96 / 153
第96話
しおりを挟む
ソトノ海は静かな入江になっていて、筏で釣りを楽しむことが出来る。凪いだ青い水面にそれらがぽつぽつと浮かぶ様子は、見ているうちに釣られて心が静かになるから好きだった。
「京一郎、ここで写真撮ってくれよ。風で髪ぐしゃぐしゃだけど」
「ああ。せっかくの緑キノコ頭が台無しだな」
「グリーンマッシュルームヘアと呼べ!!」
「英語になっただけで大して変わらないじゃないか」
以前、京一郎が提案した毒キノコヘアスタイルを一部採用して、今の俺の髪型はマッシュルームカットだ。赤ではなく緑にカラーリングしているが、これはこれでやはりキノコっぽい。
「あずさ、顔を梅干しみたいにするんじゃない。笑え」
「梅干しみたい!? よくそんなポンポン失礼な譬えが出来るな!!」
俺は京一郎の言い草にぷりぷりしながら、ぽん吉のリードを持ってポーズを取った。たまには格好良く写ってみようと思って、所謂モデル立ちをしてみたら、「妙な立ち方をするな」と一蹴されたので「何おーう!!」と叫ぶ。その瞬間、カシャッとシャッター音がした。
「はは。凄い形相で写ったな。迫力があって良い写真だ」
カメラのモニターで画像を確認した京一郎が笑いながらそう言って、俺は更に憤慨した。その間にもカシャ、カシャ、とシャッターを切る音が響く。
「流石はぽん吉さん。プロのモデル犬だから、あずさと違ってどのショットもキマっている」
「マジ!? ちょっと見せてくれよ」
俺は京一郎に怒るのに夢中で足元に居るぽん吉を見ていなかったから、彼のそばへ行くとカメラのモニターを覗き込んだ。すると、小さなポメラニアンは強風に被毛を靡かせながらも、胸を張りキリッとした表情で前を向いて写っていたので、「おおっ」と歓声を上げる。
「ぽん吉~。お前、めちゃくちゃ格好良いな! そんな風に格好良く立つやり方、教えてくれよ!」
「ぽん吉さんとは脚の数が違うから難しいな。全く、そんなことも分からないなんて」
「好い加減殴るぞ!!」
今日はいつもよりずっと憎まれ口を叩くな、と思って俺はぷうと頬を膨らませた。すると京一郎が笑いながら謝った。
「悪かった。帰りに近くのカフェに寄ろう。テラスから瀬戸内海が見えてきれいなんだ。この後生チョコタルトを食べるが、特別にパフェも食べさせてやるぞ」
「マジ!? じゃあ今すぐ行こうぜ!!」
パフェと聞いて目を輝かせた瞬間、素早くカメラを構えた京一郎がカシャッとシャッターを切った……。
京一郎の思惑通り、最後の一枚に写っている俺は満面の笑みを浮かべていた。足元のぽん吉はやっぱりちゃんとポーズを決めていて、バックには青い入江とそこに浮かぶ筏も写っており完璧である。モニターに表示されたそれを見せられた俺は、悔しくてぐぬぬと唸った。
「京一郎は何でそんな優秀なんだ!? 何をやっても思い通りになる……」
「そんなことはないぞ。あずさの心を手に入れるのには中中骨が折れた」
「はぇ!?」
思い掛けないことを言われて、俺は素っ頓狂な声を上げた。すると、彼は「そうだ」と応えて続ける。
「俺のことをすぐには好きになってくれなかったじゃないか。一人が好きだとか言って……」
「え、そ、そんなことないぞ。会ってすぐから嫌いではなかったし……」
「俺は一目惚れだったのに。温度差がある」
「一目惚れ!? 嘘つけ、俺みたいな奴が運命の番でがっかりした、とか何とか言ってた癖に」
「あれは嘘だ。本当は好きで堪らなかった」
「お、おう……」
今でもそうだが、俺は肉欲と愛は別だと考えていたから、京一郎のようにすぐに好きだとは言わなかった。けれども、惹かれていたのは間違いない——初めて京一郎を目にした瞬間から。
ふと見ると、彼はカメラのモニターを見ながら僅かに口を尖らせていたので、仕方ないな、と苦笑して言う。
「一目惚れかどうかは分かんねぇけど、京一郎のことは初めから好きだったぜ。いきなり孕まされても嫌じゃないくらいには……」
「確かに、そう言われてみればそうだな。同意の上だったのもあるが、どうしても緊急避妊薬を飲むと言わなかったし……」
「だろ? それって相当好きってことだぜ」
