で眠りについたのですが、なぜかふと深夜に目が開きました。よくある寝返りや呼吸のし辛さなどで一瞬、目を覚ますように開けただけです。
運転席のリクライニングを目いっぱい倒しながら眠っているあなたのすぐ横、後部座席のサイドガラスは外からの目隠しシートであるサンシェードを張っているので、外からは簡単には見えないはずですが・・・その窓に顔をもうガラスに付いているのではないか?という近さであなたを覗こうとしている人影を見つけ、そしてなんだかその影と目が合っている気がしました。
「う!?・・・・・・」
あなたは驚きましたが必死に叫ぶ声を押し殺し、黙って気配を殺そうとします。気配と雰囲気しか分かりませんが、いつもの『モノ』の気配です。が、人であった場合も怖いものです。
こんなにもハッキリと『モノ』の視認が出来たのは初めてでした。顔や姿はあのナイター照明が後ろから強く照らされていて、逆光で暗く全く見えません。
いや、まるでその『モノ』事態が真っ黒な影のようにも見えます。少し前かがみで、傾聴姿勢で覗き込まれているのは不安と疑問しかありませんでした。
真っ黒な人影の闇の中、目だけが薄っすらと映っている気がする。
その目は普通の人の目のようでもあり、映画や漫画のような分かりやすいお化けや妖怪のような目では無い。一層の事、そうであったら夢や幻覚だと自分を言い聞かせて夢の中へと逃げられるのだが、その目はそうさせてくれません。
あなたも、じっと見つめ返しながら視線を変えることが出来ませんでした。何をされるのかが分からない恐怖であれば、どうせなら襲ってくるなり脅かしてくるなりしてくれればそれなりの対処が出来るものの、ただじっと車内を覗き込んでくるのです。
・・・時間の感覚が狂いだしてきます。
数分なのか、数時間なのか。
じっと見つめ合っていると気が付きます。その『モノ』は瞬き一つしていませんでした。
これで人間では無いことだけは分かりました。しかし、一向にじっと見つめてくるだけで何も起きません。
あなたは次第に慣れてきました。恐らく何時間も経っているのでしょう。そんな中、また気が付きました。あなたは
おいで・・・また・・・おいで・・・・・・
という声と、この『視線』は同じなんらかの『モノ』だと思っていましたが、どちらか片方しかあなたの前に出現していない事を。
今は、時刻はもう午前3時を過ぎています。
この数時間の睨めっこの間、丑三つ時は越えているはずだが声はしていない。見ることと、伝えること。どちらかしか出来ないのだろうか。それとも別の存在なのだろうか・・・・・・
そんなことを考えている内にいつの間にか、『モノ』の影の姿は空が薄明りを取り戻していくと同時に消えていき、嫌な感覚、緊張感も消えていました。
この地、故郷の近い土地だからこそ、昨晩の『モノ』の存在を強く感じたのだろうか。それとも見つかってしまったのだろうか・・・・・・
そんな不安があなたを襲い、あれから一睡も出来ませんでした。
太陽が地平線から顔を覗かし次第、あなたは車を発進させます。行き場所なんて決めていません。ただひたすらあの場所から移動をしたかったのです。
時刻は6時25分。
この村の主要道路に一つだけコンビニがあります。そこで朝食ついでに少し駐車場で時間を潰すしか今は思いつきません。とにかくそこで一息つきたかったのと、自分以外の人がいるという安心感も欲しかった。
あなたが好きなドリンクをコンビニで買い、パーキングエリアで買っていたサンドウィッチ食べながら考えます。先ずはどうしていこうか・・・・・・
ふと、昨日行った女郎屋敷にもう一度行きたくなりました。それは単純にまたあの「うどん」を食べたくなったのです。それと昨日、飲食をした料金を払っていない事にも気が付きました。レジや受付のような所が入口付近にもなく、誰も居なくて「帰りなさい」と言われるがまま出てきてしまったのです。申し訳ない気持ちで一杯になりながら、あの古い建物と二人の服装などの雰囲気、訛った言葉がなんだか落ち着くような居心地の良さもありました。お昼にはまた行こうと決意し、その後はどうしようかと悩みます。
