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第97話
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好い加減寒かったので、俺達は広広した駐車場に停めてあるベ◯ツに急いで戻った。こんな天気でも、公園を訪れている人は多い——もうすぐ犬の散歩ラッシュになるだろう。
「さて、カフェだが……本当はぽん吉さんと一緒にテラス席に座りたかったが、流石に体調を崩しそうだからな。店内の席にする……閉店は六時だから急ぐぞ」
「マジ? こっから何分掛かるん?」
「十五分くらいだ。しかし、人気の店だから少し待つかもしれない……」
京一郎はそう答えるとエンジンを掛けた。ブルンと大きな音がして車が発進する——これから向かうのは「海際の丘ルナ」という名前のお洒落なカフェで、本州からのアクセスが良いので県外客も多く訪れる。その名の通り海を望む小高い丘の上にあり、風車もあってまるでお伽話に登場する魔法使いの家みたいな外観だ。
ソトノ海総合公園のある島「多毛島」から南西へ橋を渡りすぐに北へ向かうと、後は海沿いの道をずっと走る——俺は暫く続く良い眺めを助手席で楽しんだ。
「おお、第二駐車場まであるんだな。繁盛してる」
「確か少し離れたところに第三もあるんじゃなかったか」
「マジ!?」
「海際の丘ルナ」の前の道に到着すると第一駐車場は一杯だったから、俺達は少し離れた第二駐車場に車を停め、丘へ続く坂道を上った。少し傾斜がきつかったのでふうふう言っていたら、京一郎が繋いだ手に力を入れてぐいぐい引っ張り上げてくれたので助かった。
「うおお、やっぱちょい待つな……」
店内に入ると、先客が三組も居た。待合椅子は一杯だったので仕方なく立っていると、きれいなお姉さんが立ち上がり「どうぞ」と言って譲ってくれたから恐縮して腰を下ろした。
「ふう。待ったって言ってもそんなにだったな」
「六人組が出て行ったからな」
そうして十五分くらい待つとようやく席に着くことが出来て、俺達はそんなやりとりをした後メニュー表を見た。真っ先にスイーツの欄を確認すると、「苺盛り盛りパフェ」という、苺をふんだんに使ったパフェがあったのでさっと指さした。そうしたら京一郎は手を挙げて店員を呼び、素早く注文を済ませた。彼はコーヒーしか頼まなかったので、首を傾げて尋ねる。
「京一郎はコーヒーだけで良いのか?」
「そんなに甘いものはたくさん食べられないからな。生チョコタルトのために控える」
「そう言われると罪悪感が湧いて来たな! せっかくのパフェなのに!」
「明日からまた節制すれば良い。今日は特別な日なんだから……」
京一郎は微笑みながらそう言って、テーブルの上に置いていた俺の手に手を重ねたから、胸がドキドキした……。
「苺盛り盛りパフェ」には、その名の通り大量に苺が使われていた。俺は満面の笑みを浮かべ、赤い苺と白いアイスクリームをスプーンで掬い口へ運ぶ。傍らの窓の向こうに広がる瀬戸内海には、幾つも島影が見えていた——もう夕暮れ時だから、茜色に染まって美しい。
向かいに掛けている京一郎は、そんな景色ではなく俺のことをずっと見ているから、窓を指して「外、きれいだぞ。もうすぐ暗くなっちまうし、見なくて良いのか」と言った。
「あずさちゃんが美味しそうに食べているのを見る方が良い」
「ブッ」
公園では憎まれ口ばかり叩いていたのに、何だってそんな甘い台詞が口に出来るんだ、と思って俺は噴いた。その拍子にアイスクリームが机の上に飛んで、京一郎が紙ナプキンで拭きながら「全く、汚いな」と言ったので「ごめんって」と謝る。
「一体、京一郎きゅんの脳みそはどうなってんだ? 俺のことを梅干しとか言った癖に、食べてるの見てるのが良いとか言う……。一貫性が無いぞ!!」
スプーンの先で京一郎をビシッと指しながら言ったら、彼は眉を寄せ「行儀が悪いぞ」と窘めてから続けた。
「大好きなんだ、あずさのことが」
「ブッ」
ストレートな愛の言葉にまた噴いたが、今度は口の中に何も入っていなかったのでセーフだった。それから俺は耳まで赤くなって叫ぶ。
「こ、答えになってねーぞ!!」
「どうしてだ? 大好きだから揶揄いたくなるし、大好きだからずっと見ていたい。それだけだ」
「もう……」
いくら今日が入籍日でバレンタインデーだからって、外出先でやり過ぎだろ、と思ったがとても嬉しかった。
「あっ……」
その時、腹の内側を押される感覚がありりょーちゃんが動いたのが分かった。だからスプーンを置いて腹を撫でていると、京一郎が気付いて聞く。
「りょーちゃんが動いたのか?」
「うん。京一郎にあま~い台詞を囁かれて子宮が疼いたから……」
