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第111話
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父親学級はそれから三十分くらいして終わったから、病院まで京一郎を迎えに戻った。ペットショップで合流しても良かったが、少しでもたくさん歩いた方が体に良い。
「どうだった? 勉強になったか? 父親学級!」
「俺はおむつ交換の才能があると先生に言われた。きっとおむつ交換マスターになれると」
「先生面白いな!」
病院から出て来た京一郎の台詞にぷっと噴き出しながら、学級は楽しかったようだな、と思って嬉しくなった。実際に始まると大変に違いないが、楽しんで子育てするのは良い——俺も彼に負けずにおむつ交換マスターにならないと。
「それで、美少女ハリネズミというのはどんなのだ?」
「写真撮影禁止だからさ。これから見に行こうぜ!」
そう言うと、俺は先に立ってるんるんと歩き始めた……。
ペットショップティアモに戻ると、レジの店員が「また来た」と思っているような顔をしたのでおかしかった。俺の後ろを歩いている京一郎は「後で二階の犬用品も見に行くぞ」と言った。
「ほら! 中中の美少女だろう……って寝てる!」
「うるさくするな。せっかく寝ているんだから」
美少女ハリネズミのケージの前に行って覗き込むと、最初に見た時のように丸まって眠っていた。顔を見せてやろうと思っていたのに、と声を上げると、京一郎が小声で注意した。それもそうだ、と思って声を落とす。
「少し待ってようぜ。そしたら起きて来るかも……」
「そうだな。お、あずさ、ミーアキャットが居るぞ」
「おお! ミーアキャットってペットに出来るんだ!」
そんな会話をしながら色色見て戻って来たが、ハリネズミはまだ眠っていたので、可哀想だが店員を呼んで見せて貰うことにした。
「おお、確かに美少女だな」
「可愛いですよね! 丸まりもすぐに解いてくれますし、飼いやすい子ですよ」
「丸まったままの子も居るんですか?」
「そうですね、警戒心の強い子は……」
そうして呼んで来た女性店員は、ケージから出したハリネズミを手のひらに乗せてそんな売り文句を言った。確かに、最初は丸まっていたハリネズミはすぐに顔を上げてじっと俺達を見た——今はジタバタして起き上がろうとしている。それにしても、びっしり針が生えているのに、店員のお姉さんはよく手袋も嵌めずに持っているな、と感心する。
「では、この子を頂きます。ケージとかもあるんですか?」
「はい。フードも買っていかれますか? 出来れば今まで食べてたものにしてあげた方が良いんですが……」
「じゃあそうします」
即断即決の京一郎はそう言って、思い掛けず新しい家族が増えることになった……。
俺達が購入したハリネズミのケージは結構大きくて、幅が七十一センチメートル半、奥行きが三十センチメートル、高さが四十六センチメートルもある。押し入れに入れる大型衣装ケースくらいの大きさだ(実際に衣装ケースで飼育している人も居る)。他に床材、陶器製の自動給水器、ステンレスの回し車、それからヒーターにサーモスタット(一定温度を下回ると自動でヒーターの電源を入れるため)も買ったので、流石に歩いて持って帰る訳にはいかない——だから、一度京一郎が家に帰りベ◯ツで戻って来た。店の前に横付けしたそれに買ったものを積み込んで、空気穴付きの小さな紙箱に入ったハリネズミは、俺が抱いて助手席に乗り込む。
「名前どうする? なあ、俺が付けても良い?」
「もちろんだ。その子はあずさのペットだからな」
「えっ、そうなん?」
「そうだ。だから第一責任者としてしっかり管理するんだぞ」
「了解!」
そう言われて、俺は益益わくわくした。何しろ、自分のペットを飼うのは生まれて初めてなのだ——そして飼うからには、りょーちゃんが生まれて忙しくなっても、ちゃんと世話してやらなければならない。
「よし、名前は美味子にする!」
「えっ」
数秒考えてからそう言うと、ハンドルを握った京一郎が目を見開いた。それから「それは、何時ぞやの……」と言い掛ける。
「そう! 初詣の時にふざけてりょーちゃんの名前にするって言ってたやつ! 結構気に入ってたからさ」
「せっかくの美少女なのに、美味子……」
「良いじゃん! 美しいっていう文字入ってるし!」
「まあ、そうだが?」
京一郎は腑に落ちないでいるようだったが、俺は美少女ハリネズミ改め、美味子に向かって「もうすぐお家に着くぞ!」と話し掛けた。
そうして家に帰ると、美味子のケージを置く場所について京一郎と相談した。彼はぽん吉が寝起きしているリビングの隅で良いと言ったが、美味子は犬を怖がるだろうと言って俺は反対した。そしてハリネズミは暖かくて静かで、おまけに薄暗いところが好きだから、寝室が最適だと主張した——京一郎はそれにかなり難色を示した。
「美味子は夜行性だろう。うるさくて眠れないじゃないか」
「それは大丈夫だ! 『スーパーサイレント回し車デラックス』は一切回転音がしないんだぞ! 店員さんもそう言ってたし、さっきググったらレビューも最高だった」
「しかし、ゴソゴソ歩き回ったり、もしかしたら鳴くんじゃないか?」
「ハリネズミが鳴くなんて聞いたことないぞ……」
「それに美味子だって、夜は静かなのが良いだろう」
「何言ってんだ? 俺達は寝てるんだから静かだろ?」
