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2章 正反対で似てる二人

11 ロマンチックな男

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 夕夜は手を引っ込めようとした。だがひと回り大きな手に阻まれる。

「てめえの泣き顔がそそったんだよ」

 そうそうプレイできないのにセックスに持ち込まれてはまずいと、やり返す。

「え、泣いてないけど。てかドムみたいなこと言うじゃん。サブってふつう泣かされたかったり従いたかったりすんじゃないの?」
「いやふつうは他人に従いたくねえだろ」

 真王は自分が泣いていたことも含め、きょとんとした。サブの認識は人並らしい。
 夕夜は空いているほうの手で、今日は未使用の灰皿の縁をなぞる。

「その気になりゃ従う……てのは、おれの性格かもな。パラメータ値は不安定とはいえ、どう見てもサブなんだが」
「ふうん。性格とダイナミクスが噛み合わないんだ。そりゃパートナー探し、苦労しそ」

 大きなお世話だ。じとりと睨む。

「こわ。もうさ、[スイッチ]Switch探せば?」
「スイッチのが都市伝説並みにいねえだろ」

 スイッチは、コマンドによってダイナミクスが切り替わる。が、そんなことがあり得るのかと夕夜は懐疑的だ。
 事実会ったこともないものの、一応想像してみる。普段は慎ましやかなサブで、プレイ中のみドムになる男……?
 世間には、プレイとセックスで役割が逆転する、ドムの女とサブの男のパートナー兼恋人もいる。しかし夕夜にはしっくりこない。

「それより理想があんだよ」
「お、どんな?」

 真王が興味ありげに顔を上げた。夕夜はすらすら諳んじてみせる。

 セックス中あれしろこれするなと煩くなく、他を下げて自分を上げずとも魅力や実力があり、それゆえプレイでも自然と「従いたい」という気にさせる男。

「破れ鍋サブなおれの綴じ蓋になってくれる、運命のドムがきっとどっかにいる」

 真王はぱちぱちと瞬きした。かと思うと、諦め半分憧れ半分みたいに笑う。

「夕夜さんて恋愛観はロマンチックなのな」
「うるせえ。笑うなら訊くな」

 低く毒吐く。昔、事務所の先輩や客たちに理想を教えたら、決まって笑われた。それで他言しなくなったのを、せっかく明かしたのに。

「いやいや。俺は支配求めてこないサブいる気しないから、ダイナミクス関係なくふつうに恋愛したいって思ってたんだ、けど……」

 真王がつぶやく。ひとり言めいているぶん本音に感じられた。

 真王は、プレイ自体望んでいないのだ。判定以前に対象外――とわかり、胸が軋む。
 彼が運命のドムかもと、期待をふくらませ過ぎたのだろう。パートナー探しに関しては引き摺らない夕夜だが、少し名残惜しい。

「だが、プレイしねえと体調悪くなるだろ」
「サブほどじゃない。別のもんで紛らわせてる。たとえば料理で食材に『美味しくなれ』ってすると、結構癒されるよ。あと、」

 真王が一拍、溜める。酒に呑まれた犬から、雄の顔に切り替わる。

「たとえばセックス。身体の相性いいあんたとなら最高だろ。俺、男女問わず脚のきれいな美人が好みなんだよね」
「憶えてねえくせによく言う」

 夕夜ばかりあの夜の記憶に振り回されているのが癪で、顎を反らす。でも、テーブルの下で足裏をつ、となぞられるのは避けない。

「今度は憶える」

 真王が、未だに重ねたままの手を引き寄せた。


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