「ブッ」
態と赤裸裸な言い方をしたら、狙い通り京一郎は思い切り噴いた。フヒヒと笑っていると、彼は赤くなったまま眉を寄せた……。
「さて、カフェだが……本当はぽん吉さんと一緒にテラス席に座りたかったが、流石に体調を崩しそうだからな。店内の席にする……閉店は六時だから急ぐぞ」
「マジ? こっから何分掛かるん?」
「十五分くらいだ。しかし、人気の店だから少し待つかもしれない……」
京一郎はそう答えるとエンジンを掛けた。ブルンと大きな音がして車が発進する——これから向かうのは「海際の丘ルナ」という名前のお洒落なカフェで、本州からのアクセスが良いので県外客も多く訪れる。その名の通り海を望む小高い丘の上にあり、風車もあってまるでお伽話に登場する魔法使いの家みたいな外観だ。
ソトノ海総合公園のある島「多毛島」から南西へ橋を渡りすぐに北へ向かうと、後は海沿いの道をずっと走る——俺は暫く続く良い眺めを助手席で楽しんだ。
「おお、第二駐車場まであるんだな。繁盛してる」
「確か少し離れたところに第三もあるんじゃなかったか」
「マジ!?」
「海際の丘ルナ」の前の道に到着すると第一駐車場は一杯だったから、俺達は少し離れた第二駐車場に車を停め、丘へ続く坂道を上った。少し傾斜がきつかったのでふうふう言っていたら、京一郎が繋いだ手に力を入れてぐいぐい引っ張り上げてくれたので助かった。
「うおお、やっぱちょい待つな……」
店内に入ると、先客が三組も居た。待合椅子は一杯だったので仕方なく立っていると、きれいなお姉さんが立ち上がり「どうぞ」と言って譲ってくれたから恐縮して腰を下ろした。
「ふう。待ったって言ってもそんなにだったな」
「六人組が出て行ったからな」
そうして十五分くらい待つとようやく席に着くことが出来て、俺達はそんなやりとりをした後メニュー表を見た。真っ先にスイーツの欄を確認すると、「苺盛り盛りパフェ」という、苺をふんだんに使ったパフェがあったのでさっと指さした。そうしたら京一郎は手を挙げて店員を呼び、素早く注文を済ませた。彼はコーヒーしか頼まなかったので、首を傾げて尋ねる。
「京一郎はコーヒーだけで良いのか?」
「そんなに甘いものはたくさん食べられないからな。生チョコタルトのために控える」
「そう言われると罪悪感が湧いて来たな! せっかくのパフェなのに!」
「明日からまた節制すれば良い。今日は特別な日なんだから……」
京一郎は微笑みながらそう言って、テーブルの上に置いていた俺の手に手を重ねたから、胸がドキドキした……。
「苺盛り盛りパフェ」には、その名の通り大量に苺が使われていた。俺は満面の笑みを浮かべ、赤い苺と白いアイスクリームをスプーンで掬い口へ運ぶ。傍らの窓の向こうに広がる瀬戸内海には、幾つも島影が見えていた——もう夕暮れ時だから、茜色に染まって美しい。
向かいに掛けている京一郎は、そんな景色ではなく俺のことをずっと見ているから、窓を指して「外、きれいだぞ。もうすぐ暗くなっちまうし、見なくて良いのか」と言った。
「あずさちゃんが美味しそうに食べているのを見る方が良い」
「ブッ」
公園では憎まれ口ばかり叩いていたのに、何だってそんな甘い台詞が口に出来るんだ、と思って俺は噴いた。その拍子にアイスクリームが机の上に飛んで、京一郎が紙ナプキンで拭きながら「全く、汚いな」と言ったので「ごめんって」と謝る。
「一体、京一郎きゅんの脳みそはどうなってんだ? 俺のことを梅干しとか言った癖に、食べてるの見てるのが良いとか言う……。一貫性が無いぞ!!」
スプーンの先で京一郎をビシッと指しながら言ったら、彼は眉を寄せ「行儀が悪いぞ」と窘めてから続けた。
「大好きなんだ、あずさのことが」
「ブッ」
ストレートな愛の言葉にまた噴いたが、今度は口の中に何も入っていなかったのでセーフだった。それから俺は耳まで赤くなって叫ぶ。
「こ、答えになってねーぞ!!」
「どうしてだ? 大好きだから揶揄いたくなるし、大好きだからずっと見ていたい。それだけだ」
「もう……」
いくら今日が入籍日でバレンタインデーだからって、外出先でやり過ぎだろ、と思ったがとても嬉しかった。
「あっ……」
その時、腹の内側を押される感覚がありりょーちゃんが動いたのが分かった。だからスプーンを置いて腹を撫でていると、京一郎が気付いて聞く。
「りょーちゃんが動いたのか?」
「うん。京一郎にあま~い台詞を囁かれて子宮が疼いたから……」
「ブッ」
態と赤裸裸な言い方をしたら、狙い通り京一郎は思い切り噴いた。フヒヒと笑っていると、彼は赤くなったまま眉を寄せた……。
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