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第80話
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二時間後、俺達は開店直後のジュエリーショップにやって来ていた。歩いて十分も掛からない近所の店で、京一郎が婚約指輪を買ったのもここ——ジュエリーショップ「マエダ」だ。系列のマエダグループは高級腕時計や指輪などのアクセサリー、眼鏡を販売する地元企業で、市内中心部や郊外に幾つも店舗を構えている。このO店は中規模の店舗だが、比較的若い富裕層に人気のこの地域にあるから、ブライダル関連の商品が充実しているらしい。
「いらっしゃいませ。あら、田中様。先日はありがとうございました」
店に入るなり、美人の女性店員がそう挨拶したから俺はビビった。俺も京一郎も多少きれいめコーデにしただけで、別に金持ちそうな装いではない。だから立派な店構えにちょっぴり気後れしていたのだが、心配無用だったようだ。
「奥様の指輪のサイズは問題ありませんでしたか? ああ、今嵌められてますね」
「ああ、お陰様でぴったりでした。それで、今日は結婚指輪のデザイン決めと、ペアのブレスレットを見たいんですが……」
「お、奥様……」
女性店員と京一郎がやりとりしている後ろで、俺はパワーワードだな、と思いながらそう呟いた。一週間後には、俺は正真正銘京一郎の奥様になるのだと実感する。
「ではこちらへどうぞ」
女性店員は先に立って吹き抜けの二階へ続くサーキュラー(カーブ)階段を上り、豪華なベンチソファに俺達を案内した。ふかふかした絨毯の上には猫脚の重厚なローテーブルがあり、店員はその上へ奥の棚から持って来たカタログを広げる。
「結婚指輪は後でサイズ直しし易いものを。ブレスレットには名前を刻印したいんですが……」
「かしこまりました。素材はどうなさいますか?」
「プラチナかな……」
京一郎と店員はすぐに相談を始めて、俺はソファに座ったままきょろきょろした。赤ちゃんや幼児の居るカップルもよく訪れるから、部屋の隅にはベビーベッドや幼児のための遊び場が備えられている。
「おっ、リゴあるやん。リゴって案外高ぇんだよな……」
定番おもちゃである組み立てブロック玩具の大きなセットがあるのを見つけ、俺はそう呟いた。最近はインターネットでベビー用品を見ているので、度度広告が表示されるようになったのである。三、四歳になれば遊ぶようになるから値段をチェックしたのだが、基本セットでも三千円くらいする。京一郎にとっては端た金だが……。
「ちょっと遊んで来ようかな」
そう呟いて立ち上がろうとしたら、店員と話していた京一郎がくるっと振り向いて眉を寄せ、「何を言っているんだ。いい大人がリゴで遊ぶな」と言った。「何だ、聞こえてたんかい」と応えると、「お前もデザインを選べ」と言ってカタログを渡されたので、渋渋受け取った……。
「いらっしゃいませ。あら、田中様。先日はありがとうございました」
店に入るなり、美人の女性店員がそう挨拶したから俺はビビった。俺も京一郎も多少きれいめコーデにしただけで、別に金持ちそうな装いではない。だから立派な店構えにちょっぴり気後れしていたのだが、心配無用だったようだ。
「奥様の指輪のサイズは問題ありませんでしたか? ああ、今嵌められてますね」
「ああ、お陰様でぴったりでした。それで、今日は結婚指輪のデザイン決めと、ペアのブレスレットを見たいんですが……」
「お、奥様……」
女性店員と京一郎がやりとりしている後ろで、俺はパワーワードだな、と思いながらそう呟いた。一週間後には、俺は正真正銘京一郎の奥様になるのだと実感する。
「ではこちらへどうぞ」
女性店員は先に立って吹き抜けの二階へ続くサーキュラー(カーブ)階段を上り、豪華なベンチソファに俺達を案内した。ふかふかした絨毯の上には猫脚の重厚なローテーブルがあり、店員はその上へ奥の棚から持って来たカタログを広げる。
「結婚指輪は後でサイズ直しし易いものを。ブレスレットには名前を刻印したいんですが……」
「かしこまりました。素材はどうなさいますか?」
「プラチナかな……」
京一郎と店員はすぐに相談を始めて、俺はソファに座ったままきょろきょろした。赤ちゃんや幼児の居るカップルもよく訪れるから、部屋の隅にはベビーベッドや幼児のための遊び場が備えられている。
「おっ、リゴあるやん。リゴって案外高ぇんだよな……」
定番おもちゃである組み立てブロック玩具の大きなセットがあるのを見つけ、俺はそう呟いた。最近はインターネットでベビー用品を見ているので、度度広告が表示されるようになったのである。三、四歳になれば遊ぶようになるから値段をチェックしたのだが、基本セットでも三千円くらいする。京一郎にとっては端た金だが……。
「ちょっと遊んで来ようかな」
そう呟いて立ち上がろうとしたら、店員と話していた京一郎がくるっと振り向いて眉を寄せ、「何を言っているんだ。いい大人がリゴで遊ぶな」と言った。「何だ、聞こえてたんかい」と応えると、「お前もデザインを選べ」と言ってカタログを渡されたので、渋渋受け取った……。
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