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4章 それもこれも初耳ですが?
11話 婚約式前夜のすれ違い②
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「身体は公爵だ。記憶はあるが、意識は違う。ただ『僕』かというと……」
わたしの問いに、公爵も考え込むふうだ。
意識は違う? 「君の知る『公爵』は死んだ」という一言と合わせると。
蘇生を境に言動――特にわたしへの態度が変わったのは、秘めていた一面を出すようになったのではなく、別人になったということか。
(わたしの、想い人は、死んだ?)
寝台から飛び降りた。黒檀の万年筆を取って戻る。黒髪紅眼の男に突きつける。
「これを憶えていますか。わたしにくださったときのことを」
「私が君に贈ったのか?」
十年も前の、第二王子とのひとときなど忘れた、のではなく。そもそも知らないという口ぶりに、身体の芯が冷えていく。
「ユーリィ、原作では私たち二人のストーリーはほぼなく、」
「触らないでください。あなたは誰なのです」
伸びてきた手を押し返した。目の前の男が誰ともわからず、怖い。
葬儀洞でわたしの名を呼んだのは、いったい誰なのか。
(謎の魔法遣い……?)
事態の深刻さを察したらしい彼の顔から、色がなくなる。
「申し訳ない。私と結ばれるのが生存条件かもと、調子に乗った。九回目を忘れるな……」
ぶつぶつ言いながら、襯衣の釦を留め直していく。ひどく傷ついた様子だ。
わたしは我に返った。彼を、この三か月を否定したかったわけではない。わたわたと補足する。
「わたしの中で整理がつかず、」
「わかっている。私は君を無理やり手に入れようとは思わない。本物の公爵は止めないかもしれないが。今さらこれしき、堪えない」
彼は公爵の顔でひっそりと笑う。公爵らしくない自嘲に、彼の悲壮な決意が見え隠れする。
「明日は君の大切な兄の大切な日だ。ゆっくり眠って備えるといい。ああ、万一ニコかステヴァン殿下が訪ねてきても、決して中に入れないように。よいな?」
公爵は何とも言えない空気を残して、去った。引き留める間もない。
(こんなつもりではなく……ただ知りたかったのです)
彼が腰掛けていた辺りの寝具を撫でる。温もりは残っていない。
情報は多く難解で、わたしの世界が変わり過ぎて、理解も感情も追いつかない。
公爵がわたしを見てくれたかと思いきや、戯曲みたいにはうまくいかない。
去り際に、普段の公爵とはかけ離れた深呼吸がないのが、今や物足りなかった。
婚約式が終わったら、改めてあの人と話をしよう。
わたしの問いに、公爵も考え込むふうだ。
意識は違う? 「君の知る『公爵』は死んだ」という一言と合わせると。
蘇生を境に言動――特にわたしへの態度が変わったのは、秘めていた一面を出すようになったのではなく、別人になったということか。
(わたしの、想い人は、死んだ?)
寝台から飛び降りた。黒檀の万年筆を取って戻る。黒髪紅眼の男に突きつける。
「これを憶えていますか。わたしにくださったときのことを」
「私が君に贈ったのか?」
十年も前の、第二王子とのひとときなど忘れた、のではなく。そもそも知らないという口ぶりに、身体の芯が冷えていく。
「ユーリィ、原作では私たち二人のストーリーはほぼなく、」
「触らないでください。あなたは誰なのです」
伸びてきた手を押し返した。目の前の男が誰ともわからず、怖い。
葬儀洞でわたしの名を呼んだのは、いったい誰なのか。
(謎の魔法遣い……?)
事態の深刻さを察したらしい彼の顔から、色がなくなる。
「申し訳ない。私と結ばれるのが生存条件かもと、調子に乗った。九回目を忘れるな……」
ぶつぶつ言いながら、襯衣の釦を留め直していく。ひどく傷ついた様子だ。
わたしは我に返った。彼を、この三か月を否定したかったわけではない。わたわたと補足する。
「わたしの中で整理がつかず、」
「わかっている。私は君を無理やり手に入れようとは思わない。本物の公爵は止めないかもしれないが。今さらこれしき、堪えない」
彼は公爵の顔でひっそりと笑う。公爵らしくない自嘲に、彼の悲壮な決意が見え隠れする。
「明日は君の大切な兄の大切な日だ。ゆっくり眠って備えるといい。ああ、万一ニコかステヴァン殿下が訪ねてきても、決して中に入れないように。よいな?」
公爵は何とも言えない空気を残して、去った。引き留める間もない。
(こんなつもりではなく……ただ知りたかったのです)
彼が腰掛けていた辺りの寝具を撫でる。温もりは残っていない。
情報は多く難解で、わたしの世界が変わり過ぎて、理解も感情も追いつかない。
公爵がわたしを見てくれたかと思いきや、戯曲みたいにはうまくいかない。
去り際に、普段の公爵とはかけ離れた深呼吸がないのが、今や物足りなかった。
婚約式が終わったら、改めてあの人と話をしよう。
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