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5章 相応しくなりたい

28 バレンタインは灰色

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 千歳と会う金曜はくしくもバレンタインだったので、前日夜に新しい隔板から覗いた真王の顔には、「ほら下心!」と書いてあった。

「話すだけだ。二十時には帰ってくる。おれのメッセージIDも教えてやるから」
「別にいーよ、俺その時間まだ残業だし。これマーキングな」

 真王が改めて、クリスマスプレゼントのジッポを差し出してくる。苦笑しつつ受け取った。

 今夜も黒いコートのポケットに収める。[カラー]として贈られたわけではないが、持っていると落ち着く。

(やっぱり自力で転職することにして、千歳には会わないでおいてやるか?)

 待ち合わせに向かう道すがら、従順でない夕夜らしからぬ考えが浮かんだ。
 しかしせっかくの厚意を断るなら対面で伝えなければ、とも思う。

 指定された個人経営バーまで、もう少し歩く。恋人連れが目につく品川の繁華街を逸れて路地裏に入り、千歳に電話を掛けてみる。

「直前で悪いが、日を替えられないか」
『うーん、でももう迎えを遣ったんだ』

 電話口の千歳は困り声だ。それはそうだろう。ここまで来たし、駄目もとの日程調整は取り下げよう。
 というか迎えとは? 道がわかりにくいのかと首を傾げるや、真横にバンが停まった。

 最近夕夜につきまとっている、灰色のバンが。
 電話中を狙って接触してきたか。スライドドアが開き、「『来いcome』」と命じられる。
 コマンドの効きにくい夕夜は踏みとどまった。だが間髪入れず腕を引っ張られた。



(この詐欺ドム。ひとりで玩具で遊んでろ)

 目隠しされる前に垣間見た運転手は、六本木のハズレドムだった。
 車内でなおも暴れたら、手脚をテープで拘束された。口にまで貼られたくないので、口の悪さは封印する。

(ここぞってときに大声出してやる)

 バンは二十分ほど走って停まった。脚のテープを解いて降ろされる。
 かすかな潮の匂いと、飛行機のエンジン音がした。

 どこだかわからないが、夜風が頬を撫でるうちにと、もぞもぞ身体を捻る。ハズレドムに「何してる」と問われたが、「別に」と顎を上げた。脅されて従うほどやわじゃない。

 少し歩くと、足音が反響した。屋内に入ったようだ。

「待ってたよー。目隠しを取ってあげて」

 この声は……混乱と予感半々で、開けた視界を確かめる。


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