犬のさんぽのお兄さん

深川シオ

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第50話

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「ふう。今年のクリスマス兼誕生日は、今までで一番楽しかったかも!」
「本当か? 実は俺もそうだ」
 ささやかなパーティーの片付けをして風呂に入り、歯磨きもきっちり済ませた俺達は、二人並んでベッドに横になっていた。珍しくえっちな雰囲気ではなくて、京一郎は優しい表情で俺を見つめている。
「あー。来年から忙しくなるけど、ずっとこんな風に祝って貰えるの? 俺」
「そうだ。俺は絶対にお前を手放さないからな」
「なんか言い方怖いけど、嬉しいぞ! こんなたま輿こし、なかなか乗れねーかんな!」
「……」
 照れ隠しにわざと即物的な言い方をしたら、京一郎はやや興醒きょうざめした顔付きになったが、フッと笑った。それから優しい声で言う。
「お前の望むものは何でも用意しよう。限度はあるが、幸いある程度豊かな暮らしはさせてやれる……」
「でも玉の輿って言ったけど、別に俺そんな成金なりきん趣味じゃねーし。毎日メシウマ京一郎の作る美味いもん食って、あったかくて寝心地の良いベッドで寝て、そこそこヤりまくったらそれで満足……」
 率直にそう伝えたら、京一郎は真面目な顔で「ヤりまくるのが好きなのは良かった。性の不一致は夫婦関係の破綻の原因になるからな」と言ったのでぷっと噴き出した。
「でも、俺ばっか良くして貰いっ放しなのも良くねーな。俺だって、何か生産しないとな。家事とかだけじゃなくて」
「別に、俺は無償でお前に良くしている訳ではない。現に会ってすぐに孕ませたしな」
「京一郎って孕ませるって言うの好きだよな」
 俺は京一郎の言い様に呆れてそう応えたが、確かにそういう見方もあるな、と思った。アルファとしてオメガを孕ませるのが彼の一番の目的だったのだろう。
「まあ確かに、今んとこ何の問題もねーけど、赤ちゃん産むのって命懸けだからな。億が一死んだらゴメンな」
「……」
 軽い気持ちで言ったのに、京一郎は僅かに青褪あおざめたからぎょっとした。するといきなりギュッと抱き締められたので目を見開く。
「もしお前が死んだら、俺も死ぬ……」
「おい!」
 そういえば、京一郎の母親は自殺していたのだった。俺は自らの発言を悔やんだけれどもう遅い。けれども、彼を見上げて言う。
「俺が死んだとして、もし赤ちゃんが生きてたらそれこそ死んじゃダメだぞ。ちゃんと育ててくれよな」
「嫌だ。あずさが居ないと生きていけない」
 京一郎の顔は見えないが、僅かに震えているのに気付いて俺ははあ、とため息を吐いた。
「分かった。それじゃ泥水を啜ってでも生き残ってやるから安心しろ。全く、京一郎ちゃんは弱虫なんだから」
「あずさ、ずっと一緒に居てくれ……」
「分かった分かった。不安にさせるようなこと言ってゴメンな」
 俺は京一郎の背中をポンポン叩いてやりながら、再びふうとため息を吐いた……。
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