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第17話
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京一郎のとんかつはとても美味しかった。衣はサクサクで肉は柔らかくジューシーで、専門店顔負けの味だった。
「さっきも言ったけど、俺、アンタの赤ちゃん、ちゃんと産むよ。すんげーメシウマだもん」
「そんな理由……」
とんかつに齧り付きながらそう言うと、京一郎はぽっと頬を染めて僅かに目を潤ませたが、数秒経って微妙な表情になった。けれども俺は気にしないで尋ねる。
「そんで近くの部屋、貸してくれんだよな? でも俺、引っ越し業者呼ぶ金無いんだけど」
「え?」
京一郎は目を見開くと、箸で摘んでいたとんかつをぽろ、と皿に落とした。そんな反応を見て、俺は口を尖らせて言う。
「なんだよ、約束破る気かよ」
昨日思った通り、妊娠したからといって自由を制限するつもりだろうか。それは嫌だな、と思っていたら、京一郎が小さな声で言った。
「お前は、そんなに俺と暮らすのが嫌なのか……」
しょんぼりしているのを見て、俺はちょっと慌てたが、やはりムッとした顔をして答える。
「俺達、まだ出会って三日目なんだぞ。そんなすぐに同棲出来るかい」
すると、今度はぷっと噴き出したから、眉を寄せ「何だよ」と言う。
「いや、お前はちゃらんぽらんなようで、意外に慎重だからおかしかった」
「失礼な」
京一郎の言い草に俺は憤慨したが、確かにちょっと変わった考え方をする自覚はあった。しかし、そんなことより夢の一人暮らしを手に入れるために、続けて言う。
「貸してくれる物件って、どんなん? ワンルーム?」
「ああ、学生向けのマンションなんだ。だから、少し環境が良くないかもしれないが」
「別に少少は良いけど」
実は、この近くには私立の大学があり無数の学生マンションがある。金持ち学校だから、しっかりしていてきれいな物件が多いので少し期待した。
「確か、二階に空室がある筈だ。本当は三階以上にしたかったが……。築十年だからまだそこそこきれいだぞ」
「へえー」
三階以上が良いなんて、女の子じゃないんだから、と思ったが俺は黙っていた。不本意だが、京一郎にとっては自分は似たようなものだ。
「しかし、食事は三食食べに来るのだろう?」
「ああうん。それで良いなら」
「もちろんだ。頻繁に来てくれる方が嬉しい」
京一郎は真面目な顔をしてそう言ったから、本当に俺と一緒に居たくて堪らないんだな、と思った。さっき話してくれたような覚悟で運命の番を求めていたのなら、それも仕方ないか、と思う。
「でも初めに言っとくけど、俺、実は一人で居るの好きなんだよね。アンタのことは嫌いじゃないし一緒に居て楽だけど、一人になりたいこともあるから、そこんとこよろしくな」
「そうか……」
そう言うと、京一郎はまたしょんぼりした。それから顔を上げて言う。
「俺は、好きな相手とは四六時中一緒に居たいタイプだ。あと、毎日ヤりたい」
「毎日かよ! でも、もしかしたら俺とはあんま合わないかもな」
再び眉を寄せ腕組みしてそう言うと、京一郎は真剣な目付きで言った。
「しかし、お前と一緒に居られるのなら、ある程度我慢する。そのうち俺も慣れるだろうし」
「そっか。まあ、俺もある程度は譲歩するよ」
そんなやりとりをして、俺は内心「もしかして、いつの間にか本格的に付き合うことになってる?」と首を傾げた……。
「さっきも言ったけど、俺、アンタの赤ちゃん、ちゃんと産むよ。すんげーメシウマだもん」
「そんな理由……」
とんかつに齧り付きながらそう言うと、京一郎はぽっと頬を染めて僅かに目を潤ませたが、数秒経って微妙な表情になった。けれども俺は気にしないで尋ねる。
「そんで近くの部屋、貸してくれんだよな? でも俺、引っ越し業者呼ぶ金無いんだけど」
「え?」
京一郎は目を見開くと、箸で摘んでいたとんかつをぽろ、と皿に落とした。そんな反応を見て、俺は口を尖らせて言う。
「なんだよ、約束破る気かよ」
昨日思った通り、妊娠したからといって自由を制限するつもりだろうか。それは嫌だな、と思っていたら、京一郎が小さな声で言った。
「お前は、そんなに俺と暮らすのが嫌なのか……」
しょんぼりしているのを見て、俺はちょっと慌てたが、やはりムッとした顔をして答える。
「俺達、まだ出会って三日目なんだぞ。そんなすぐに同棲出来るかい」
すると、今度はぷっと噴き出したから、眉を寄せ「何だよ」と言う。
「いや、お前はちゃらんぽらんなようで、意外に慎重だからおかしかった」
「失礼な」
京一郎の言い草に俺は憤慨したが、確かにちょっと変わった考え方をする自覚はあった。しかし、そんなことより夢の一人暮らしを手に入れるために、続けて言う。
「貸してくれる物件って、どんなん? ワンルーム?」
「ああ、学生向けのマンションなんだ。だから、少し環境が良くないかもしれないが」
「別に少少は良いけど」
実は、この近くには私立の大学があり無数の学生マンションがある。金持ち学校だから、しっかりしていてきれいな物件が多いので少し期待した。
「確か、二階に空室がある筈だ。本当は三階以上にしたかったが……。築十年だからまだそこそこきれいだぞ」
「へえー」
三階以上が良いなんて、女の子じゃないんだから、と思ったが俺は黙っていた。不本意だが、京一郎にとっては自分は似たようなものだ。
「しかし、食事は三食食べに来るのだろう?」
「ああうん。それで良いなら」
「もちろんだ。頻繁に来てくれる方が嬉しい」
京一郎は真面目な顔をしてそう言ったから、本当に俺と一緒に居たくて堪らないんだな、と思った。さっき話してくれたような覚悟で運命の番を求めていたのなら、それも仕方ないか、と思う。
「でも初めに言っとくけど、俺、実は一人で居るの好きなんだよね。アンタのことは嫌いじゃないし一緒に居て楽だけど、一人になりたいこともあるから、そこんとこよろしくな」
「そうか……」
そう言うと、京一郎はまたしょんぼりした。それから顔を上げて言う。
「俺は、好きな相手とは四六時中一緒に居たいタイプだ。あと、毎日ヤりたい」
「毎日かよ! でも、もしかしたら俺とはあんま合わないかもな」
再び眉を寄せ腕組みしてそう言うと、京一郎は真剣な目付きで言った。
「しかし、お前と一緒に居られるのなら、ある程度我慢する。そのうち俺も慣れるだろうし」
「そっか。まあ、俺もある程度は譲歩するよ」
そんなやりとりをして、俺は内心「もしかして、いつの間にか本格的に付き合うことになってる?」と首を傾げた……。
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