完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@中華BL発売中

文字の大きさ
上 下
42 / 67
5章 筋書きならお任せください

14話 第二王子の篭絡④

しおりを挟む
「むしろ私がエドゥアルド・ミロシュではないという疑いが?」

 怪我の残る「公爵」を、ふかふかの寝具を敷いておいた寝台に導く。わたしは長椅子に腰を下ろし、燭台を挟んで向かい合った。
 傍らに寄り添いたいが、彼に一周目の記憶がなければ驚かせてしまう。自制して、先に問いに答える。

「一周目のあなたは、わたしの知る『公爵』は死んだとおっしゃいました。身体は『公爵』ながら、意識は違うと。『公爵』らしからぬ言動をされましたし、『公爵』ならご存知のことも……知らないご様子で」
「待って。一周目?」

 「公爵」が目を見開く。それでも一周目のわたしよりは知識がありそうだ。端的に切り出す。

「わたしも、三か月後に死にます。死にました。そして方法は不明ですが、この日に戻ってきたのです」
「えっ!?」

 「公爵」が叫ぶ。十二回やり直しているという彼でも新鮮に驚いたようだ。

「そう、か。それで、僕の名前を呼んでくれたんだ」
「……ソーマ?」
「うん。ふたりでいるときは、そう呼んで。敬称もいらない」

 ソーマは噛み締めるように返事をする。魔法の呪文でなく、彼の名だったのか。
 彼は最期に名を呼んでほしがった。わたしも公爵やソーマに名を呼ばれて嬉しかったので、共感する。

「ソーマ、と、エドゥアルド公爵は、別人ですね?」
「どこから話そう。僕は、別の世界のしがない公務員……国に仕える仕事をしていた男だ」

 ソーマが彼の素なのだろう、くだけた口調で話し始める。彼が話す番だ。

「毎日激務で、いろいろあって、この世界に転生して……今日、『公爵』として目覚めた」

 やはり蘇生を機に別人になっている。
 十年来の想い人は、亡くなったのだ。
 にもかかわらず、一周目ほど気落ちしていない。

「君のためなんだ」
「わたしの死亡ふらぐが十二個あるのでしょう?」
「一周目の僕は君に情報共有したの?」
「はい。ただし一部のみです。あなたはわたしが傷つかないよう、大切ないくつかを話してくださらなかった。わたしもあなたに頼るばかりで、きちんと知ろうとしませんでした。きっとそれが十三個目のふらぐです。壊すために、今回はわたしの疑問にひとつひとつ答えていただきたいです」
「……何だか申し訳ない。ワカリマシタ」

 わたしの圧にたじろぐ様子で、ソーマが了承する。
 ただ、顔も声もエドゥアルド公爵そのものなので、過去十年間との落差に慣れない。

(公爵が下手したてに出る展開の戯曲はないですね。創作意欲が……ではなく!)

 咳払いして、薄水色の書皮カバーを掛けた手記を取り出す。一周目の記憶と疑問点を記してある。

「次に。わたしは実際に十二回死んでいるのですか? 一周目のように」

 声が震えた。婚約式での後悔と憤りを思い出すと、勝手にこうなる。
 清潔な白い寝間着に着替えたソーマは、答える前に身を乗り出してきた。長い腕でわたしを引き寄せ、寝台に載せる。

「大丈夫だ。私が君を守る」
「……はい」

 彼の体温に触れると、全身に波及する震えが止まった。それを確かめた上で、ソーマが改めて口を開く。

「ユーリィは十二回死んでいるとも言えるし、一回も死んでいないとも言える」
「ソーマが時間遡行して、やり直しているから」
「……まあ、そうかな」

 はぐらかそうとではなく、本当に説明が難しいという歯切れ悪さだ。

「しかし、一周目は魔力の封印を解いていなかったのに、どうしてやり直しが可能なのでしょう。それが『びいえるげえむ』なのです?」
「ビー、えっ!?」
「この世界は男性同士が結ばれる物語の舞台だと伺いました」
「一周目の僕め……でも、うん、おまえを信じる」

 再び叫んだソーマは、手で口を押さえ、そのまま固まった。
 わたしはきょとんとして待つ。

「ゲームだからじゃ、ない。異世界転生による。物語の中と外を行き来する……ある意味、別の世界の魔法というか」

(物語の、中と外)
 「テンセイ」、さらに「悪役」や「主人公」という単語の理解も、一周目より深まった。

「あなたは物語の登場人物でしかないわたしを、十二回も救おうとしてくれた、優しい方なのですね」
「そうだけどそうじゃないよ。君は物語の中で本当に生きてる。今みたいに。僕にとっては、はじめて僕に優しくしてくれた人だ。厳密には公爵に、だけど。そして、絶対に幸せになってほしい人だ」

 真剣に射竦められ、指先が甘く痺れる。
 ……ああ。ソーマのわたしに対する言葉も視線も仕草も、一周目は戸惑うばかりだった。なぜこんなに切実で、必死で、時にひどく怖がるのか、想像もつかなかった。
 きっと十二回、いや十三回とも愛してくれて、十三回とも喪ったからだ。

 わたしもソーマをどれほど想っているか伝えたいが、聴取が先だ。書きつけるべく黒檀の万年筆を握る。

「各回の、わたしの死の状況をお聞かせください。共に対策を立てましょう」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

わからないから、教えて ―恋知らずの天才魔術師は秀才教師に執着中

月灯
BL
【本編完結済・番外編更新中】魔術学院の真面目な新米教師・アーサーには秘密がある。かつての同級生、いまは天才魔術師として名を馳せるジルベルトに抱かれていることだ。 ……なぜジルベルトは僕なんかを相手に? 疑問は募るが、ジルベルトに想いを寄せるアーサーは、いまの関係を失いたくないあまり踏み込めずにいた。 しかしこの頃、ジルベルトの様子がどうもおかしいようで……。 気持ちに無自覚な執着攻め×真面目片想い受け イラストはキューさん(@kyu_manase3)に描いていただきました!

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

処理中です...