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第98話
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パフェを食べ終える頃には外は真っ暗になっていたので、早早に席を立つと会計を済ませた。京一郎にしっかり手を握って貰いながら来た道を戻ると、急いでベ◯ツに乗り込んだ。
「ぽん吉、おまた! 寒くなかったか?」
「湯たんぽがあるから大丈夫だと思う。毛布でブリトー犬にしてあるしな」
「ブリトー犬?」
「タオルや毛布でぐるぐる巻きにした犬のことを、海外では『ドッグブリトー』と呼ぶんだ。暴れるのを防ぐために動物病院でもよくやる」
「つまり、簀巻き犬のことか!」
「まあそうだな」
「ブリトー、食いたくなってきたな! 今度作ってくれよ」
ブリトーとは、具材をトルティーヤと呼ばれる薄い生地で巻いたメキシコの軽食のことだ。半分に折って同じように具材を挟むとタコスになる。屋台で一、二回食べたことがあるだけだがまた食べたくなって強請ると、ハンドルを握った京一郎は「確かイ◯ンのトッピバリュにトルティーヤがあったな」と呟いたので「やったぜ!」とガッツポーズを取った。
そうして暗い海沿いを戻っているうちに、眠くなってきて俺はうとうとした。ゴシゴシ目を擦っていると、京一郎が気付いて「寝ても良いぞ」と言ってくれたので遠慮なく眠りに落ちた。
「んっ……ふ、ぅ」
次の瞬間、いきなり口を塞がれたので目を開けると、京一郎にキスされていた。運転中なのに!? と驚いて暴れてから、助手席のドアが開いていて彼は外に——自宅の駐車スペースに立っているのだと気付いた。
「京一郎! ワープ使ったんか!? 一瞬で家に着いた……」
「何を言っているんだ。寝ている間に随分走ったぞ」
「やべぇ……殆ど気絶状態だったのか、俺」
こんなに深く眠り込んだのは久し振りだから、そう言って顔を両手で挟んだ。するとまた京一郎の顔が近付いて来て唇が重なる。それからぬるりと舌が滑り込んで来たから「おおぅい!!」と叫んで彼の体を押し退けた。
「まだお家に入ってないのに何をしてるんですか、京一郎きゅん!」
「ああ、そうだな……涎を垂らしているから、起こす前に拭いてやろうと思ったんだが、ついつい……」
「涎を拭くって、俺は赤ちゃんかい!!」
俺は京一郎の発言に盛大に突っ込みながら、ぷりぷりして車を降りた……。
さっきパフェを食べたし、デザートにはたっぷり生チョコタルトをいただくつもりだから、夕飯にはキャベツとウインナーをコンソメで炒めたもの、という京一郎にしては超絶シンプルな一品が供された。普通盛りの白米と豆腐とわかめと油揚げの味噌汁も出されたので、ちゃんと腹は満たせたのだけれど(ちなみに炒め物は美味しかったからパクパク食べた)。
「よし!! いよいよ生チョコタルトに入刀ですな! にゅーとー!」
「タルトに入刀か。二人でやるか? 所謂『ケーキ入刀』だ」
「エ゛ッッッ!!」
何気ない台詞にそんな返しがあったから、俺は妙な声を上げて固まった。最近の若者は結婚式を挙げないことが多いけれど、俺達は考えたことすらなかった。
「いいい、いいよ、京一郎が切ってくれ……」
「何を恥ずかしがっているんだ。初めての共同作業だぞ。あ、子作りはもうしたか」
「一言多いぞ、京一郎きゅん!!」
京一郎の言い草に眉を寄せて突っ込んだが、俺はもじもじしながら彼のそばへ行った。すると「トイレか? 待っていてやるから早くしてこい」と言われたので「違ぇよ!!」と叫ぶ。
「よし。では入刀するぞ……ああ、あずさは添えているだけで良い。グシャッとなりそうだからな」
「何だと!?」
