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第141話
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それから真っ白でトゥルントゥルンになった腹を放り出して乾かしながら、ガブちゃんの待つスタジオへ戻った(勿論濡れた下半身も拭いて下着と京一ん◯んスウェットパンツを穿いた)。
ガブちゃんは待ち草臥れているかも知れないと心配したが、フロアクッションに腰を下ろし、真剣な表情でスケッチブックに向かっていたので安心した。そして彼は顔を上げると俺の腹を見て、「イイネ。素敵なキャンバス」と言ったから、俺は(今更)ほんのり赤くなった(京一郎はぶすっとしている)。
「へえ! 固形の絵の具を使うんだな」
「ハイ。筆で溶かしながら使いマス。色を混ぜることが出来テ、グラデーションを作るのも簡単」
「成程。ボディペインティング用なのですか?」
「ハイ。乾いたらちょっとやそっとでは取れないですカラ、思う存分楽しめマスヨ」
そうして腹がしっかり乾いたのを確認したら、いよいよマタニティペインティングが始まった。座卓の上に並べられている画材を見て質問すると、ガブちゃんは丁寧に説明してくれた。それから、スケッチブックに描いた図案を見せて貰うと、様様な宝石が配われたアクセサリーと共に、お臍付近に当たる中央に大きな椋の木の葉っぱが描かれていた。注文したピンクのう◯こはその下から覗くように描かれている——思ったよりも目立つ場所に配置されていたから、俺はそれを指さして「う◯こ、こんな目立つところで良いん?」と聞いた。
「せっかくなのデ、隅っこよりも葉っぱの近くが良いと思っテ。可愛いデスし。良いデスヨネ? 京一郎」
「うっ……確かに可愛いので構いませんが」
「ヨシッ! 矢張りアートの前には京一郎も膝を屈したか」
ガブちゃんが確認すると、小さく呻いた京一郎は渋渋頷いたから、俺は勝ち誇ってそう言った。すると彼がぼそっと「あずさにしては難しい言い回しをする……」と呟いたのが聞こえたので、「おおうい!」と叫んで抗議する。
「さて、ちょっと時間が押していますノデ、なる早で作業を進めマス。アズサンも冷えたらイケナイ」
「なる早! こんなこと言ったら失礼かもだけど、ガブちゃん、本当に色んな日本語知ってるな」
「ハハ。日本のドラマや映画、アニメも沢山観ましたし。それニ、塾では沢山話しマスカラ。嫌でも身に付きマス」
ガブちゃんはそんな風に言いながら、慣れた手付きで絵の具をパレットに取って幾つか色を作った。それから「では、描き始めマス。チョット冷たいカモ」と言うと、遂に俺の腹に筆を走らせた。
「ヒャーハッハッハ!」
「ブッ」
「アア、そんなに笑わないデ。お腹が揺れル」
「ご、ごめん! ブヒョッ」
「どんな笑い方だ」
予想以上に擽ったかったから、俺は笑い出してしまった。すると京一郎が思い切り噴き、ガブちゃんは眉を寄せて制止した。けれども筆が動く度、笑い出しそうになってしまう。その時、中のりょーちゃんまで動いて腹の表面が波打った。
「すみません、似た者親子で……中の赤ん坊も阿呆だ」
「イエ、そんなことハ。それにしてモ、妊夫サンのお腹に描くのは、思ったより大変ネ。中に居る人が動くのを忘れていまシタ」
身内でも、小さい生き物にはとびきり丁寧に接する京一郎が珍しく謙った言い方をして、ガブちゃんが首を横に振った。けれども彼の手は休み無く動いており、俺の腹は見る見るうちに極彩色に染められて行った。細かい描き込みは後からするので、図案に合わせて色を置く作業をしている。
「凄ぇ……ブヒョッ。ぶっつけ本番でも正確……ブヒョヒョッ」
「変な鳴き声を合間に入れるな」
「こういうのはみんな慣れデス。じっくり描くのも大事だケド、速さと正確さも必要ですカラ」
「ブヒョヒョウ。流石プロだ」
「最早態と言っていないか? その鳴き声」
