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なにもしないために出来る事一、拠点を得よう
しおりを挟むとりあえずは、 地図で一番近くに人が住んでそうな場所を目指しながら僕はテクテク歩いていた。
地図を見た限り大きな、村というより町というのがしっくりくる場所のようだ。
そして今更ながら、カードの身分証の文字が知っている日本語のそれではない事に気付く。
それでも読めるんだから、これもチートの一つなんだろうな。
「うーんほんと色々便利だよね」
これなら日常生活に不便もなさそうだ。この力があればファンタジーな世界観でも、簡単に死ぬことも無いと思う。
しかし遠いな、結構歩いたつもりなんだけど一向に町まで自分を表すポイントが近づかない。
周りに小さな村みたいなものもなさそうだ。
しばらく拓けた草原を歩いていたが、危険な物にも遭遇する事は無かった。神様なりに気を使ってくれたのかもしれない。
町からは遠いけど。
しかしそんな考えも少しの間だけ、すぐに困った事態に出くわしたからだ。
「あー森かぁ」
そう、町に着くのには森を抜ける必要があったのだ。
しかも結構規模の大きな森で、中からギャーギャーと鳥の鳴き声か獣の声かが聞こえてくる。
一応整備は甘いが道みたいなものはあるので、人の使うルートではあるんだろうが。
それでも行くしかないので、チートを信じて進むことにした。
なにもしない。をする為にも拠点は必要なのだ。
例えば、なにもしない為に雨風をしのげる屋根とか、僕が飛び込んでひたすらゴロゴロするベッドなど。
まだこの世界の通貨がわからないけど、落ち着ける場所が欲しい。
相変わらず獣か良くわからないものの声?みたいなものは聞こえるが、何事もなく進んでいく。
しかしホッとしたのもつかの間
「た、助けてくれぇ」
そんな声とともに小太りの親父さんが草むらから飛び出してきた。身なりが結構良いので、良くいうお貴族様とか言う奴だろうか?
「へへ、この道は人の往来が少ねえ、助けなんて…」
いかにも悪そうなやつら数人が一緒に現れ、僕と目が合う。
助けを求めてきた親父さんは、人のいる事に希望を見出した後一気に僕の容姿を見て絶望的な顔をして、悪い奴らは明らかに残念だったな、と顔を歪めて笑った。
いや、僕の容姿本当にどんな姿なの?早く確認したい。
それと悪い奴らが剣を手にジリジリ近づいて来ている。待って超怖い。
自慢じゃないがさっきまで平和な日本にいた社畜である、こんな状況に投げ出されて平気で入れるわけがない。ちょ、どうにかして!?
ースキル・恐怖遮断をセットしました。
お、怖さがなくなった!よしこれでチート能力宜しくこいつらを…って、やはり無理だ、僕はゲームとか凄く苦手だし運動も下手だった。
いやー基本そのシステムのあるゲームの戦闘は、基本オートモードにしてたんだよね。
よくある、ここは慣れ親しんだゲームのような世界!ならばそんな風に戦えば!なんて状況であってもクソゲーマーの僕じゃ、戦闘は無理だ。積んだ。
そう思った瞬間だった。
ーオート戦闘に設定しました。
「へ?」
情けない声をあげたところで勝手に体がガクン!と動く。
流れる動きで敵の1人に突っ込んでいくと、不意を突かれたそいつの腕をねじり上げ剣を奪う。
そのまま剣を振り上げー
(待って待って!殺しはNG!!)
ースキル・手加減をセットしました。
残りの悪党どもに斬りかかると、上手いこと手の甲や腕に致命傷にならない剣撃を与え剣を落とさせる。
その後首の後ろをトントントンッ!と次々に柄の部分で殴りつけ全員を気絶させた。
おぅなんてこった。
信じられない自分の動きに呆然とする僕と、え?あいつが?嘘?と同じ顔をしてる親父さん。
しばらく僕らはお互い顔を見つめ合うと、先に動いたのは親父さんだった。
「あ、ありがとう!あんたは命の恩人だよ!」
手をガシッと握りしめ感謝を述べられる。結構力が強くて痛い。
話を聞いてみれば良くあることで、この道は一部の商人が使う町への輸送ルートらしい。
親父さんは商人らしく、身なりが良かったのはそこそこ大きな商会の会長さんだったからだそうだ。
お互い簡単に自己紹介をする。
親父さんの名前はヤックさんと言うらしい。
本来なら護衛をつけているのだが、その護衛が盗賊グループの一味だったらしく、いっぱい食わされたヤックさんは口封じの為に殺されそうになったのを命からがら逃げ出して、僕に出会ったそうだ。
「いやーしかし本当に助かったよ。しかし君みたいな手練れがまだ村から出てきたばかりなんてね。やはり一旗あげようと?」
話の成り行きで町を目指しているという話を聞いたヤックさんは、お礼とばかりに馬車に乗り合わせてくれた。
あの連中はヤックさんを殺して馬車ごと奪おうとしていたらしく、馬車や馬に被害がなかったのだ。
勿論連中はぐるぐる巻きにして動きを封じ込め、町で衛兵に引き渡す為に荷台に転がしてある。
「まぁそんな所です」
ちなみに僕はと言えば、カッツ村とはかなり辺境の村であるらしく、その腕でひと旗上げる為に田舎から都会に向かう途中の旅人と言う位置に落ち着いていた(と言うか勝手にヤックさんが勘違いした)
「なら、ヤーマンの町は打って付けだぞ。城も近いので栄えてる、情報も通り易いし噂が城まで届けば王宮騎士も夢じゃないかもしれんな」
わはは!と上機嫌に笑うヤックさん。いや、そんなに目立ちたくないです。
でも栄えてるなら衣食住に困らなさそうだ。
うんうん、とりあえずなにもしない為の拠点はやはり当初の目的地で良かったみたいだ。
ヤックさんと適当に話をしていると、半日も掛からずに町についた。馬車最高だね!
この世界観特有の身分証が無い!?なら球に手を当てろ!みたいなイベントも特になく身分証のカードであっさりヤーマンの町に入ることが出来た。
なにやら細かいやりとりも、ヤックさんが話してくれたようだ。
聞いていた通りに確かに大きな町で建物が多く人もたくさんいる。
この世界に来て本当に異世界に来たんだなぁと実感が湧いてくる。
ありきたりな表現だけど、建物もどこか中世を思わせる煉瓦造りの建築が多いように見受けられた。
街並みを珍しそうに眺めていると、大通りに出た所でヤックさんが馬車を止めた。
「じゃあワシ店に戻るよ。こいつらも衛兵に引き渡さなきゃならんしな。あんたはどうする?」
「いえ、僕は村から出てきたばかりなので、あまりゴタゴタしたことは」
「そうか。うん、しかし何か礼はせんとな。今はこの悪党どもと店の商品しか積んで無いからな、よし!何かあればノウリ商会を訪ねてくれ、なんでも力になるよ。あと宿を取るなら犬の肉球亭に行くと良い。あそこはぼったくらないからな」
馬車から降りる僕にそう言って、商店とこの町の地図、そして親父さんの名前の書かれた名刺のようなものと、宿の情報をくれたヤックさんは、馬車を走らせて去って行った。
その姿をしばらく見送ったあと、町の地図を広げる。
「さて、じゃあ拠点は暫く宿かな」
いつか家を買えれば良いが、物価もこの世界のこともわからない。
ヤックさんのアドバイスに沿ってとりあえず宿を取ろうと僕は歩き始めた。
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