本当は、また『杜下』に話を伺いに行きたい。しかしなんだか気が引けています。何より「もう忘れろ」と言われているのですし、叔母へのことが一番の気がかりです。出来れば、自分の手で叔父を見つけ出して救いたい。その思いの元、ここへやってきたのですから。
自分本位に勝手に、山へ、禁足地へと入って行くよりも誰かの許可を得て叔父の捜索を開始したかった。自身の安全確保のことを考えての事でもあるが、出来れば人手があれば身も心も安心安全なのは当然である。
時刻は10時ごろ。
頃のいい時間になりあなたは再度、主要道路を車で走らせ『女郎屋敷』へと向かいました。しかし、昨日の場所付近までやってきましたがあの”脇道”が見当たりません。想定していた距離を大幅に過ぎますが、それでも例の土系舗装はやってきませんでした。
いくつかの土系舗装の道はありましたが、田畑の真ん中を横切る道や見える範囲内の突き当りに民家があり、ただの通過道に過ぎませんでした。何度も何度も引き返したり往復してもあの道はありません。
あなたはシンプルに不思議という疑問もありますが何よりも悲しく寂しい気持ちになり、諦めきれず、また何度も何度も他のドライバーの迷惑なのも気にせずに低速で探し回り、明らかに主要でもないただの一般道でも脇道をも気にして探しました。しかし、あの屋敷への道はありません、消失した、いや、初めから無かったかの様に・・・・・・
あなたはここだと確信を得ている場所、小さな山の麓で車を停めて、車外に出てまで周囲を見渡します。道の痕跡どころか、そこには本当に小さな小川が流れているだけで、車はおろか徒歩の人間すら入れず、小川のせせらぎがあなたを嘲笑うかのように空虚な時間を刻み続けました。
基本的な地形の変化は無く、幼少時代の微かな思い出を振り絞りながら、見知った場所を見つけては車を停めて徒歩でまた周囲を徘徊し、懐かしの地を堪能しながら周囲全体を把握して行きます。
この地区は地盤が安定していないからか、はたまた景観を維持するための地元民の反対が強いのか、大きくて高いマンションや集合住宅は少なく連立する平屋や二階や三階建てのアパートしか無い。もし住むことになったとしたら、誰も使わなくなった一軒家の方が安く賃貸出来るかもしれない。そんな事を考えながらこの村で唯一の駅周辺を探索してから、また駐車場へと帰っていく。
その夜。
旅館の温泉で約束通り入浴をすませて車内で眠りについたのですが、なぜかふと深夜に目が開きました。よくある寝返りや呼吸のし辛さなどで一瞬、目を覚ますように開けただけです。
運転席のリクライニングを目いっぱい倒しながら眠っているあなたのすぐ横、後部座席のサイドガラスは外からの目隠しシートであるサンシェードを張っているので、外からは簡単には見えないはずですが・・・その窓に顔をもうガラスに付いているのではないか?という近さであなたを覗こうとしている人影を見つけ、そしてなんだかその影と目が合っている気がしました。
「う!?・・・・・・」
あなたは驚きましたが必死に叫ぶ声を押し殺し、黙って気配を殺そうとします。気配と雰囲気しか分かりませんが、いつもの『モノ』の気配です。が、人であった場合も怖いものです。
こんなにもハッキリと『モノ』の視認が出来たのは初めてでした。顔や姿はあのナイター照明が後ろから強く照らされていて、逆光で暗く全く見えません。
いや、まるでその『モノ』事態が真っ黒な影のようにも見えます。少し前かがみで、傾聴姿勢で覗き込まれているのは不安と疑問しかありませんでした。
真っ黒な人影の闇の中、目だけが薄っすらと映っている気がする。
その目は普通の人の目のようでもあり、映画や漫画のような分かりやすいお化けや妖怪のような目では無い。一層の事、そうであったら夢や幻覚だと自分を言い聞かせて夢の中へと逃げられるのだが、その目はそうさせてくれません。
あなたも、じっと見つめ返しながら視線を変えることが出来ませんでした。何をされるのかが分からない恐怖であれば、どうせなら襲ってくるなり脅かしてくるなりしてくれればそれなりの対処が出来るものの、ただじっと車内を覗き込んでくるのです。
・・・時間の感覚が狂いだしてきます。
数分なのか、数時間なのか。
