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6章 メタモルフォーゼ

36 good night

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 真王がうっとり目を細める。
「そう、らしい」
 はじめて感じる気持ちよさに、戦慄く。これはセックスにはない。プレイを通して精神にも性感帯を刻まれているかのようだ。
「いいこと知った。いっぱい褒めさせてあげるから、コマンドちょうだい」
 真王の昂揚した顔に「愛させて」と書いてある。夕夜も「この男こそ」と思って許す。

「てめえの愛、『くれてみろpresent』」
「任せて。俺じゃないとだめにしてあげる」

 真王が腰を引く。結合部に隙間ができるのをさみしいと思う暇もなく、どちゅっと突き上げられた。身体が満たされる。

「言う、じゃ……ぁ、ねえ、か」

 お仕置きの反動か、真王の腰つきは容赦ない。上反りした性器で、腹側の性感帯も奥のくびれもまとめて擦られる。暴れてファウンテンタワーを倒さないよう真王の首にしがみついた。

「……いい、とこ、当たる、っ」

 夕夜が耳元で漏らす声が、そのままご褒美になっているのだろう。真王は悦んで尻尾を振るみたいに、ますます腰を振りたくる。

「そ、『当たり』だから。やっと見つけた。俺の愛を美味しく食ってくれる人。あのときあっためてくれて、ありがと……」
「見つけたは、こっちの、台詞だ」

 最初の触れ合いの感触だけは憶えている様子の真王と、目が合う。二度と逸らさない誓いとして、微笑み合う。心も満たされる。
 手加減なしの愛をぶつけられると、無性に嬉しい。とめどない快楽が全身を駆け巡る。

「ね、美味いっしょ」

 真王は横に手を伸ばし、夕夜の赤い唇にチョコを滴らせた。ぱくりと齧りつく。
 夕夜も貪り返す。真王はチョコ以上に甘い。煙草では味わえない、本物の甘さだ。
 ただ甘いのではなく、どこまでも甘い。

 ハードでないとプレイじゃないというなら、特大の愛を隙間なくひっきりなしに、まっすぐ自分にのみ向けさせるのも、結構な暴虐だ。夕夜の求めに忠実に応える真王に、ぞくぞくする。

「……はぁ、『もっとmore』」

 真王はそのコマンドを待っていたとばかりに動き方を変えた。
 いつものローションより粘度の高いチョコが、どちゅぱちゅっと大きな音を生む。真王の鍛えた腹筋に夕夜の性器が擦られ、内外からの刺激に歓喜の悲鳴を上げた。

「あ、ぁ、止まるな……~っ」

 真王が律動しながら、満足げに笑う。

「プレイでコマンド出すのはれるほうって思い込んでたけど、抱くことでも応えられんだな……。俺、生まれてはじめてプレイ愉しいって思ってる。夕夜さんは?」
「挿れてて、わから、ねえか?」

 夕夜は踵で真王の尻を蹴った。
 途端、内壁がきゅうきゅう収縮して、気を失いかける。蹴った振動が性感に変換されたせいじゃない。脳イキ、いやパラメータイキだ。

「わかるよ。あんたが俺のちんこが好きなだけじゃなくて、一緒に愉しんでるからこうなってるって。コマンド出すの気持ちよさそうで、よかった。俺、特別なスイッチで、よかった……」

 真王の性器も、普段より強く脈打っている。
 特殊な道具や行為を繰り出さないといつものセックスみたいだが、ちゃんとプレイだ。冬の夜に裸にもかかわらず滲む汗を拭う。

「[Good Knightおれのいい子]。愉しませてやるから、『愉しませてみなattract』」

 望むようにさせると、胸が躍る。褒めると感じる。ダイナミクスも、満たされる。
 身体の快楽に精神の充足が上乗せされて、死ぬほど心地いい。

 真王がコートでなく身体で覆い被さってきて、夕夜をもっと熱くさせる。絶えず揺さぶられ、背中の作業台も冷たく感じない。

「あ、ぁ、……あっ、真王……まおっ」

 もはや名前を呼ぶしかできなくなる。
 一方の真王は恍惚とした表情で、そんな夕夜の痴態を見つめている。

「なあ、これ、サブスペースってやつ?」
「さあな……おれは入ったこと、ねえ、」
「パートナーに……夕夜さんに、まるごと愛されてるって感じ、だよ」
「自分とおれしか感じねえなら、そうだろ」
「へへ。んじゃそういうことにしよ」

 可愛く頬擦りしてきた。雄っぽい顔に「俺の女王サマ大好き」と書いてある。

 一度は生きる世界が違うと思ったのに、同じ世界どころか、ふたりだけの世界スペースにいる。ふたりだからできるプレイに没頭する。

「ひゃ、もう、こんなの知らねえ……」
「声、慎まなくていーよ」

 真王は夕夜の嬌声によって力を補充するかのようだ。「attract」のコマンドに忠実に腰を遣い、夕夜の身体も精神もダイナミクスも満たす。

「……ね、一緒に、イいきたい」

 ほどなくして、いちばん気持ちいいコマンドをねだってくる。チョコを足さずとも滑りがよく、真王の絶頂が近いのが察された。

 夕夜も、そのおねだりを待っていた。
 真王に尽くされ尽くすのが何よりの悦びだ。

「ちゃんとぜんぶおれんとこに持ってきたら、飲み干して、褒めてやる。『来いCum』」
「ん、俺、夕夜さんにはいい子だから、できるよ。召し上がれ……っ!」

 真王が叫び、最奥で果てる。夕夜の本能の下に馳せ参じ、温かくいやらしい夕夜のための一杯を差し出す。そのグラスには底がない。

「ふ、あああぁ、っ、美味い……」

 夕夜はつま先を反らし、断続的に痙攣した。噎せ返るほどの幸福に浸る。
 これまで、自分の中で男が達しても「支配された」と悦びきれなかった。しかし今、「一滴残さずおれが受け止めた」という独占欲が満たされる。
 プレイで、気持ちよくなれた。


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