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イケメンと言われたそれは別世界の話ですので

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 さて私は今猛烈に悲しいきもちでおります。


「貴様、何処の者だ?許可証は持っているのか!」


 明らかに生真面目!と言った金のサラサラとした髪をなびかせ、青い瞳がキリッとした印象の眉を逆ハの字でこちらを睨んでいる軍人風のイケメンが私に剣先を向けている。


 事ではなく、隣でヒョウレベルまで小さくなられてしまったニャオラン様にです。
 ああ、象並の巨大な猫ちゃん…こんな普通になってしまって。
 何でもてっきり小屋の近くに新しい寝床でも作るのかと思いきやこのサイズになり、私の小屋に住うとかで、このありきたりなサイズになってしまいました、哀しい。


「聞いてるのか貴様!」


 ああ、すっかりがなり立てているイケメン?の存在を忘れてましたね。
 どうやら調査隊、とやらでこの生真面目な金髪以下数名が山に入って来たところを、今夜の食材を探してる私とばったり鉢合わせになり、何故かこうして高圧的に出られてるわけですが、はんっ日本の圧迫面接を乗り越えたOLを舐めるもんではありません。


「ふむ、僕はカッツ村出身で幻獣の研究者をしてる学者のユーリと申します。たしかこの山は幻獣様が納められている故、ここを挟む二国の幻獣様がお認めになられた人物から一つずつ許可証がないと山に調査に来てはならない、筈では無かったですかな?」


 私はあえて一人称を“僕”にし、女性らしさを潜めた話し方で、本に教えて貰った情報をすらすらと述べてゆきます。


「だから聞いておるのだ」
「残念ですが、僕は許可証は持っておりません」
「ならば不法侵入として拘束させて貰う」
「ニャオラン様から直にここに住う事を許して頂いている身ですので」
「は?」


 そう、私は許可証が無くても良い、本人に許された存在なのです。ひかえおろう。ああ、おつきが2人いたら日本で有名な長寿番組の様なことができると言うの、無念。


「なっ、それは誠か?」
「うむ、ワシ直々に保証しよう」
「ニャオラン様、お魚の確保はお済みで」
「やけに昨日から魚を押すな。ワシは肉も食えば木ノ実や野菜も食らうぞ。やはり猫と思ってるだろ」
「ははは、まさかまさか」


 そんなやりとりを見てイケメン他集団はポカンとこちらを眺めるばかりで、どう応えたものか考えあぐねる様子。仕方ない、こちらから仕掛けてやりましょう。


「そう言えば最近、軽くですがこの山を挟むどちらかの国で、飢饉が起きてるらしいですな」
「っ」
「国から逃げ出す者も出てるとか?貴方がどちらの国の者かはわかりませんが、貴方こそ許可証はもっているのですか?」


 予め簡単な情勢を本を読みつつせめてこの山を挟む二国ぐらいは、と把握しましていたのが役に立ちました。この山を挟んで南の国はともかく北の国が飢饉に陥りかけており、最下層の村人が少しずつ逃げ出しているらしく、それを追う部隊が編成されている様なのです。
 しかしそれはあくまで片方の事情であり、南の国には関係ありません。
 わざわざ山に登るのに、そんな理由で自国と関係ない問題に許可証を出すのか、まぁ難民問題とかあるかも知れませんが。

 それを踏まえて私は本を捲ります。

 答えはもちろんNO。



「……もって、いない」
「おや、案外あっさり認めましたね。あらかた僕を逃げ出した村人とでも間違えましたか」
「くっ」
「ここはまだ山の下層、さてニャオラン様もいらっしゃる様ですし、どうしましょうか」


 無論山の主人はニャオラン様だ、決定権はこの方にあるので私はこの小隊を委ねます。
 まぁめんどくさいのが大半ですが。


「お主に任せる」
「は?」
「誓いを破って侵入しているとは言え、今までも飢えて山に入る者もいないわけでは無かった。そんな者いちいち相手にしてられん」


 つまりニャオラン様も面倒くさいと?
 く、気まぐれ愛されニャンコめ。逆らえぬ、猫好きは気まぐれニャンコに逆らえぬ定め。仕方ありません、ここの結果は私が下す事にしましょう。


