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忘れられない過去
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『さて、皆様に次のヒントを差し上げます。』
そう言うと、写真が写し出された。
樋「…これは。」
康平の言葉に、俯い人も画面に目を移した。
画面に写っていたのは、少年少たちの集合写真だった。
皆その写真に見覚えがあった。
神「これ、小さい頃の俺たちだよな?」
高「うん。康平君が入ったばっかりのとき、皆で撮った写真。懐かしいなぁ。」
写真は康平たちの小さい頃のものだった。
写真には、施設の園長をしていた華園雪枝(はなぞのゆきえ)の姿もあった。
『そう、この写真は皆様が児童養護施設「子集園(こしゅうえん)」にいた頃の写真です。』
康平たちは様々な事情により子集園に入り、子供の頃を過ごしていた。
『皆様は覚えていらっしゃいますね?この頃何があったのか。』
康平の背中には汗が滲んでいた。
忘れられるはずもなかった。
あの頃は本当に色々あった。
父を殺してしまっただけでなく、もっと悲しい出来事が。
『…皆様どうやら思い出したようですね。それでは存分に話し合ってください。』
そう言って画面は消えた。
児童養護施設、子集園。
この施設には、様々な事情で親に捨てられた子供が身を寄せていた。
康平たちもそうだった。
翼がリーダー格のように振る舞い、麗香それに従い、慶太を虐めていた。
陽介やつかさ、そして美織はそれを見て見ぬふりをしていた。
康平も最初は虐めを止めていたが、父のことがあってからいじめを止めなくなった。
それでも、皆この場所が大好きだった。
それは、雪枝が居たからだった。
ここでは子集園の園長である華園雪枝、その夫である華園英寿(はなぞのひでとし)、そして数名の職員が康平たちの面倒を見ていた。
雪枝は誰にでも優しく、誰にでも厳しかった。
康平たちにとって、彼女は母親のような存在だった。
雪枝にとっても、子供たちは我が子のような存在だった。
この幸せがいつまでも続けばいい。
誰もがそう思っていた。
ある日、子集園に新しい子が入ってきた。
名前は姫木花梨(ひめきかりん)。
人見知りショートヘアがよく似合う女の子だった。
華「花梨ちゃん。これからよろしくね。」
姫「…コクッ。」
花梨は無言で頷いた。
それから雪枝は花梨に世話を焼くようになった。
華「花梨ちゃんクッキー食べる?」
華「翼君。花梨ちゃんに譲ってあげなさい。」
華「花梨ちゃん大丈夫!?どっか怪我してない?」
雪枝にとっては、花梨に1日でも早くここに馴染んでほしい。
安心して笑顔でここで暮らしてほしい。
そんな想いからの行動だった。
しかし、翼たちはそれをよく思っていなかった。
雪枝先生を取られた。
そう思った。
それからだ、翼たちが花梨を虐めるようになったのは。
最初は悪口を言うだけだった。
それが叩く、蹴る、物を壊す、髪を引っ張るなど、どんどんエスカレートしていった。
翼と麗香は陽介たちにも花梨を虐めるように強要した。
仲間はずれにされたくない陽介たちは花梨のことを無視するようになった。
康平はいじめのことを気にも止めていなかった。
それが続いたある日、事件は起きた。
この日も翼と麗香は、花梨と慶太を虐めていた。
周りには康平たちもいた。
五「なぁ、お前らいつになったらここ出ていくの?」
柴「そうだよ。さっさと出ていってよ。」
姫「…。」
2人はそう言って花梨たちを強い力で押した。
2人は倒れた。
その時、花梨の中で何かが切れた。
柴「何その目?何か文句あんの?」
ドンッ。
花梨は近づいてきた麗香を押し倒した。
そして、麗香は林の方へ走っていった。
五「おい、待てよ!」
翼と麗香は花梨を追った。
康平たちも急いで後を追った。
花梨は崖の端に立った。
下には川が流れている。
五「そんなところに立ってどうすんだよ。まさかそっから飛ぼうとか思ってんの?」
柴「無理無理、この子にそんな度胸ないって。」
2人はそう言って笑った。
花梨は皆を見ながらジリジリと後ろに下がっていく。
高「か、花梨ちゃん止めなって。」
神「そうだよ。危ないよ。」
矢、樋「…。」
花梨の目から涙が溢れていた。
姫「…許さない。」
花梨はさらに後ろに下がる。
姫「私はあなたたちを許さない。」
そう言うと、花梨は後ろ向きのまま崖から落ちた。
樋「止めろ!」
バシャン。
大きな水飛沫の音が聞こえた。
康平たちが駆け寄ったときには、既に花梨の姿は見えなくなっていた。
子供たちから慌てた様子で事の顛末を聞いた雪枝は驚愕した。
雪枝は英寿に警察に連絡するよう促し、職員数名で花梨を探しに行った。
必死に名前を呼び、足が痛くなっても探し続けた。
警察が来てからも雪枝は必死に探した。
しかし結局、花梨は見つからなかった。
雪枝は自分を責めた。
彼女が虐められていることに気付けなかった自分を。
彼女を見つけられなかった自分を。
子供たちの気持ちに気付かなかった自分を。
雪枝は毎日のように自分を責め続けた。
英寿は雪枝を励まし続けたが雪枝が笑顔を見せることはなかった。
数日後、雪枝は自殺した。
自宅で首を吊って。
遺書には『みんなごめんね。』それだけが書かれていた。
それからまもなく、子集園は閉鎖となった。
そう言うと、写真が写し出された。
樋「…これは。」
康平の言葉に、俯い人も画面に目を移した。
画面に写っていたのは、少年少たちの集合写真だった。
皆その写真に見覚えがあった。
神「これ、小さい頃の俺たちだよな?」
高「うん。康平君が入ったばっかりのとき、皆で撮った写真。懐かしいなぁ。」
写真は康平たちの小さい頃のものだった。
写真には、施設の園長をしていた華園雪枝(はなぞのゆきえ)の姿もあった。
『そう、この写真は皆様が児童養護施設「子集園(こしゅうえん)」にいた頃の写真です。』
康平たちは様々な事情により子集園に入り、子供の頃を過ごしていた。
『皆様は覚えていらっしゃいますね?この頃何があったのか。』
康平の背中には汗が滲んでいた。
忘れられるはずもなかった。
あの頃は本当に色々あった。
父を殺してしまっただけでなく、もっと悲しい出来事が。
『…皆様どうやら思い出したようですね。それでは存分に話し合ってください。』
そう言って画面は消えた。
児童養護施設、子集園。
この施設には、様々な事情で親に捨てられた子供が身を寄せていた。
康平たちもそうだった。
翼がリーダー格のように振る舞い、麗香それに従い、慶太を虐めていた。
陽介やつかさ、そして美織はそれを見て見ぬふりをしていた。
康平も最初は虐めを止めていたが、父のことがあってからいじめを止めなくなった。
それでも、皆この場所が大好きだった。
それは、雪枝が居たからだった。
ここでは子集園の園長である華園雪枝、その夫である華園英寿(はなぞのひでとし)、そして数名の職員が康平たちの面倒を見ていた。
雪枝は誰にでも優しく、誰にでも厳しかった。
康平たちにとって、彼女は母親のような存在だった。
雪枝にとっても、子供たちは我が子のような存在だった。
この幸せがいつまでも続けばいい。
誰もがそう思っていた。
ある日、子集園に新しい子が入ってきた。
名前は姫木花梨(ひめきかりん)。
人見知りショートヘアがよく似合う女の子だった。
華「花梨ちゃん。これからよろしくね。」
姫「…コクッ。」
花梨は無言で頷いた。
それから雪枝は花梨に世話を焼くようになった。
華「花梨ちゃんクッキー食べる?」
華「翼君。花梨ちゃんに譲ってあげなさい。」
華「花梨ちゃん大丈夫!?どっか怪我してない?」
雪枝にとっては、花梨に1日でも早くここに馴染んでほしい。
安心して笑顔でここで暮らしてほしい。
そんな想いからの行動だった。
しかし、翼たちはそれをよく思っていなかった。
雪枝先生を取られた。
そう思った。
それからだ、翼たちが花梨を虐めるようになったのは。
最初は悪口を言うだけだった。
それが叩く、蹴る、物を壊す、髪を引っ張るなど、どんどんエスカレートしていった。
翼と麗香は陽介たちにも花梨を虐めるように強要した。
仲間はずれにされたくない陽介たちは花梨のことを無視するようになった。
康平はいじめのことを気にも止めていなかった。
それが続いたある日、事件は起きた。
この日も翼と麗香は、花梨と慶太を虐めていた。
周りには康平たちもいた。
五「なぁ、お前らいつになったらここ出ていくの?」
柴「そうだよ。さっさと出ていってよ。」
姫「…。」
2人はそう言って花梨たちを強い力で押した。
2人は倒れた。
その時、花梨の中で何かが切れた。
柴「何その目?何か文句あんの?」
ドンッ。
花梨は近づいてきた麗香を押し倒した。
そして、麗香は林の方へ走っていった。
五「おい、待てよ!」
翼と麗香は花梨を追った。
康平たちも急いで後を追った。
花梨は崖の端に立った。
下には川が流れている。
五「そんなところに立ってどうすんだよ。まさかそっから飛ぼうとか思ってんの?」
柴「無理無理、この子にそんな度胸ないって。」
2人はそう言って笑った。
花梨は皆を見ながらジリジリと後ろに下がっていく。
高「か、花梨ちゃん止めなって。」
神「そうだよ。危ないよ。」
矢、樋「…。」
花梨の目から涙が溢れていた。
姫「…許さない。」
花梨はさらに後ろに下がる。
姫「私はあなたたちを許さない。」
そう言うと、花梨は後ろ向きのまま崖から落ちた。
樋「止めろ!」
バシャン。
大きな水飛沫の音が聞こえた。
康平たちが駆け寄ったときには、既に花梨の姿は見えなくなっていた。
子供たちから慌てた様子で事の顛末を聞いた雪枝は驚愕した。
雪枝は英寿に警察に連絡するよう促し、職員数名で花梨を探しに行った。
必死に名前を呼び、足が痛くなっても探し続けた。
警察が来てからも雪枝は必死に探した。
しかし結局、花梨は見つからなかった。
雪枝は自分を責めた。
彼女が虐められていることに気付けなかった自分を。
彼女を見つけられなかった自分を。
子供たちの気持ちに気付かなかった自分を。
雪枝は毎日のように自分を責め続けた。
英寿は雪枝を励まし続けたが雪枝が笑顔を見せることはなかった。
数日後、雪枝は自殺した。
自宅で首を吊って。
遺書には『みんなごめんね。』それだけが書かれていた。
それからまもなく、子集園は閉鎖となった。
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