じっと見つめ合っていると気が付きます。その『モノ』は瞬き一つしていませんでした。
これで人間では無いことだけは分かりました。しかし、一向にじっと見つめてくるだけで何も起きません。
あなたは次第に慣れてきました。恐らく何時間も経っているのでしょう。そんな中、また気が付きました。あなたは
おいで・・・また・・・おいで・・・・・・
という声と、この『視線』は同じなんらかの『モノ』だと思っていましたが、どちらか片方しかあなたの前に出現していない事を。
今は、時刻はもう午前3時を過ぎています。
この数時間の睨めっこの間、丑三つ時は越えているはずだが声はしていない。見ることと、伝えること。どちらかしか出来ないのだろうか。それとも別の存在なのだろうか・・・・・・
そんなことを考えている内にいつの間にか、『モノ』の影の姿は空が薄明りを取り戻していくと同時に消えていき、嫌な感覚、緊張感も消えていました。
この地、故郷の近い土地だからこそ、昨晩の『モノ』の存在を強く感じたのだろうか。それとも見つかってしまったのだろうか・・・・・・
そんな不安があなたを襲い、あれから一睡も出来ませんでした。
太陽が地平線から顔を覗かし次第、あなたは車を発進させます。行き場所なんて決めていません。ただひたすらあの場所から移動をしたかったのです。
時刻は6時25分。
この村の主要道路に一つだけコンビニがあります。そこで朝食ついでに少し駐車場で時間を潰すしか今は思いつきません。とにかくそこで一息つきたかったのと、自分以外の人がいるという安心感も欲しかった。
あなたが好きなドリンクをコンビニで買い、パーキングエリアで買っていたサンドウィッチ食べながら考えます。先ずはどうしていこうか・・・・・・
ふと、昨日行った女郎屋敷にもう一度行きたくなりました。それは単純にまたあの「うどん」を食べたくなったのです。それと昨日、飲食をした料金を払っていない事にも気が付きました。レジや受付のような所が入口付近にもなく、誰も居なくて「帰りなさい」と言われるがまま出てきてしまったのです。申し訳ない気持ちで一杯になりながら、あの古い建物と二人の服装などの雰囲気、訛った言葉がなんだか落ち着くような居心地の良さもありました。お昼にはまた行こうと決意し、その後はどうしようかと悩みます。
本当は、また『杜下』に話を伺いに行きたい。しかしなんだか気が引けています。何より「もう忘れろ」と言われているのですし、叔母へのことが一番の気がかりです。出来れば、自分の手で叔父を見つけ出して救いたい。その思いの元、ここへやってきたのですから。
自分本位に勝手に、山へ、禁足地へと入って行くよりも誰かの許可を得て叔父の捜索を開始したかった。自身の安全確保のことを考えての事でもあるが、出来れば人手があれば身も心も安心安全なのは当然である。
時刻は10時ごろ。
頃のいい時間になりあなたは再度、主要道路を車で走らせ『女郎屋敷』へと向かいました。しかし、昨日の場所付近までやってきましたがあの”脇道”が見当たりません。想定していた距離を大幅に過ぎますが、それでも例の土系舗装はやってきませんでした。
いくつかの土系舗装の道はありましたが、田畑の真ん中を横切る道や見える範囲内の突き当りに民家があり、ただの通過道に過ぎませんでした。何度も何度も引き返したり往復してもあの道はありません。
あなたはシンプルに不思議という疑問もありますが何よりも悲しく寂しい気持ちになり、諦めきれず、また何度も何度も他のドライバーの迷惑なのも気にせずに低速で探し回り、明らかに主要でもないただの一般道でも脇道をも気にして探しました。しかし、あの屋敷への道はありません、消失した、いや、初めから無かったかの様に・・・・・・
あなたはここだと確信を得ている場所、小さな山の麓で車を停めて、車外に出てまで周囲を見渡します。道の痕跡どころか、そこには本当に小さな小川が流れているだけで、車はおろか徒歩の人間すら入れず、小川のせせらぎがあなたを嘲笑うかのように空虚な時間を刻み続けました。
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