ガブちゃんとやりとりする合間に京一郎のツッコミが入ったが、俺は素知らぬ顔で鳴き続けた(そうすると擽ったさを遣り過ごすことが出来るのだ)……。
ガブちゃんは待ち草臥れているかも知れないと心配したが、フロアクッションに腰を下ろし、真剣な表情でスケッチブックに向かっていたので安心した。そして彼は顔を上げると俺の腹を見て、「イイネ。素敵なキャンバス」と言ったから、俺は(今更)ほんのり赤くなった(京一郎はぶすっとしている)。
「へえ! 固形の絵の具を使うんだな」
「ハイ。筆で溶かしながら使いマス。色を混ぜることが出来テ、グラデーションを作るのも簡単」
「成程。ボディペインティング用なのですか?」
「ハイ。乾いたらちょっとやそっとでは取れないですカラ、思う存分楽しめマスヨ」
そうして腹がしっかり乾いたのを確認したら、いよいよマタニティペインティングが始まった。座卓の上に並べられている画材を見て質問すると、ガブちゃんは丁寧に説明してくれた。それから、スケッチブックに描いた図案を見せて貰うと、様様な宝石が配われたアクセサリーと共に、お臍付近に当たる中央に大きな椋の木の葉っぱが描かれていた。注文したピンクのう◯こはその下から覗くように描かれている——思ったよりも目立つ場所に配置されていたから、俺はそれを指さして「う◯こ、こんな目立つところで良いん?」と聞いた。
「せっかくなのデ、隅っこよりも葉っぱの近くが良いと思っテ。可愛いデスし。良いデスヨネ? 京一郎」
「うっ……確かに可愛いので構いませんが」
「ヨシッ! 矢張りアートの前には京一郎も膝を屈したか」
ガブちゃんが確認すると、小さく呻いた京一郎は渋渋頷いたから、俺は勝ち誇ってそう言った。すると彼がぼそっと「あずさにしては難しい言い回しをする……」と呟いたのが聞こえたので、「おおうい!」と叫んで抗議する。
「さて、ちょっと時間が押していますノデ、なる早で作業を進めマス。アズサンも冷えたらイケナイ」
「なる早! こんなこと言ったら失礼かもだけど、ガブちゃん、本当に色んな日本語知ってるな」
「ハハ。日本のドラマや映画、アニメも沢山観ましたし。それニ、塾では沢山話しマスカラ。嫌でも身に付きマス」
ガブちゃんはそんな風に言いながら、慣れた手付きで絵の具をパレットに取って幾つか色を作った。それから「では、描き始めマス。チョット冷たいカモ」と言うと、遂に俺の腹に筆を走らせた。
「ヒャーハッハッハ!」
「ブッ」
「アア、そんなに笑わないデ。お腹が揺れル」
「ご、ごめん! ブヒョッ」
「どんな笑い方だ」
予想以上に擽ったかったから、俺は笑い出してしまった。すると京一郎が思い切り噴き、ガブちゃんは眉を寄せて制止した。けれども筆が動く度、笑い出しそうになってしまう。その時、中のりょーちゃんまで動いて腹の表面が波打った。
「すみません、似た者親子で……中の赤ん坊も阿呆だ」
「イエ、そんなことハ。それにしてモ、妊夫サンのお腹に描くのは、思ったより大変ネ。中に居る人が動くのを忘れていまシタ」
身内でも、小さい生き物にはとびきり丁寧に接する京一郎が珍しく謙った言い方をして、ガブちゃんが首を横に振った。けれども彼の手は休み無く動いており、俺の腹は見る見るうちに極彩色に染められて行った。細かい描き込みは後からするので、図案に合わせて色を置く作業をしている。
「凄ぇ……ブヒョッ。ぶっつけ本番でも正確……ブヒョヒョッ」
「変な鳴き声を合間に入れるな」
「こういうのはみんな慣れデス。じっくり描くのも大事だケド、速さと正確さも必要ですカラ」
「ブヒョヒョウ。流石プロだ」
「最早態と言っていないか? その鳴き声」
ガブちゃんとやりとりする合間に京一郎のツッコミが入ったが、俺は素知らぬ顔で鳴き続けた(そうすると擽ったさを遣り過ごすことが出来るのだ)……。
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