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2章 正反対で似てる二人
10 愛=支配?
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「愛人に会いに行こうとしたんだよ、いい歳して。で、『今日くらい母さん優先すれば?』つったら、[グレア]返されて死んだ」
「そりゃ最悪だな。傷害みてえなもんだ」
さすがの夕夜も同情を口にする。
グレアは、ドムがドムを屈服させる「視線」だ。ドム値、ひいてはドムの格の違いを明確にする。大体サブをめぐって争うときに使われる。屈服させられたほうはしばらく自失状態になり、コマンドも発せない。
「だろ。サブの愛人自体は前からいたけど、一人息子の自尊心へし折るほどご執心のやつができたぽいわ。俺の家族は支配関係。世間ではこれを愛っていうの意味わかんない」
真王が鼻息荒くテーブルを叩く。酒のボトルや紙皿やペン立てが揺れて、しゃらんと鳴る。
支配したい本能を持つドムが無理やり膝を突かされるのは、屈辱でしかないが――。
「てめえもドム値高えのに、敵わねえのか」
夕夜は首を傾げた。真王は新歓の折、ニュートラルにもコマンドを効かせた。ドム値の高い、強いドムのみなせるわざだ。
「言うなよ、なんでか他のドムのグレアに弱いのちょっと気にしてんだよ」
真王がじわじわ涙目になる。
「仕事も結局父さんの言いなりだし……」
諦めの滲む声でこぼした。コネとは、父親に逆らえないという意味だったらしい。
「はー、ドムの愛は支配しないと伝わらないのかよ。『愛されてる感じしない』って何。こんな顔も頭も育ちもいい男つかまえてさ。コマンド使わないセックスだって悦くしてるじゃん」
つまり真王は、支配イコール愛情とは思わないから支配したくない。でも魅力的なドムゆえ支配を求められるし、するしかない。
彼なりに葛藤に苛まれているのだ。思えば、新歓でもベランダでも、複雑な表情が垣間見えた。錯覚じゃなかった。
「強がりが下手くそだな」
夕夜は、真王のやわらかい髪を撫でた。
自信家な振る舞いが、生来の性格ばかりでなく、自分の愛し方に自信を持ちたいからだとすれば可愛いものではないか。ふつうに愛そうとしては失敗した結果、遊び人状態になっているのも憐れで可愛い。
「……へへ。あんたに撫でられんの、好き」
真王は不意をつかれた顔をしたが、すぐ心地よさげに夕夜の手に頭を摺り寄せる。
ふつうがいいというのも、無駄にハードなプレイを好まない夕夜と気が合う。
(こいつのプレイは、今までのドムとは違いそうだ。でも、プレイしたくねえだろうな)
ただ、誤算もある。彼がどんなドムか詳しく知ったために、迂闊にプレイに持ち込めなくなった。
プレイで満たし合えなければ、運命のパートナーとはいえない。
どうしたものかと逡巡していたら、テーブルにゆったり伏せた真王が、
「家族だって支配関係なのに、夕夜さんは他人の俺を利害関係なく、人肌であっためてくれたっけ?」
と話題を変えた。手に手を重ね、湿度の高い眼差しも向けてくる。これは――。
「そりゃ最悪だな。傷害みてえなもんだ」
さすがの夕夜も同情を口にする。
グレアは、ドムがドムを屈服させる「視線」だ。ドム値、ひいてはドムの格の違いを明確にする。大体サブをめぐって争うときに使われる。屈服させられたほうはしばらく自失状態になり、コマンドも発せない。
「だろ。サブの愛人自体は前からいたけど、一人息子の自尊心へし折るほどご執心のやつができたぽいわ。俺の家族は支配関係。世間ではこれを愛っていうの意味わかんない」
真王が鼻息荒くテーブルを叩く。酒のボトルや紙皿やペン立てが揺れて、しゃらんと鳴る。
支配したい本能を持つドムが無理やり膝を突かされるのは、屈辱でしかないが――。
「てめえもドム値高えのに、敵わねえのか」
夕夜は首を傾げた。真王は新歓の折、ニュートラルにもコマンドを効かせた。ドム値の高い、強いドムのみなせるわざだ。
「言うなよ、なんでか他のドムのグレアに弱いのちょっと気にしてんだよ」
真王がじわじわ涙目になる。
「仕事も結局父さんの言いなりだし……」
諦めの滲む声でこぼした。コネとは、父親に逆らえないという意味だったらしい。
「はー、ドムの愛は支配しないと伝わらないのかよ。『愛されてる感じしない』って何。こんな顔も頭も育ちもいい男つかまえてさ。コマンド使わないセックスだって悦くしてるじゃん」
つまり真王は、支配イコール愛情とは思わないから支配したくない。でも魅力的なドムゆえ支配を求められるし、するしかない。
彼なりに葛藤に苛まれているのだ。思えば、新歓でもベランダでも、複雑な表情が垣間見えた。錯覚じゃなかった。
「強がりが下手くそだな」
夕夜は、真王のやわらかい髪を撫でた。
自信家な振る舞いが、生来の性格ばかりでなく、自分の愛し方に自信を持ちたいからだとすれば可愛いものではないか。ふつうに愛そうとしては失敗した結果、遊び人状態になっているのも憐れで可愛い。
「……へへ。あんたに撫でられんの、好き」
真王は不意をつかれた顔をしたが、すぐ心地よさげに夕夜の手に頭を摺り寄せる。
ふつうがいいというのも、無駄にハードなプレイを好まない夕夜と気が合う。
(こいつのプレイは、今までのドムとは違いそうだ。でも、プレイしたくねえだろうな)
ただ、誤算もある。彼がどんなドムか詳しく知ったために、迂闊にプレイに持ち込めなくなった。
プレイで満たし合えなければ、運命のパートナーとはいえない。
どうしたものかと逡巡していたら、テーブルにゆったり伏せた真王が、
「家族だって支配関係なのに、夕夜さんは他人の俺を利害関係なく、人肌であっためてくれたっけ?」
と話題を変えた。手に手を重ね、湿度の高い眼差しも向けてくる。これは――。
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