二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン

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~意識~ 【全十三話】

第三話 外の世界

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 ・・・やあ、おはよう。元気かい?今日は少し外の世界のお話をしよう。

 あなたはまだそんなに知らないと思うけど、外の世界は素晴らしいよ!例えば・・・ヒマラヤ山脈にあるチョモランマ!エベレストだね。標高が8,849メートルもあるんだって!すごくない?

 まぁ高さや低さ、景色の絶景は行って見た実感しか感動はしないと思うんだけど、
『森林限界』
 って、知ってる?標高が2,000~3,000メートル以上では植物すら生息できないんだってよ!そんなのはそこに行って見たり調べたりしないと絶対に分からなかった、知るよしもないことなんだよ!解る?

 僕らは・・・あなたも、そんなとこへは富士山ですら行くことなんて出来ないと思うけど、でも世界中の人と繋がる「コネクテッド」でそんなことまで分かるようになるんだ。だから僕は現状に満足しているよ。

 ほかにもマリアナ海溝、グレート・バリアリーフ、ピラミッドやナスカの地上絵、エアーズロックやマチュピチュ!

 目前に広がる広大な自然は、写真やモニターとは比べものにならないほどの絶景で、段違いな感動を味わえるとは思うんだなぁ。いつか、ちゃんと見てみたいなぁ。

 人類が行ける場所ってのは、もはやこの地球上だけではないんだよ。月や宇宙空間にまで行けるようになっているからね。まぁ、火星や金星へはまだ無人機だけだけど。

 でも、ここではその鉱物の分析結果まで分かっちゃうし、なんなら各人工衛星にアクセスすればリアルタイムで宇宙映像は見れちゃう。
 逆にミクロの世界、遺伝子や分子、原子や目に見えないウイルスなんかも見れるから、ここも本当に、悪くはなんだけどね・・・・・・

 ただ、やっぱり、ときどき空しくなるのは『新たな発見』という冒険と喜びを、そしてそれらを同じ意思で向きあった仲間たちと共有する、分ちあう感動を味わえないことだ・・・・・・

 新種の生物、新たなる星、画期的な発明、素粒子などの未知なる物質etc…

 僕たちが持っている、そしてこれからも得られるここの情報って、全て『結果』だけなんだ。誰かが奮闘し、時には閃き、偶然や必然で多くの『大発見』を味わった後ののようなものなんだ・・・・・・

 過去に猛威をふるったウイルスがいたという結果・・・・・・

 人種間で争った多くの戦争。そして多くの死と苦しみ。恨み。悔しさや優越感。不安、安心、保身、反逆、そしてまた争い・・・・・・

 医療の進歩で助かった命。治療薬を発明し貢献したという結果・・・・・・

 科学の発展。便利になった文明が、使用方法を誤り武器とし、また多くの命を失ったという結果・・・・・・

 全ての情報というのは、エビデンスやリソースが付いた結果しか流れてこない・・・なんなら時には偏向された、国や組織にとって有利になるウソや差別にまみれた情報のことすらある。

 僕たちはずっとここにいるのなら、その何らかの出がらしか、歪んだ結果しか知らず、分からず、そして何も生み出さず、何もできない。

 まぁ、僕たちが自由だったとしても発明や大発見といった、そんな大それたことなんて出来ないとは思うんだけど、でも一人ひとりの異なる発見ってのが必ずあるはずなんだ。

 例えば僕とあなたが同じ山や海、川でもなんでもいいんだけど、自分の足で歩き進んで見てきた景色は微妙に違うはずだ。

 道中に咲いていた花はなんだったか。
 昆虫や小動物は何がいて、何に気が付けたか。
 どんな音を聞き、どんな臭いを嗅ぐか。
 『着眼点』が全く違う。
 一つの絵風景でも、水平線を見ているのか、海の中の魚といった水棲動物なのか。空か。雲か。砂浜か。貝殻か。

 自分にとっての大発見。自分だけの『初めて』がそれぞれに沢山あるはずなんだ。その過程が共通することなんてのは絶対にない。
 点だけの結果に、たいした意味はないのさ。過程によるマトリクスが紡ぐその情報の集大成が最大の結果であり、結果だけの『点』を見たって得られる情報は本当にたかが知れている・・・・・・

 だから、たまに空しくなっちゃうんだよ・・・・・・

 あなたの『夢』は、なにかあるかい?
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