「僕はあなた方に何かを無す決定権も権力もありません。ニャオラン様がああ仰るのなら見逃しましょう」
「良いのか?」
「良いと何も、むしろなぜダメだと?」
「俺は貴殿に剣を向けた様な相手だぞ」
「はぁ」


 価値観の違いと言うやつでしょうか、俺ならこうはしないと言いたげにこちらを見つめる相手に私は首を傾げます。
 確かに剣先は向けられましたが、特に事件にはなってませんしねぇ。
 日本人の事なかれ主義、いや、事件が起こってからじゃないと騒がない体質?
 とりあえず面倒くさいので、早く帰ってご飯にしたい。


「まぁ、剣はむけられましたがそれだけでしたし」
「ううむ、おかしな奴だ。学者という者はこうものんびりした物か。しかし…感謝する。国の命令とは言え無許可で山に入ったのだ、どんな目に合わされてもおかしくは無かった」


 そうイケメン金髪が言うとピリリとした空気を纏っていた部隊の空気がゆるむのを感じました。
 どうやら彼らも国に逆らえずに嫌々派遣されてきてた様です。


「なら早めに山を降りられた方が良いですね。国にはニャオラン様の怒りに触れたと言えば許してもらえるでしょう」


 北の国の国王は短気だが、とても臆病な性格の持ち主だと本に記載される。脅しをかければ彼らが罪に問われる事も無いと思います…多分、知らんけど。


「重ね重ね感謝する。今更だが…申し遅れた、俺の名前はロータスと言う。貴殿が我が国に来られた際にはこの恩は必ず返そう」
「はぁ」


 キャラが180度変わってますね金髪イケメン改めてロータス殿。
 まぁイケメンイケメンと言ってますが、実は全然ときめいて無いのですが。
 いや、仮にも心は日本人なので堀の深い洋風の顔にときめけと言われても難しい物です。映画でも見てる気分ですからね。


「では我々は山を…」


 と、言い始めたロータスさん。おっとちょいとお待ちください、と肩を掴む私。火照る顔、ロマンスの予感ー


ーでは無く。


「ここに来るまでに軽く野草の毒にやられてますね?」
「は?」


 気が抜けたのもあると思うのですが、明らかに初見と今と態度が違いすぎて少し怪しく感じた私は本を捲り、ロータスさんが軽くこの山に生息する毒のある野草に触れてしまい熱を出している事に気が付きまして、まぁなんです。
 面倒くさい事は嫌いですが、見捨てるのも何ですので。


「毒消をお渡ししますから、これを飲んで今夜はゆっくりしてください。では、王様によろしくお伝えください」


 と毒消を持たせ帰らせました。
 いやはや、何処ぞの神様と違って私は優しいですね。


『本当しつれー!!』


 さ、雑音は無視して晩ご飯を手にした私はそのままゆっくり小屋に戻る事にしました。なんて呑気に構えて小屋に戻ります。
 この自分の行動が後に悲劇を生むとは知らずに。






「え、なんですこのテント」
「ユーリ殿、おはようございます。国王によろしくした所無事お暇をだされましてな!」


 ハッハット笑うロータスさん。ん、で?


「途方に暮れていた所、ユーリ殿に助けられたことを思い出し、その恩返しも兼ねて何か出来ぬかとまた山に登った次第です」


 グッと剣をこちらにむけて良い笑顔。私はちらりとニャオラン様を見つめました。


「肉が食いたくてな」
「狩ならご自分でも出来るでしょう」
「こう己が体が小さくなってはめんどくさい」


 クッソ!わがままニャンコちゃんめ。抗えぬ!抗えぬ!私は地に膝をつけ拳を叩きつけました。そして何とか


「宜しくお願いしますロータスさん」


 と、声を絞り出したのでした。



ー小屋周辺情報LV2


建物
学者の小屋。テント。

住民
ユーリ。ニャオラン。神の石像。ロータス。
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