「いや、あずさがしょっちゅうアンアン喘ぐからうるさい筈だ」
「おい!! そんなにアンアン言わせなくて良いぞ!!」
俺は京一郎の言い草に真っ赤になって突っ込んだ……。
「どうだった? 勉強になったか? 父親学級!」
「俺はおむつ交換の才能があると先生に言われた。きっとおむつ交換マスターになれると」
「先生面白いな!」
病院から出て来た京一郎の台詞にぷっと噴き出しながら、学級は楽しかったようだな、と思って嬉しくなった。実際に始まると大変に違いないが、楽しんで子育てするのは良い——俺も彼に負けずにおむつ交換マスターにならないと。
「それで、美少女ハリネズミというのはどんなのだ?」
「写真撮影禁止だからさ。これから見に行こうぜ!」
そう言うと、俺は先に立ってるんるんと歩き始めた……。
ペットショップティアモに戻ると、レジの店員が「また来た」と思っているような顔をしたのでおかしかった。俺の後ろを歩いている京一郎は「後で二階の犬用品も見に行くぞ」と言った。
「ほら! 中中の美少女だろう……って寝てる!」
「うるさくするな。せっかく寝ているんだから」
美少女ハリネズミのケージの前に行って覗き込むと、最初に見た時のように丸まって眠っていた。顔を見せてやろうと思っていたのに、と声を上げると、京一郎が小声で注意した。それもそうだ、と思って声を落とす。
「少し待ってようぜ。そしたら起きて来るかも……」
「そうだな。お、あずさ、ミーアキャットが居るぞ」
「おお! ミーアキャットってペットに出来るんだ!」
そんな会話をしながら色色見て戻って来たが、ハリネズミはまだ眠っていたので、可哀想だが店員を呼んで見せて貰うことにした。
「おお、確かに美少女だな」
「可愛いですよね! 丸まりもすぐに解いてくれますし、飼いやすい子ですよ」
「丸まったままの子も居るんですか?」
「そうですね、警戒心の強い子は……」
そうして呼んで来た女性店員は、ケージから出したハリネズミを手のひらに乗せてそんな売り文句を言った。確かに、最初は丸まっていたハリネズミはすぐに顔を上げてじっと俺達を見た——今はジタバタして起き上がろうとしている。それにしても、びっしり針が生えているのに、店員のお姉さんはよく手袋も嵌めずに持っているな、と感心する。
「では、この子を頂きます。ケージとかもあるんですか?」
「はい。フードも買っていかれますか? 出来れば今まで食べてたものにしてあげた方が良いんですが……」
「じゃあそうします」
即断即決の京一郎はそう言って、思い掛けず新しい家族が増えることになった……。
俺達が購入したハリネズミのケージは結構大きくて、幅が七十一センチメートル半、奥行きが三十センチメートル、高さが四十六センチメートルもある。押し入れに入れる大型衣装ケースくらいの大きさだ(実際に衣装ケースで飼育している人も居る)。他に床材、陶器製の自動給水器、ステンレスの回し車、それからヒーターにサーモスタット(一定温度を下回ると自動でヒーターの電源を入れるため)も買ったので、流石に歩いて持って帰る訳にはいかない——だから、一度京一郎が家に帰りベ◯ツで戻って来た。店の前に横付けしたそれに買ったものを積み込んで、空気穴付きの小さな紙箱に入ったハリネズミは、俺が抱いて助手席に乗り込む。
「名前どうする? なあ、俺が付けても良い?」
「もちろんだ。その子はあずさのペットだからな」
「えっ、そうなん?」
「そうだ。だから第一責任者としてしっかり管理するんだぞ」
「了解!」
そう言われて、俺は益益わくわくした。何しろ、自分のペットを飼うのは生まれて初めてなのだ——そして飼うからには、りょーちゃんが生まれて忙しくなっても、ちゃんと世話してやらなければならない。
「よし、名前は美味子にする!」
「えっ」
数秒考えてからそう言うと、ハンドルを握った京一郎が目を見開いた。それから「それは、何時ぞやの……」と言い掛ける。
「そう! 初詣の時にふざけてりょーちゃんの名前にするって言ってたやつ! 結構気に入ってたからさ」
「せっかくの美少女なのに、美味子……」
「良いじゃん! 美しいっていう文字入ってるし!」
「まあ、そうだが?」
京一郎は腑に落ちないでいるようだったが、俺は美少女ハリネズミ改め、美味子に向かって「もうすぐお家に着くぞ!」と話し掛けた。
そうして家に帰ると、美味子のケージを置く場所について京一郎と相談した。彼はぽん吉が寝起きしているリビングの隅で良いと言ったが、美味子は犬を怖がるだろうと言って俺は反対した。そしてハリネズミは暖かくて静かで、おまけに薄暗いところが好きだから、寝室が最適だと主張した——京一郎はそれにかなり難色を示した。
「美味子は夜行性だろう。うるさくて眠れないじゃないか」
「それは大丈夫だ! 『スーパーサイレント回し車デラックス』は一切回転音がしないんだぞ! 店員さんもそう言ってたし、さっきググったらレビューも最高だった」
「しかし、ゴソゴソ歩き回ったり、もしかしたら鳴くんじゃないか?」
「ハリネズミが鳴くなんて聞いたことないぞ……」
「それに美味子だって、夜は静かなのが良いだろう」
「何言ってんだ? 俺達は寝てるんだから静かだろ?」
「いや、あずさがしょっちゅうアンアン喘ぐからうるさい筈だ」
「おい!! そんなにアンアン言わせなくて良いぞ!!」
俺は京一郎の言い草に真っ赤になって突っ込んだ……。
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