そう言うと、京一郎はみるみる元気を取り戻したからぷっと噴き出した……。
「京一郎、ここで写真撮ってくれよ。風で髪ぐしゃぐしゃだけど」
「ああ。せっかくの緑キノコ頭が台無しだな」
「グリーンマッシュルームヘアと呼べ!!」
「英語になっただけで大して変わらないじゃないか」
以前、京一郎が提案した毒キノコヘアスタイルを一部採用して、今の俺の髪型はマッシュルームカットだ。赤ではなく緑にカラーリングしているが、これはこれでやはりキノコっぽい。
「あずさ、顔を梅干しみたいにするんじゃない。笑え」
「梅干しみたい!? よくそんなポンポン失礼な譬えが出来るな!!」
俺は京一郎の言い草にぷりぷりしながら、ぽん吉のリードを持ってポーズを取った。たまには格好良く写ってみようと思って、所謂モデル立ちをしてみたら、「妙な立ち方をするな」と一蹴されたので「何おーう!!」と叫ぶ。その瞬間、カシャッとシャッター音がした。
「はは。凄い形相で写ったな。迫力があって良い写真だ」
カメラのモニターで画像を確認した京一郎が笑いながらそう言って、俺は更に憤慨した。その間にもカシャ、カシャ、とシャッターを切る音が響く。
「流石はぽん吉さん。プロのモデル犬だから、あずさと違ってどのショットもキマっている」
「マジ!? ちょっと見せてくれよ」
俺は京一郎に怒るのに夢中で足元に居るぽん吉を見ていなかったから、彼のそばへ行くとカメラのモニターを覗き込んだ。すると、小さなポメラニアンは強風に被毛を靡かせながらも、胸を張りキリッとした表情で前を向いて写っていたので、「おおっ」と歓声を上げる。
「ぽん吉~。お前、めちゃくちゃ格好良いな! そんな風に格好良く立つやり方、教えてくれよ!」
「ぽん吉さんとは脚の数が違うから難しいな。全く、そんなことも分からないなんて」
「好い加減殴るぞ!!」
今日はいつもよりずっと憎まれ口を叩くな、と思って俺はぷうと頬を膨らませた。すると京一郎が笑いながら謝った。
「悪かった。帰りに近くのカフェに寄ろう。テラスから瀬戸内海が見えてきれいなんだ。この後生チョコタルトを食べるが、特別にパフェも食べさせてやるぞ」
「マジ!? じゃあ今すぐ行こうぜ!!」
パフェと聞いて目を輝かせた瞬間、素早くカメラを構えた京一郎がカシャッとシャッターを切った……。
京一郎の思惑通り、最後の一枚に写っている俺は満面の笑みを浮かべていた。足元のぽん吉はやっぱりちゃんとポーズを決めていて、バックには青い入江とそこに浮かぶ筏も写っており完璧である。モニターに表示されたそれを見せられた俺は、悔しくてぐぬぬと唸った。
「京一郎は何でそんな優秀なんだ!? 何をやっても思い通りになる……」
「そんなことはないぞ。あずさの心を手に入れるのには中中骨が折れた」
「はぇ!?」
思い掛けないことを言われて、俺は素っ頓狂な声を上げた。すると、彼は「そうだ」と応えて続ける。
「俺のことをすぐには好きになってくれなかったじゃないか。一人が好きだとか言って……」
「え、そ、そんなことないぞ。会ってすぐから嫌いではなかったし……」
「俺は一目惚れだったのに。温度差がある」
「一目惚れ!? 嘘つけ、俺みたいな奴が運命の番でがっかりした、とか何とか言ってた癖に」
「あれは嘘だ。本当は好きで堪らなかった」
「お、おう……」
今でもそうだが、俺は肉欲と愛は別だと考えていたから、京一郎のようにすぐに好きだとは言わなかった。けれども、惹かれていたのは間違いない——初めて京一郎を目にした瞬間から。
ふと見ると、彼はカメラのモニターを見ながら僅かに口を尖らせていたので、仕方ないな、と苦笑して言う。
「一目惚れかどうかは分かんねぇけど、京一郎のことは初めから好きだったぜ。いきなり孕まされても嫌じゃないくらいには……」
「確かに、そう言われてみればそうだな。同意の上だったのもあるが、どうしても緊急避妊薬を飲むと言わなかったし……」
「だろ? それって相当好きってことだぜ」
そう言うと、京一郎はみるみる元気を取り戻したからぷっと噴き出した……。
40
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる