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なぜ誘拐された。

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首が痛い。

朝起きての最初の感想がそれだった。

子供の頃から使っている枕も、そろそろ体に合わなくなってきているようだ。

今度枕を買いにいこう。

もちろん自分で。

父は買ってくれるわけがないし、母は頼りにならない。

兄にはなんか頼みづらい。

…家族にこんな気を使わないといけないなんて。

複雑な気持ちになりながらも、ベッドから出た。

今日は学校は休みだ。

しかし、父も兄も用事があるようで、朝から出掛けている。

家にいるのは妙子さんと俺だけ。

しかしどうしたものか、まだ首が痛い。

寝違えたか。

落ち着かない。

湿布はあっただろうか。

いや、確か我が家にはそういう医薬品の類いは無かったはずだ。

風邪などをひいたときはかかりつけの医者を家に呼んでいる。

父が言うには「そちらの方が信用できる」だそうだ。

…しょうがない、ちょっと薬局に行って湿布をもらおう。

ついでに枕も買いにいこう。

早速服を着替え、出る準備をした。

「妙子さん。ちょっと薬局に行って来る。」

「そんなの私が行って参りますよ。」

「いやいや、湿布もらいに行くだけだから。そんなの一人で行けるから。」

こんなことで妙子さん使ったら人としていけない気がする。

本能的にそう思った。

焦る妙子さんを他所に家を出た。


一人でこうやって出掛けるのは久しぶりな気がする。

いつもはスケッチブック片手に家を出ていたから。

ほんの少しだけ清々しい気分だ。

そんなときだ。

俺の目の前に一台の車が停まった。

黒いワンボックスカーだ。

次の瞬間、目出し帽を被った人間が複数出てきた。

あまりに突然の出来事に体が動かなかった。

次にきたのは体のしびれと痛み。

ゆっくりと意識が落ちていく。

意識を失う前に見えたのは、スタンガンだった。



次に目が覚めたのは、冷たいコンクリートの上だった。

頭が痛い。

体を動かしてみるが、上手く動かない。

どうやら縛られているようだ。

これは…結束バンドかな。

縄よりほどきにくいな。

頑張って体を起こす。

体に変化はない。

何かされたということはないようだ。

次に周りを見渡す。

周りには特になにもない。

次に上を見上げてみると、証明スタンドらしきものがある。

後ろを見てみると、地下アイドルが歌うようなセットがある。

どうやら地下のライブ会場のようだ。

端にマイクスタンドも置いてあるし。

必死に体を動かす。

やはり結束バンドは外れない。

手足が痛い。

意味ないかもしれないが、一応助けを求めてみるか。

声を出そうと息を吸い込んだとき、目の前のドアが開いた。

男が現れた。

知らない顔だ。

身なり的にはしっかりしている。

一言で言うとイケメンだ。


「目が覚めたか。」

男が尋ねてきた。

返事を返そうかと一瞬思ったが、それもどうかと思い、言葉を飲み込んだ。

男は目の前に来た。

無言で俺を見つめている。

…なんだ。

不思議に思っていると、足音が聞こえてきた。

今度は3人の男女が入ってきた。

先頭にいる男は短髪で結構ガッチリした体をしている。

顔つきを見ると、ちょっとヤバイ雰囲気を醸し出している。

次に入ってきたのは女だ。

髪はロングのストレート。

赤い口紅が印象的だ。

最後に入ってきたのはメガネをかけた男。

細身で運動をしていないのが何となくわかる。

さっきからビクビクしている。

見た感じ、リーダーはイケメンな人か。

この4人が俺を誘拐した人たちのようだ。



「おい工藤(くどう)、こいつか?例のバカ社長の息子って言うのは。」

短髪の男が口を開いた。

バカ社長は言わずもがな父のことだ。

「ああ。正確には次男の方だけどな。」

イケメンさんが答えた。

どうやらイケメンさんは工藤と言うらしい。

「しかし、親子にしては似てないね。」

今度は女の人が口を開いた。

「そんなこと言ってやるな相田(あいだ)。一応本人の前だからな。」

赤口紅は相田というのか。

しかし、あんなイケメンな兄と比べられても困る。

「けど、本当に上手くいくのか?」

今度はメガネの男の人が口を開いた。

妙にビクビクしてる。

「ビクビクしてんじゃねーよ鈴木(すずき)。大丈夫だって。警察なんてチョロいチョロい。」

ビクビクメガネさんは鈴木か。

「イキるのはいいが勝手な行動はするなよ、鷹岡(たかおか)。」

「分かってるよ。」

短髪の人は鷹岡ね。

これで全員の名前は分かった。

まぁ、分かったからと言ってどうすることも出来ないのだけれど。

「君の父親には既に誘拐の連絡は入れてある。息子を返してほしければ50億円用意しろとな。」

工藤さんは俺に言った。

ちょっと待て。

寝てる間に脅迫電話をいれた?

どんだけ気絶してたんだ。


まぁ、それはさておき。

「申し訳ないんだけど犯人さん。俺を誘拐したのは完全な間違いですよ。」

俺は彼らにこう言い放った。

「どう言うことだ?」

工藤さんは質問した。

「俺はあの家の中じゃ出来損ないとして扱われてる。兄だけを自分の息子だと思ってる。あの人が俺のために50億円なんて払うわけがない。」

そう、兄ならともかく、俺が誘拐されたとしても、あの人はなんとも思わないだろう。

「うちには息子は1人しかいない。」

そう言ってやり過ごすはずだ。

「それはどうかな?」

工藤さんはそう言って微かに笑った。

次に彼は携帯を見せてきた。

そこには、体を拘束され気絶している俺が写っていた。

そして[木崎昭蔵のもう1人の息子を誘拐しました。48時間以内に50億円の身代金を払わなければ、彼は公開処刑されます。果たして木崎昭蔵は彼を救うのか?見捨てるのか?]という文字が。

どうやら動画で配信されているようだ。

「全国でネット中継している。これならいくらあの社長でも身代金を払わないわけにはいかないだろう。」

確かに。

しかし、この人たちは思ったよりもずいぶん頭が良いようだ。

きっと身代金の受け渡し方法についても考えがあるんだろう。

一体俺はどうなるのだろうか。


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