包丁の柄を二人で握りながら、そんなやりとりをする。こんな時まで憎まれ口を叩くなんて、と俺は呆れたが、すぐにこれから食べられる生チョコタルトに目が釘付けになった……。
「ぽん吉、おまた! 寒くなかったか?」
「湯たんぽがあるから大丈夫だと思う。毛布でブリトー犬にしてあるしな」
「ブリトー犬?」
「タオルや毛布でぐるぐる巻きにした犬のことを、海外では『ドッグブリトー』と呼ぶんだ。暴れるのを防ぐために動物病院でもよくやる」
「つまり、簀巻き犬のことか!」
「まあそうだな」
「ブリトー、食いたくなってきたな! 今度作ってくれよ」
ブリトーとは、具材をトルティーヤと呼ばれる薄い生地で巻いたメキシコの軽食のことだ。半分に折って同じように具材を挟むとタコスになる。屋台で一、二回食べたことがあるだけだがまた食べたくなって強請ると、ハンドルを握った京一郎は「確かイ◯ンのトッピバリュにトルティーヤがあったな」と呟いたので「やったぜ!」とガッツポーズを取った。
そうして暗い海沿いを戻っているうちに、眠くなってきて俺はうとうとした。ゴシゴシ目を擦っていると、京一郎が気付いて「寝ても良いぞ」と言ってくれたので遠慮なく眠りに落ちた。
「んっ……ふ、ぅ」
次の瞬間、いきなり口を塞がれたので目を開けると、京一郎にキスされていた。運転中なのに!? と驚いて暴れてから、助手席のドアが開いていて彼は外に——自宅の駐車スペースに立っているのだと気付いた。
「京一郎! ワープ使ったんか!? 一瞬で家に着いた……」
「何を言っているんだ。寝ている間に随分走ったぞ」
「やべぇ……殆ど気絶状態だったのか、俺」
こんなに深く眠り込んだのは久し振りだから、そう言って顔を両手で挟んだ。するとまた京一郎の顔が近付いて来て唇が重なる。それからぬるりと舌が滑り込んで来たから「おおぅい!!」と叫んで彼の体を押し退けた。
「まだお家に入ってないのに何をしてるんですか、京一郎きゅん!」
「ああ、そうだな……涎を垂らしているから、起こす前に拭いてやろうと思ったんだが、ついつい……」
「涎を拭くって、俺は赤ちゃんかい!!」
俺は京一郎の発言に盛大に突っ込みながら、ぷりぷりして車を降りた……。
さっきパフェを食べたし、デザートにはたっぷり生チョコタルトをいただくつもりだから、夕飯にはキャベツとウインナーをコンソメで炒めたもの、という京一郎にしては超絶シンプルな一品が供された。普通盛りの白米と豆腐とわかめと油揚げの味噌汁も出されたので、ちゃんと腹は満たせたのだけれど(ちなみに炒め物は美味しかったからパクパク食べた)。
「よし!! いよいよ生チョコタルトに入刀ですな! にゅーとー!」
「タルトに入刀か。二人でやるか? 所謂『ケーキ入刀』だ」
「エ゛ッッッ!!」
何気ない台詞にそんな返しがあったから、俺は妙な声を上げて固まった。最近の若者は結婚式を挙げないことが多いけれど、俺達は考えたことすらなかった。
「いいい、いいよ、京一郎が切ってくれ……」
「何を恥ずかしがっているんだ。初めての共同作業だぞ。あ、子作りはもうしたか」
「一言多いぞ、京一郎きゅん!!」
京一郎の言い草に眉を寄せて突っ込んだが、俺はもじもじしながら彼のそばへ行った。すると「トイレか? 待っていてやるから早くしてこい」と言われたので「違ぇよ!!」と叫ぶ。
「よし。では入刀するぞ……ああ、あずさは添えているだけで良い。グシャッとなりそうだからな」
「何だと!?」
包丁の柄を二人で握りながら、そんなやりとりをする。こんな時まで憎まれ口を叩くなんて、と俺は呆れたが、すぐにこれから食べられる生チョコタルトに目が釘付けになった……。
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